SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.1, Feb. 1996, Article 3
溶融バルクを使った超電導モータで電気自動車の走行に成功
1996年1月1日付の読売新聞によると、トヨタ系の大手自動車部品メーカーであるアイシン精器系列の研究法人(株)イムラ材料開発研究所(愛知県刈谷市、石井正己社長)の岡徹雄氏らは名古屋大学工学部結晶材料工学水谷宇一郎教授らと共同で高温超電導バルクを使った高温超電導モーターを開発し、これを搭載した電気自動車の走行試験に世界で初めて成功した。今回の実験では小型のゴルフカーが走行できる程度の出力を確認できたが、将来超電導体の改良によってはさらに大型のモータを実現できる可能性をもっており、擬似永久磁石という超電導溶融バルクの一つの応用が目に見える形で提案された。
通常の直流モータでは永久磁石や電磁石の作る界磁の中で、電機子に電流を流してそのローレンツ力でトルクを発生させるが、界磁と電流の積がトルクに比例するので磁場の強化はトルクの強化に直接つながる。電機子電流を低く抑えれば、モータの体格はそのままで高出力なモータを実現できることになる。今回の超電導モータではこの界磁に当たる部分に、液体窒素で冷却したY系溶融バルクを磁石として組み込んで利用したところに特徴がある。超電導バルクによる擬似永久磁石は通常の永久磁石とは異なった原理で磁場を捕捉するため、永久磁石や電磁石では達成できない強力な磁場の発生源として期待できる。この超電導モータはすでに本誌Vol.3, No.5 1994.12に掲載されているが、今回はバルクの性能向上によってモータ出力が向上した。
溶融法による高温超電導バルクはY系123相の母相にY系211相が微細に分散した組織を持ち、ピン止め効果による高いJcをもつことが知られている。名古屋大学とイムラ材料開発研究所は予め合成したY系123相粉末とY系211相粉末を混合して、ピン止め効果を生むY系211相を直接分散させる独自の方法を研究開発してきており、微細な211相の添加に伴い、高いJc が得られることを報告している。さらに 溶融状態でY系211相の粒成長を抑制するために、融点直上の比較的低温での熱処理を特徴としている。また種結晶を試料中央に設置して、結晶方位が試料表面に垂直に向いた疑似単結晶の形状に成形したことも優れた磁場特性を生む要因となる。これらの技術を活用してφ35の溶融バルクを合成し、モータに組みこんだ20個のバルクは平均的に0.45T の最大磁場が着磁されている。
溶融バルクはそのままでは磁場を発生しないので着磁して使う。これには液体窒素温度への冷却の後に、パルス電流でおこなっている。超電導体への磁束の侵入は試料の外側から起こって、試料全体に円錐状に分布する。パルス着磁法は簡便な着磁方法として注目されつつある。
超電導モータはディスク型プリントモーターを原型に(株)アイシンコスモス研究所の設計協力を得て製作された。相対する真空容器の中の液体窒素容器内に着磁コイルをまいた超電導バルク20個が設置され、真空容器間の円盤状の電機子に磁場を与える構造になっている。それぞれの真空容器には独立に断熱された液体窒素槽が装填されており、7リットルの液体窒素を積み、蒸発してなくなるまでの約5時間は性能劣化なく連続運転が可能とのこと。電機子電流は最大40A、最高回転数は6000rpm 、77K への冷却で2kW 、液体窒素を減圧して得られる65K では3.5kW の最大出力が得られている。
右:写真
(名古屋大学理工総研 山田裕)
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