SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.5, Dec. 1996, Article 3

高温超電導磁気分離の実証を目的とする共同研究開発契約を締結 〜 ロスアラモス国立研究所とエリーツ・マグネティクス社

 ロスアラモス国立研究所(LANL)とエリーツ・マグネティクス社(Eriez Magnetics, Erie, Pennsylvania)は、高勾配磁気分離プロセスへの伝熱冷却型高温超電導磁石を開発し、その有用性の評価・実証を目的とする共同研究開発契約を締結した。この契約を提案した LANL は、以前から従来型低温超電導(LTS)磁石を用いて汚染土壌の浄化の研究を行ってきた。
 契約締結に基づき、Eriez 社は将来、鉄心と鉄ヨークを持つ高温超電導(HTS)磁石システムを構築する予定である。鉄を用いるのは、磁石の発生磁界の増強と、かつHTS 線材の弱点−c 軸方向に印加される有害磁界−の効果的な低減が可能なためである。
■ LANL は ASC 社から HTS 磁石を購入
 LANL は既にアメリカン・スーパーコンダクター社(ASC 社)のHTS 磁石を購入し、共同研究開発を始めた。発生磁界は 1.6 T−45K、2 T−40Kである。LANL の超電導技術センターの Mark Daugherty 氏によると、Eriez 社が鉄ヨークを用いた設計で、発生磁界とその磁界形状を改善すれば、2T−45K も期待できる。このユニットは、20Kでの冷凍能力 9WのAPD二段極低温冷凍機で冷却されるであろう。  磁石の鉄部分の設計と製作に加えて、Eriez 社は、中心部分の磁気分離マトリックスとスラリー物質、スラリー供給装置などを供給する。Du Pont /住友電工/Aquafine の実証実験(Superconductor Week, August 6, 1996, あるいは, SUPER COM, Vol.5, No.4, 1996.10参照)と同様、この超電導磁石は、現在超電導システムとして唯一の大型産業磁気分離応用であるカオリン処理に実用の予定である。 ■ 鉄使用で発生磁界増大、HTS 線材中のc 軸方向磁界低減
 この実証研究は、HTS システムの発生磁界増強に鉄を用いた初の例となろう。設計担当の Eriez 社の Jerry Selvaggi 氏は、鉄使用の有用性を次のように説明している「鉄に囲まれたコイルは、無限に長いコイルのように振る舞う。だから、与えられた一定量の電流に対して最大の磁界を発生する。さらに、鉄は、粘土精製会社がすべて処理空間になって欲しいと思っている磁石内部空間に、均一磁界を満たしてくれる。発生磁界を強くするために、HTS コイルを鉄で包み、磁石内部に鉄心を置き、鉄心間のギャップを短くする」。
 Selvaggi 氏は、他の非常に重要な発見−彼らと海軍研究所との共同で最近 Cryogenics 誌上に発表(参考文献)−にも言及した。実験で確認したのだが、低温容器中の、鉄で完全に囲んだ HTS コイルでは、(線材の臨界電流密度を厳しく制限する)c 軸方向の磁界を低減できた。この c 軸方向磁界の悪影響は BSCCO の様々な応用にとって「アキレス腱」であったが、この鉄で囲む方法が、 HTS 磁石の動作温度や動作電流(したがって発生磁界)の改善を可能にする。Eriez 社と LANL の研究者はこの有用性を、今回の共同研究開発で実証する予定である。Eriez 社は彼らの発見に関して特許を申請している。 ■ Eriez 社は将来のHTS 磁気分離市場に注目
 1986年にEriez 社は、Huber 社(Huber Corporation, Georgia)のカオリン精製用の最初の LTS 磁石シス テムを製作・設置した。引き続き、さらに2台を製作。これらの内2つの磁石の常温径は 84 インチ(2,134 mm)、もう一つは 120 インチ(3,048 mm)であった。すべて液体ヘリウム中で動作し、LTS コイルは GA 社(General Atomics)が製作した。
 世界中では 40〜50 台の磁石が、カオリン産業で運転されている。最初は、上述の3台だけが超電導システムであったが、AC 社(Advanced Cryomagnetics, San Diego, California)が、銅電磁石を従来型 LTS 磁石で置き換え始めた。古い水冷銅電磁石システムはリプレース時期を迎えており、これからますます超電導磁石に置き換わるだろう。しかし、Selvaggi 氏は、カオリン会社は将来の HTS 磁石技術の進展を待つべきと考え、「高温超電導への関心は高まりつつある。私が見てきたその急激な進歩から推測すると、あと3年以内に 2T 以上で運転できる大型 HTS 磁石磁気分離システムが出現すると思う。 HTS 線材は1ヵ月単位で高性能化しているから」と語った。
 最近の高価な HTS 線材については、Selvaggi 氏は「現在の極低温システムにおける冷凍機部分は、少なくとも50万ドル(約5千万円)であり、線材とコイルが高価でも、極低温冷媒を使用しない簡素化システムは、これを補って余りある。重要なのは無冷媒であることだ」と語った。
■ 磁気分離市場は将来急速に成長、Selvaggi 氏語る
 「磁気分離市場は将来急速に成長する。その大きな理由は、公害防止の必要性である。私たちは、投資額と公害の両方を低減する磁気分離プロセスに興味を持った多くの企業から情報請求があった。昔、私たちが設置した1台のカオリン精製ユニットで、1トン処理当たり 9 ポンド(約 4.08 kg)の漂白剤が必要であったが、磁気分離によってこれを 3 ポンド(約 1.36 kg)に低減できた。カオリン精製メーカーは1トン当たり 3.6 ドル節約できた。1年当たりの処理は数百万トンである。経済性面のみでなく、広大な置場所が必要であった大量の残査を大幅に少なくできた。」と、Selvaggi 氏は語った。
 Eriez 社は水純化やその他の新しい磁気分離の応用も模索している。5TのLTS 磁石システムを同社の研究所で運転し、様々なスラリーへの磁界の効果を研究している。
 金材研・電総研の小原健司氏は「まだ実用化されていない多くの応用領域に加えて、現在すでに電磁石あるいは永久磁石による磁気分離は、微粒子の分離、浄化、濃縮などに利用されている。日本での代表例は、研究廃液や、製鉄排水再利用水の浄化装置あるいは硝子研磨スラリーの再資源化装置などである。今後、これらの浄化や濃縮などに強力な磁気力を必要とする用途では、無冷媒超電導システムが、超電導・高磁界化を促進していくであろう」とコメントしている。

(流水)


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