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SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.21, No1 February, 2012

2012 年 “ 年頭のことば ” 　　　　　　　　　　　　　住友電気工業 ( 株 ) 　　佐藤謙一

　昨年は 1911 年に超電導現象が発見されて 100 年の記念すべき年でありました。また高温超電導発見から 25 年の年でもありました。四半世紀が過ぎ、高温超電導も実際に世の中の役に立つ役回りを演じる場面に遭遇することが出来るようになったことは関係する一人として感慨深いものがあります。 2012 年の今年は、超電導関連技術が“次の 100 年”における新しい発展のスタート台にたつ年になります。時代の要請に応えつつ新たな気持ちで取り組む研究開発により、超電導関連技術が 21 世紀の社会に大きな貢献を行っていくことを祈念したいと思います。
　超電導関連技術は、材料技術とシステム技術に関わる幅広い技術者の連合体が有機的に連携して始めて世の中に大きな貢献が可能となる複合的な技術分野です。私が経験から得た教訓なども含め日頃から考えていることを紹介させていただきたい。

材料技術者は全体像を把握し究極の性能を目指す

　材料技術者として大事なことは我々に与えられた材料の全体像を把握することと究極の性能はどこまで行くのだろうか、ということである。どんな富士山になるのか、を最初に指摘する材料研究者を大事にしたい。私なりに考えてみると、そこに富士山がある ( 究極の性能とは何か ) ということが大事で、登山ルート ( どうやって到達するか ) は一つではないからである。このような特性が実現できる、と判ればそこに至る登山ルートを探すことはしんどいけれど気持ちの上では頑張ることが出来る。
　その登山ルートとして大事なことは、新しいプロセスと材料設計の組合せが重要であり、また目標とするものが原理的に間違っていないのならあきらめないことである。思いで深い経験は、高温超電導線の加圧焼成技術の開発である。高温超電導材料は酸化物であり、基本的に脆弱で固い材料であるので、金属シースで被覆して長尺に加工できるようになったが、通常の製法では酸化物の部分の密度は平均で高々 85% 程度の相対密度であり、従って約 15% がボイドである。このボイドの部分が言わば欠陥となったり電気的・機械的性能向上のアキレス腱であった。 300 気圧の圧力を掛けて熱処理することにより、酸化物の部分の密度が真密度になり歩留や性能向上、また実験の再現性に大きく寄与した。セラミックスを高圧熱処理するのは言わば常識に近いことであり、後知恵で考えれば当然のことである。実はこの技術の完成には酸素濃度の高度な制御など 5 年の年月がかかるほど大変なことであった。小林慎一君を中心とする若い人たちの踏ん張りで高温超電導線を世の中に送り出すことが出来るようになった。方向性が原理的に間違っていなかったから、あきらめることなくがんばれることが出来たと思う。
　試作を繰り返す中で、データがばらつきだしたら、しめたものと思うこと。良い性能も悪い性能もデータがものすごいばらつきを示す時がある。これは、性能を制御する因子を捕まえていないからである。特性評価手法や計測法の進歩により最近は従来不可能であったミクロレベルでの特性評価が可能になってきている。素過程毎の制御因子評価が材料開発の王道であり、それをとばすと結局は回り道をしている例が多い。

システム技術者は課題解決型と新しいシステムコンセプトを可能とする両輪を目指す

　超電導関連技術は、①従来の技術では不可能であったことを可能とする、②従来の技術では壁にあたっていたことを解決する、③従来のコンセプトを大幅に転換する新しいコンセプトを提案する、というシステム技術者を待っている。超電導関連技術では超電導部分にのみスポットライトが当たることが多いが、これでは世の中に真に役立つ技術にはならない。非超電導要素技術や冷却などの要素技術と相まって始めてシステム技術として完成することが出来る。
　最近はロードマップを作ることが定着してきたが、ロードマップにより出口 ( 応用製品 ) と時間軸を設定することで、産官学の対話・協力をする上での共通の土台を作ることが出来る。ロードマップもどの山に登るのかをしめしたものであり、どうやって登るかは問うていない。アカデミアがサイエンスの基礎にしっかりと土台を作り、テクノロジーが企業価値の増大を生むような産官学の連携で良い循環を回すように期待したい。

夢を持ち、若い人の参加できる環境と場をつくる

　超電導関連技術は 21 世紀の最大の課題である地球環境の改善やエネルギー供給問題の解決、さらには医療をはじめとした社会生活の改善、リニア・電気推進船・超電導電気自動車などの交通・輸送ネットワークの変革など、私たちの身近な社会に貢献可能な技術であり、また室温超電導というワクワクするような課題も存在している。
　米国では、 Dept. of Energy, Dept. of Defense がそれぞれ Energy Frontier Research Center や Multidisciplinary University Research Initiative という新しい制度の中で室温超電導を目指すと思われる新超電導材料開発の強力な後押しをしている。我が国でも若い人たちがチャレンジできる環境と場の確保のため、経験の深いシニア研究者と政策立案者にも大いに活躍を期待したい。