SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.3 June, 2014


≪会議報告≫

2014年春季低温工学・超電導学会 (2014526~28 @タワーホール船堀)


Bi系線材】

Bi系の発表件数は線材特性3件、薄膜基礎物性2件、コイル応用2件、ケーブル応用4件であった。

住友電工の武田より、同社製品であるDI-BSCCOの高Je・低コスト線材開発と高強度化開発について報告があった。線材の厚さを0.23 mmから0.20 mmまで薄くすることでJeが約15%向上し、1 mあたりの銀使用量も低減できるため、低コスト化も可能であるとした。補強材に新素材である”XX”を用いたTypeHT-XXでは、77Kにおける引張強度が430 MPaに達しており、長尺の製造にも着手済みであることを報告した。九州大学の古川から、並列導体の電流容量に与える素線間相互作用について報告があり、線材の自己磁界を考慮に入れた解析法によって、線材配置によって変化する電流容量の定量化が可能になったとした。

Bi2212エピタキシャル薄膜におけるナノ構造欠陥とJcの関係について産総研の山崎より報告された。低温域では高Jcを示し、高温域で低Jcとなった試料をTEM観察により分析すると、c軸方向に沿った面状ピンが高密度で導入されていた。このサンプルのn値は低磁界領域を除いて低いため、熱的に活性化された磁束運動の効果を受けているものと考えられ、面状ピンとの関連を疑っている。宮城教育大の内山は、従来の有機金属溶液や有機懸濁液ではなく、安価で組成制御のし易い酸性イオン溶液を用いたスピンコート法によるBi系超電導薄膜作製について報告した。Bi2212の単相化に至っていないものの、90 K近傍で超電導転移が確認できている。

住友電工の上野は、20 MW級船舶用回転機を想定し、実機大の全長1,657 mm、幅357 mm、直線長1,300 m、総ターン数1,000ターンのレーストラック型コイルを作製し、通電した結果について報告した。フル励磁時、コイル直線部に発生する拡張力33 MPaに耐えうる補強構造とし、計3回のフル励磁試験を実施した。通電時に異常な電圧の発生はなく、解体後に確認した際にも外観異常はなかった。20 MW級回転機に今回の知見を適用するとした。住友電工の山口からは、クエンチ保護手法に関する報告がなされた。ミニコイルでの実験により、コイルを保護するためのクエンチ検出電圧と電流減衰時定数の関係を明らかにして、20 MW級回転機の実機サイズコイルでのクエンチ検出・保護実験に反映するとしている。

住友電工の大屋は発電機の引き出し線を対象とした22 kV/12 kA級大電流超電導ケーブル開発について報告があった。低コスト化のために超電導シールドを設けない設計を検討しており、今回は他相磁場によって発生する損失の解析がなされ、今後は、実測値との比較検証を実施し、低損失化の検討をしていくとした。

中部大の筑本は、石狩データセンターでの高温超電導直流送電システム超電導ケーブルの熱侵入の低減に向けて中部大学が開発したペルチェ電流リードの性能評価について報告した。東京電力旭変電所にて実施された超電導ケーブルの実系統運転成果について前川製作所の下田より報告があった。大きな異常なく運転を終えており、冷凍機の高効率化とメンテナンス間隔の長期化が今後の課題として抽出された。(住友電工 武田 宗一郎)

 

RE123線材】

九大の小野寺らは、人工ピンを導入したRE123線材の臨界電流特性に対して、磁束フローおよび磁束クリープの影響を取り入れた解析式を提案した。実験値によく一致し、このモデルの有効性が確認された。九大の田中らは、BaHfO3 (BHO)人工ピンを導入したRE123薄膜(RE = Gd, Eu)について、特に磁場中におけるJc特性を詳細に調べた。REとしてEuを用いた薄膜で特に高い特性(77 K, 3 TにおいてJc = 0.42 MAcm-2)が得られた。また、温度−磁場平面上にカラースペクトルで等Jcマップを示し、Jcの定量的な可視化を可能にした。九大の西浦らは、Gd123線材の曲げ径を連続的に変化させて特性の変化を評価した。超伝導相に圧縮力がはたらいても特性の低下は見られなかったが、引張力がはたらく場合曲げ径が16 mm以下でIcの低下が見られた。名大の三浦らは、低温成膜(LTG)法を用いてBHOナノロッドを導入したSm123薄膜を作製した。LTG法を用いることで直径~5 nm程度の非常に微細なナノロッドを高密度に導入することに成功した。このマッチング磁場は約10 Tであり、それに対応して低温におけるJc特性では10 T程度までプラトー領域が続いており、低温高磁場においてJc特性はPLD膜を大きく上回った。名大の吉田らは、縦磁界下におけるSm123薄膜のJc特性を報告した。BHOナノパーティクルを導入した薄膜のJc特性は低磁場~0.3 Tにおいて極大値を有しており、このJc特性の向上は縦磁界効果を反映したものであると考えられる。ノンドープやナノロッドを導入した薄膜ではこのような効果は見られず、縦磁界効果はBHOパーティクルの磁束ピンニング特性により引き起こされたと推測される。

東大の元木らは、フッ素フリー(FF)MOD法を用いて、ClドープY123薄膜を作製した。FF-MOD法においては配向膜の作製の困難であったSn, Zr, Hfなどの不純物ドープ薄膜を、Clと共ドープすることにより配向させることに成功した。これにより最大ピン力密度はノンドープの薄膜に比べて最大2倍近く改善した。また、Clad金属基板上への薄膜作製の展開を報告した。九大の寺西らは、BZO添加MODY123薄膜を作製し、電気抵抗測定による結晶成長過程の考察を行った。本焼前に温度保持過程を導入することにより、導電率の挙動に明らかな差異が認められ、Y123の結晶化温度が低温にシフトする傾向が明らかになった。熊本大の上瀧らは、PLD法を用いてBaMO3 (M = Sn, Zr, Hf)を三次元ピンとして導入したBMO / Y123擬似多層膜を作製し、評価した。特にBSOを導入した試料で全磁場中において最も高いJcを示し、Jcの磁場印加角度依存性も低減した。熊本大の古木らは、Gd123線材の膜面に対して角度を付けて重イオン照射を行うこと(c軸に対する角度をiとするで広範囲の磁場方向での高Jc化を目指した。270 MeVXeイオンを照射し交差した柱状欠陥を導入し、Jcの磁場印加角度依存性を評価した。交差した一次元ピンのピンニング作用は、iを境に非対称な振る舞いを示すことを明らかにした。

名大の杉原らは、RE123に代わる超伝導材料として高圧合成により最高Tc ~95 Kが報告されているSr2CuO4- (Sr214)に着目した。PLD法で作製した斜方晶のSr213薄膜に酸素を導入して正方晶のSr214にすることを目指した。常圧下で酸素を導入するためにオゾンアニールを試みた。逆格子マッピングの結果から、オゾンアニールにより正方晶構造となったが、超伝導の発現には至っていない。(東京大学 元木 貴則)

 

RE123バルク】

Y系バルク(1)」のセッションでは着磁に関する研究を中心に6件の発表があった。淡路マテリアの関らは鉄系形状記憶合金により締結補強することによるバルク体の耐熱衝撃性の向上、バルクの重ね合わせによる捕捉磁場特性の改善について報告した。新潟大からは3件、パルス着磁に関する発表があった。太田らは複数回パルス着磁において、M字型分布の変化が磁束侵入や捕捉磁場に与える影響を評価した。岡らは種結晶を2つ用いたバルクが低い印加磁場でのパルス着磁でも高い捕捉率を示すこと、Y211の少ない部位から磁束が侵入することを報告した。渡辺らはバルク内に流れる電流を導出し、パルス着磁過程に及ぼす影響について数値解析を行い、実験値とよく一致したことを発表した。足利工大の横山らは捕捉磁場向上を目的として作製した細孔バルク体の着磁特性を報告した。岩手大の望月らは、Gd系バルクとリング状MgB2バルクを組み合わせたハイブリッドバルクのパルス着磁特性について調査した。それぞれの着磁特性から検討した最適条件で着磁したところ、単体の場合よりも捕捉磁場の減少が見られたことを報告した。Gd系バルクからの漏れ磁場や MgB2バルクの発熱の対策が今後の課題である。

Y系バルク(2)」のセッションではバルクの作製に関する研究やバルクの磁場特性に関する研究があり、合計で5件のRE系バルクに関する発表があった。東大の栗山らは、バルクの大型化に有効であるマルチシード法を用いた際の問題として粒界におけるJcの低下を挙げ、粒間Jcを改善する手段としてYサイトへのCaドープを行った結果を報告した。東大の瀬戸山らは、斜方晶性というパラメータを用いてRE/Ba固溶量を評価し、適度なRE/Ba固溶がピン力強化に繋がり、またRE混合によりRE/Ba固溶が制御されていることを報告した。東大の山木らは、Gaを微量添加したY系バルクの低温、高磁場下でのJc改善にはオーバードープが有効であることや電子線照射による照射欠陥はa-growth領域よりもc-growth領域で有効であったことを報告した。鉄道総研の福本らは、リング状バルク超伝導体の積層数を増やすと磁場強度と均一度が高くなるとしながらも、コンパクトなNMRの実現に向けて、少ないバルク超伝導体で高い磁場の均一度が得られるマグネットについて検討した結果を報告した。日立の松田は、円筒型のバルク体に磁場中冷却法で着磁を行った際のシミュレーションの結果について報告し、円柱状バルクでは考慮していなかった厚み方向の電流分布を考慮することで、良好に再現できたことを示した。

また、ポスターセッションでは「超電導バルク」のセッションで、岩手大の内藤らがEu系バルク材の熱物性値を測定した結果を報告しており、SUS304リングの熱収縮率よりもEu系バルクのab面内方向の熱収縮率が小さいため、Eu系バルクにおいてもSUS304リングによる補強効果があることを示した。

新たな応用としては「NMR応用」のセッションで理研の金らがREBCO線材よりも低融点のREBCOバルクを介した線材接続を提案した。これまで研究された線材同士を直接接合する手法よりも短時間での接合が可能であるが、線材間のIc向上が課題である。(東京大学 瀬戸山 結衣、山木 修)

 

A15線材】

A15線材に関する発表は1セッション、3件あった。このうち1件はNb3Sn線材の新しい製法に関するもの、1件はリアクト後にジャケッティングする新しい核融合炉用集合導体の開発に関するものであり、最後は筆者よりNb3Al線材の特性に関して発表した。

 1件目は太刀川氏よりCu-Zn母材を用いた内部スズ法Nb3Sn線材の開発について報告であった。Znの効果を利用した製法としては、以前からCu-Zn-Sn母材を用いたブロンズ法が検討されており、最近も本低温工学・超電導学会で何度か報告されている。Znはブロンズ中でも拡散速度が速く、Snとの相互拡散を促すと考えられている。これまでブロンズ法ではSn仕込み量がCu-Snブロンズの固溶限によって制限されており、高Jc化が難しかった。従来の内部スズ法では、熱処理によりSnが拡散するとその後にボイドが発生する問題があった。今回Cu-Zn母材を用いることで、熱処理によるボイドの発生を抑制し、Snの拡散を円滑にする等の効果が得られた。Znは熱処理後もマトリクス中に一様に残留しNb3Sn層には拡散しない。Nb3Sn層のSEM組織は均一で等方的な微細結晶組織であった。

 2件目はNIFSの高畑氏からで、最近取り組んでいるリアクト後にジャケッティングしたNb3SnケーブルにおけるIc評価結果について報告された。この方法では、36本撚りラザフォードケーブルを熱処理した後、摩擦撹拌接合を利用してジャケッティングされる。今回ジャケッティング後の導体から7本のサブケーブルを取り出し、Icの劣化がないか調べた。その結果、ジャケット被覆後Icは若干低下するものの、ほぼ期待値であった。低下の原因がジャケットによる残留歪みの影響であれば、実際の運転条件ではこの差がさらに緩和されるはずと報告された。

 最後は筆者(NIMS伴野)からNb3AlJcに対する前駆体線材中のAl層厚の影響について報告した。急熱急冷後に減面加工せず相変態させた場合には、JcAl層厚に対して大きな変化はなかったが、相変態前に加工を加えると、Al層厚の薄い方がJcの向上が顕著であった。Al層厚の薄い試料ほどボイドの量が減る傾向にあり、Al層厚が薄くなるに従ってNb/Al拡散反応が促進していると思われる。 (物材機構 伴野 信哉)

 

MgB2

MgB2関連の4つのセッションが組まれ、発表数は14(口頭発表10件、ポスター発表4)であった。線材、薄膜への炭素ドープやバルク磁石の高捕捉磁場化などに関する研究報告が多くなされた。

まず線材に関する発表について報告する。NIMSの藤井らはCドープしたMg(B,C)2粉末を用いて作製したex-situ法線材について研究し、酸処理による不純物除去、MgB粉末の添加により粒間結合が改善し、Jcが向上したと報告した。東大の水谷らはex-situ法における原料MgB2粉末の作製条件について検討した。微細B粉末を用い低温長時間熱処理して作製した原料 MgB2粉末は数100 nmの微細な粒径を持ち、それを用いて作製したex-situMgB2では焼結が促進されJcが向上したと報告した。NIMSの葉らは多環芳香族炭化水素のコロネンを炭素源として用いたMgB2線材について発表した。コロネンの添加によりJcは向上し、その物性からSiCなどと比較して有効な炭素源であることを報告した。東大の久良らは原料粉末にMgB4を用いたin-situMgB2の作製法について検討した。充填率が改善し、MgB4粉末の酸処理による不純物除去によりコネクティビティが向上したと報告した。京大の堀井らは電子ビーム蒸着法で作製したCドープMgB2薄膜の特性について報告した。B側の原料としてBB4Cを用いることによりEB薄膜中にCドープを行うことができたものの、Jc, Hirrなどの改善は見られずEB薄膜におけるピンニングに与えるCドープ効果を調べる必要があると述べた。九大の東川らは、磁性シースを有するMgB2線材の非通電評価手法について発表した。Tc直上の磁界分布からシース材の物性を有限要素法によって決定したのち、5 Kでの残留磁界分布からIc値を評価し、通電法では困難であった高Ic領域の特性評価に成功したと報告した。京大の松澤らは液体水素冷却MgB2線材の磁場下における過電流特性について発表した。過渡加熱法により得られる熱伝達曲線理論式を用いて、シースとコアの分流比、及び線材の抵抗率と電流の関係について報告した。抵抗率は抵抗の発生時に急上昇し、電流の増加に伴って勾配は次第に減少したと述べた。京大の茂田らは液体水素冷却MgB2線材の過電流特性の解析について報告した。入熱量の定め方の違いから数値解析と実験での差が生じたが、実験手法に伴う妥当な結果であり過渡加熱法による温度変化の正当性が確認できたと述べた。

次にバルクに関する発表について報告する。鉄道総研の富田らは、バルク磁石の捕捉磁場の径依存性、捕捉磁場の形状、減衰度に関して報告し、MgB2バルク磁石は応用に向けて期待が持てるとまとめた。東大の杉野らは、原料粉末の微細化によりMgB2の粒径制御を行い、粒径を<1 mとしたMgB2バルク磁石で表面磁場として最高記録の捕捉磁場3.72 T5 Kにおいて達成したと報告した。岩手大の吉田らは、前回の報告で14.1 Kにおいてバルク磁石2枚重ねの中心磁場で4.6 Tを達成したTiドープバルク磁石について微細組織観察を行い、捕捉磁場向上の機構の解明を試みた。Ti粒のまわりにTiB2が生成しており、これがピンニングセンターとなって捕捉磁場が向上しているが、MgB2の体積分率が減少するため5-20%Tiドープ試料ではJ­c-B特性、捕捉磁場特性の変化はなかったとの解釈をした。岩手大の遠藤らは、HIP法で作製したバルク磁石の捕捉磁場とシミュレーションとの比較を行い、おおよそ一致したと報告した。またシミュレーションでは径依存性は見られたものの厚み依存性は見られなかったことを報告した。鉄道総研の赤坂らは、バルク磁石の加工特性について報告した。バルク磁石に穴あけ加工を施したがクラック等は発生せず、特性も変化がなかったためMgB2バルク磁石の加工応用に期待が持てるとした。鉄道総研の石原らは、MgB2バルク磁石の磁化ヒステリシス曲線の測定と着磁過程の磁束密度分布を評価した。ヒステリシス曲線はほぼ点対称の理想的な曲線を描き、着磁過程においてほぼ均一なシールディング電流がバルク磁石全体に流れていると報告した。

(東京大学 杉野 翔、水谷 俊介、久良 智明)

 

【鉄系超伝導体】

鉄系超伝導体では口頭発表で7件、ポスター発表で2件の発表があった。口頭発表では11系で2件、122系で3件、1111系で2件の報告がなされた。

 まず11系は合成段階で超伝導層間に過剰鉄が生成し超伝導が抑制されるため、過剰鉄の除去が超伝導特性の向上に不可欠である。NIMSの山下らはFe0.8S0.2多結晶試料を電極に固定し、クエン酸水溶液中で電圧を印加することで過剰鉄の除去に成功し、電気化学反応が過剰鉄の除去に効果的であることを報告した。また過剰鉄除去の手法として、ジェック東理社の出口らはPIT法に適用可能である硫黄アニール法について報告を行った。多結晶試料に硫黄アニールを施すことで1×103 A/cm2程度であった従来のas-grown試料と比較してJc2桁近く向上し、線材化への応用が期待できると発表した。

 次に1111系について、NIMSの藤岡らは高いフッ素濃度を有するSmFeAs1-xOxの基礎特性に関する報告を行った。CsClを使ったフラックス法によって合成したSmFeAs1-xOx単結晶試料は57.5 Kと単結晶としては最高のTcを記録しているが、格子定数から算出したフッ素濃度は従来の2倍近くとなり高濃度のフッ素が導入されていることが示唆された。また残留抵抗比が大きく良質な単結晶であること、フッ素濃度の増加に伴い異方性が減少していくことなども併せて報告された。慶應大の飯原らはSm1111多結晶体のJcと磁場侵入長に関する報告を行ったが、本質的なの評価には実験の工夫が必要との指摘がされた。

 122系について、NIMSの高らは(Ba,K)Fe2As2線材についての報告を行った。一次焼成試料は高磁場下において4.3×104 A/cm2 (28 T, 4.2 K) の高いJcを示し、線材試料も3.2×104 A/cm2 (28 T, 4.2 K)であった。さらに16 T以上の磁場下ではNb3SnJcを上回っており、強磁場下においての応用が期待される一方で、微細組織では一次焼成試料と比較して線材試料の密度の低下がみられたと発表した。東大の辻岳らはBaFe2(As,P)2多結晶バルク体の超伝導特性と微細組織について、焼成条件やPドープ量が多結晶体の相・組織形成に大きな影響を及ぼし、高濃度Pドープ試料では不純物であるFe2Pやクラックの発生が電流パスを阻害していること、残留磁化法から算出したJcglobal4×103A/cm2 (5 K)であったことを報告した。成蹊大の三浦らはBaFe2(As,P)2薄膜に関してBaZrO3を添加した薄膜においてJcが向上し、自己磁場下では1.5×106 A/cm2 (15 K)と従来のPドープ薄膜の3倍を超える値を記録したと報告した。これはBaZrO3のナノ粒子が強いピン力を持っており、ピンニングセンターとして有効であることを示唆するものであった。

(東京大学 辻岳 千里)

 

【超電導応用】

HTS NMRのセッションでは4件の発表があった。そのうち1 GHzを超えるコンパクトNMRLTS+REBCOインサートコイルで実用しようとする計画では、1号機での精度が不十分だった経験を生かし、磁場補正技術を組み合わせることにより、0.6 ppmの高い磁場均一性を実現したとの報告があった。これはNMR測定を行う前に、チラー停止により消磁してしまったため、再度磁場補正を行うとのことである。

装置設計のセッションでは、SMES、超電導ケーブル、超電導フライホイール、分離装置について、5件発表があった。SMESでは、J-PARCの主リング電源増設時の負荷変動を平準化するための導入検討が報告された。超電導ケーブルではシールド層を設けない交流ケーブルの検討結果が報告された。超電導フライホイールでは、大型化・高回転化を目指して、従来の磁気カップリングの代わる、磁性流体真空シールの開発について報告があった。これにより、最大6000 min-1の回転においても、1 MWオーダーのエネルギー授受に目途が立ったため、今後は長期耐久評価をする予定である。分離装置では、流路断面形状やマイクロバブルが与える影響に関する実験・シミュレーションについて報告があった。

 石狩PJのセッションでは2件発表があり、PJの概要紹介と断熱管の熱侵入に関する発表があった。本PJは太陽電池と約500 mの直流超電導ケーブルで接続する回線1 (5 kA, ±10 kV)と、交流変電所付近からのkm級の交流超電導ケーブルで接続する回線2 (2.5 kA, 20 kV)の設置が計画されている。断熱管の熱侵入に関しては、冷媒の復路配管から輻射シールドを設けることで、ケーブル配管(冷媒往路配管)への熱侵入の大部分を復路配管側で受けることができ、ケーブル配管への熱侵入を0.04 W/mまで低減できることが報告された。

 非絶縁コイルのセッションでは、理研、千葉大のグループから2件、早大のグループから1件の発表があった。非絶縁コイルは、RE系コイルの熱暴走抑制手法として有望であると考えられており、積極的に研究が進められている。本手法の有効性の実験的な確認とともに、シミュレーションによる結果の報告がなされ、熱暴走時に通常時のマルチターンモードからシングルターンモードへの自動転移が起こり、自動収束することが示された。

 医療用加速器コイルのセッションでは、7件の発表があった。前3件は回転ガントリーの発表で、重粒子線がん治療装置の高温超電導化プロジェクトである。回転ガントリーは患部に合わせて重粒子線の方向を任意に変えるものであり、常伝導では重量が600トンと試算される。これを高温超電導化することで200トンでの成立を目指すとのことである。ビーム光学に基づきマグネット設計を行い、試作鞍型カーブドコイルを製作したとの報告があった。

 高温超電導冷却のセッションでは、前川製作所、東京電力、住友電工から3件の発表があり、ケーブル用のブレイトン冷凍機の開発状況や旭変電所での実系統連係運転中の冷却システム運用データの報告があった。

次期定常強磁場施設のセッションでは5件の発表があった。無冷媒25 T超電導マグネットのLTSコイルおよびインサートHTSコイルの要素試験についての報告があった。Nb3Snラザフォードケーブルを製作し、引張応力下での通電特性を評価し、要求仕様を達成。また、同線材を用いてコイルを製作し、電磁力下通電時のひずみ測定を実施した。5回の励消磁でトレーニングは終了したと考えられる。また、製作したGd123線材には777 MPaの引張応力を与えても、LN2下のIc変化は微小で、劣化は確認されなかった。一方、Gd123線材を用いてエポキシ含浸コイルを製作したところ、熱劣化が発生した。これは銅テープを共巻きすることで、劣化しなくなったとの報告であった。

コイルPJのセッションでは、三菱電機・東芝・京大のグループから4件、東芝・早大・北大・京大・阪大のグループから5件の発表があった。前者のグループは、3 TMRI超電導マグネット用の高温超電導コイルの開発状況について、小型試作モデルコイルの通電特性結果や、線材長手方向のバラつきの影響を解析した報告があった。後者のグループからは、10 T級のヒト全身用MRIの開発を目指し、極小口径10 Tコイルの設計試作や、巻線誤差が及ぼす不整磁場の評価結果の報告があった。

電力応用のポスターセッションでは、5件の発表があった。東大の熊谷らは、鉄道用直流超電導ケーブルに関して、真空断熱層からの侵入熱など、熱的特性やケーブル内の温度分布を解析した結果について報告した。冷却はGo-Return型で、冷媒の冷却は片方のケーブル端末部のみで行う。真空多層断熱層のSIにかかる圧縮力を考慮した侵入熱を設定し、超電導ケーブルの温度分布解析を行い、適用可能なケーブル長さと冷媒流量の検討を行ったとのことであった。東大の銭らは、鉄道用直流超電導ケーブルに関して、き電系を電気回路としてモデル化し、短絡事故が発生した場合の事故電流解析結果について報告した。路線は全長26.5 km5つの変電所を持ち、複線路線の上下線一括き電方式と仮定した。超電導ケーブル適用により、事故電流は大幅に増大するが、遮断器を全変電所の各出力に設置することにより、20.3 kAに制限することが可能になるとのことであった。九大の大坪らは、20 MVA級超電導変圧器に関して、突発短絡時における応答特性を解析し、最適設計を考察した結果について報告した。短絡後0.2秒の巻線温度の1ターン電圧依存性を求め、許容温度と1ターン電圧の関係を把握したとのことであった。九大の猿渡らは、洋上風力用15 MW級発電機に関して、EuBCO線材を用いて小型・軽量化を目指した設計検討について報告した。重量は常伝導発電機に対してほぼ1/4になる。小型化については、必要線材長が長くなることがわかったとのことであった。秋田県立大の二村らは、バルク超伝導体を用いた磁気浮上において、長時間継続する振動を抑制するために永久磁石に磁性流体を吸着する方法に関して、以前に自由振動に対する有効性を報告したが、今回は交流磁場による周期的な強制外力の場合の基礎特性を調査した結果について報告した。磁性流体の影響を考慮した連成振動モデルによって、磁性流体吸着の影響を簡易的に計算できることを確認した。

(鉄道総研 荒井 有気、山田 秀之、宮崎 佳樹、水野 克俊、石原 篤、赤坂 友幸)