SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.22, No.1 February, 2013


 

20 年を過ぎて    _ SUPERCOM 事務局_

 


 先号における発刊 20 周年の特集に対しまして、多くの方々から本誌への激励や超伝導に関する貴重な雑感のご寄稿を賜りましたこと、再び御礼申し上げます。この 20 年間、皆様から直接ご投稿いただいたり、興味深い進展や話題に対してご寄稿を依頼したり、さらには取材にご協力いただいたりしながら今回 120 号の発刊に至りました。長きにわたって発刊を継続できた理由としては以下の点が挙げられます。まず、多数の衝撃的なものを含めて様々なニュースが超伝導の世界に湧き続けてきたことが最大の理由であることは間違いありません。また、匿名記事や取材記事でしか扱えないような内容を含んだニュースも速報することができ、他の学会誌や情報誌と一線を画してきたことも今なお 1000 部を優に超える発行数を保ってこられた理由と見ています。さらに、本誌が完全なボランティアで成り立ったもので、無料配布、原稿料なし、というスタイルを保ってきたこともご執筆者の好意に甘えつつも、長続きできた要因です。
  さて、弊誌のバックナンバーは最終ページに示した Web サイトで 1992 年末の第 1 号より閲覧できます。目次タイトルを見るだけでも懐かしい話題に触れられ、超伝導を取り巻く内外の情勢の変化を感じることもできます。面白いことは、この 20 年間、バブル崩壊後の不況を長く引きずっていたにもかかわらず、それを感じさせない活力ある話題が次々を上ってきていたことです。超伝導物質開発は銅酸化物超伝導体の鉱脈が枯渇の気配を見せてきた前世紀末から一転、今世紀に入って MgB 2 や鉄系超伝導体といった実用材料開発研究に至る魅力を備えた新物質が登場してきました。一方、高温超伝導材料やその応用については、前世紀中の号にはやや背伸びした内容のプロジェクトや技術開発の記事が載っていますが、今世紀に入ってからはより地に足が付いた進捗が多く掲載されるようになっています。これは確かに好ましい流れです。しかし、逆に飛躍的な展開を示唆するようなニュースがやや乏しくなっていることも事実で、現在想定している延長線以下の材料機能向上とその応用の拡大に留まってしまうことが危惧されます。
  以下は、先号の特集に寄せられた 電力中央研究所の秋田調 材料科学研究所長からのメッセージです(ご本人の了解を得て、あえて本号に掲載させていただきました)。電力応用においてほぼ全種目に参加登録しながら、実戦への出場機会にあまり恵まれない超伝導技術に対する新しい考え方が示されています。

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電力システムにおける超伝導への期待>  東日本大震災以来、電力システムに関する色々な議論が行われている。この中には、スマートメーターなど IT 技術を駆使した新しい技術への期待も含まれているが、発電し、電力を送り届け、あるいは蓄積し、さらには有効に電力を利用するといったエネルギーサプライチェーンそのものに関する新技術の期待はあまり聞かれない。
  このような中で、超伝導技術を電力技術に活用する超伝導ケーブル、超伝導発電機といったアイデアは、具体的な技術開発フェーズに入ってからでも四半世紀以上が過ぎているが、まだ本格的な技術導入には至っていない。これは銅と鉄を中心とした従来電力技術が効率、経済性などの点から、新しい技術の参入を阻止するほど優れているためであると理解している。優れている点の一つとして、電流は銅を流れ、磁束は鉄を通るため、電流が流れる導体に過大な電磁力が加わらないとの点もあげられる。超伝導技術を電力システムに適用する場合においても、超伝導が得意なところは受け持つが、不得意なところは従来技術を含めた他の技術に任せてしまうといった大胆な技術的割り切りにより、新たな電力システム構築に寄与できるのではないかと考えている。
  このような中で SUPERCOM 誌は広範な超伝導情報を提供し続けており、新たなアイデアのヒントが満載されている。今後の継続的な発刊を期待したい。

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 新しい概念ではありませんが、超伝導直流ケーブルが新しい電力システムの一翼を担う可能性を持つことからにわかに注目され始めています。次ページの記事は新しい概念の直流超伝導ケーブルを提案するものです。このような純粋な学術的成果を背景とした新概念の材料、機器開発への展開は例が少ないと思われますが、専門外であったからこその大胆な提案と見ることができるのではないでしょうか。 今までには無い概念の材料設計や機器開発、応用に挑むといった記事も積極的に取り上げ、これに続くアイデアのヒントとなる情報をより多く提供することも 21 年目に入った本誌の役割と考えています。読者の皆様には感度の悪い本事務局のアンテナにかからない挑戦的な話題についても、情報をお寄せいただきますようお願いいたします。 (SUPERCOM 事務局補佐員 JAP)