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SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No1, February, 2011

バルク体を使用した小型で強力な簡易型超電導マグネット　　　　― 液体窒素冷却下で発生磁場 2.59 テスラを実証　　　＿鉄道総研＿

　財団法人　鉄道総合技術研究所（鉄道総研）は高温超電導バルク体を使ったコンパクトでモバイル性に優れた簡易型の超電導マグネットを開発した。実験においてボア径 45 mm の空間で 2.59 テスラの磁場空間の実現に成功し、 NMR (MRI) 分析器をはじめ、バルク体の着磁等、各種アプリケーションで活用できる供給電源不要で移動可能な卓上磁場発生装置として大いに期待される。この研究成果は M. Tomita, et al .: J. Appl. Phys. , 109 , 023912 (2011) に掲載された。　現在、市販されている汎用の超電導マグネットは、 NbTi や Nb 3 Sn といった金属系超電導線材を用いて作られているため、極低温域までの冷却が必要となり、冷凍機を含め装置は大型化となってしまう。もし、持ち運び可能な簡易型のマグネットが実現した場合、移動困難な汎用の超電導マグネットをステーション化し、そこで簡易型マグネットに着磁させることで必要な場所に磁場を移動させることが可能となる。
　 RE123 系の高温超電導バルク体は、①高磁場中でも高電流密度、②制御フリーで安定した磁気浮上、③コンパクトで強い磁場発生等の特長があり、実用上使用困難な温度と言われている 77 Ｋにおいても十分な電流密度を有している。つまり、バルク体の持つ特長を液体窒素冷却においても十分に活かすことが可能で、バルク体は簡易型のマグネットに適していると言える。
　今回開発された超電導マグネットの構造は、リング形状に加工し樹脂含浸加工を施した直径 87 mm 、内径 45 mm のガドリニウム系超電導バルク体が層状に重ねられ、内外周は FRP 容器に覆われている ( 図 1) 。さらに、外周 FRP と大気とはステンレスの真空壁で断熱されている。超電導マグネットのユーザーはできる限り、サンプル空間の大容積化を望んでいるが、穴の径が大きくなるに従い加工面積も増えてしまうため、表面の加工損傷箇所も多くなる。そのため樹脂含浸により補強を行い、長期の磁場の安定化を図っている。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　図 1 　簡易型超電導マグネット

　鉄道総研は 2004 年よりマサチューセッツ工科大学 ( MIT ) との間で共同研究を実施し、直径 45 mm 、内径 25.4 mm のリング形状樹脂含侵バルク体を使った NMR 開発を進め、今回の開発に携わった鉄道総研の富田優氏 ( 材料技術研究部超電導応用研究室長 ) は、 2004 年より MIT のマグネット・ラボに所属し、高温超電導材を使ったマグネット開発を担当している。
　図 2 のリング形状バルク体の積層数による中心磁場の変化から、 10 個積層した場合、中心付近で 2.59 T 以上の磁場が発生することがわかる。さらに簡易型超電導マグネットとしての機能を検討するために、直径 30 mm のバルクを用いて、今回開発した簡易型超電導マグネットで着磁した場合と、汎用の超電導マグネットにて着磁した場合の磁場分布特性について比較をしている。結果は双方全く同様の磁場分布を示し、バルク着磁用として十分使用できることがわかる（図 3 ）。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　図 2 　積層数による磁場の変化

　鉄道総研では、現在 RE123 バルクのバッチ方式による量産型の製造方法の研究や東京大学と共同で MgB 2 超電導バルク体の開発を進めている。 MgB 2 超電導バルク体の開発では、最近では 1.5 T の磁場捕捉にも成功し、 2010 年秋季低温工学・超電導学会にて報告している。このようにバルク材料の開発が進む中、アプリケーションへの展開も期待されているが、実用上不可欠な課題となっているのは着磁方法であると言える。今回、磁場源を保持し移動できる簡易型超電導マグネットの完成によって、アプリケーションで使われている現場でのバルクの着磁に関する課題が解決され、各種バルク応用が加速的に進展できるものと期待される ( 末広 )

参考文献 1: Masaru Tomita, Yusuke Fukumoto, Kenji Suzuki, Atsushi Ishihara, Miryala Muralidhar: ‘Development of a compact, lightweight, mobile permanent magnet system based on high T c Gd-123 superconductors ' J. Appl. Phys. , 109 , 023912 (2011) .

　　　　　　　　　　　　　　　　簡易型超電導マグネット　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　超電導マグネット

図 3 　着磁した超電導バルク体の磁場分布比較