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SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.18, No6, December, 2009

認知症研究用新型MRIモデルマグネット製作
＿東京大学、物質・材料研究機構、ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー(株)＿

　東京大学新領域創成科学研究科、物質・材料研究機構、ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー(株)(略称JASTEC)は、認知症の原因究明等への活用が期待される新しいタイプのMRIモデルマグネットを製作した。
通常のMRIでは、画像を得るための均一磁場空間をマグネットの中心に発生する。この均一磁場空間を、マグネットの中心からクライオスタット端面側にオフセットした位置に発生させることができれば、患者はある程度の視野を持つことができる。さらに、手足による作業が可能な状態で頭部のみのMRI観測が可能となる。その結果、現在広くおこなわれているBenton記銘試験(認知症判定試験)のような作業を伴う脳機能判定の試験を、MRI観測をしながら実施することができるようになるであろう。
　そこで、①均一磁場空間をマグネットの中心からクライオスタット端面側にオフセットした位置に発生できるか、②そのようにして発生した磁場では、設計値に対してどの程度の均一度が実現できるか、の2点を確認する目的でモデルマグネットを製作した。
モデルマグネットは、小動物の画像取得を考慮し、磁場均一度の設計上の目標を < 5 ppm @ 35 mm DSV とした。また、軸方向にオフセットした均一磁場空間を生成するため、複数のコイルを階段状に配置した。
全てのコイルは軸対称であるので、磁場均一度の zn 成分だけを考慮して設計を行った。MRIのように高い磁場均一度が要求される場合、複数のコイルのzn 成分の係数の和が0になるコイル配置を求める。本モデルマグネットも同様に、z の 1次　から 7次　までの各係数の和を極力0に近づくようコイル配置を検討した。


図1. 認知症研究用新型MRIの概念図	図2. 本モデルマグネットの外観

図3. 本モデルマグネットのコイル断面形状　　　　　　　　

Magnetic field	0.77 T
Field homogeneity as design	5 ppm@35 mm DSV
Operation current	90 A
Operation temperature	4.2 K
Conductor type	Cu matrix NbTi
Conductor size	φ0.5 mm, 0.6 mm, 0.7 mm
Cu to SC ratio of conductors	1.3
Inductance	2.7 H

　　表1. 本モデルマグネットの仕様

　所定の均一磁場空間を得るため、巻線時には巻枠とコイル間の絶縁シートの厚みを 0.1 mm 単位で調整した。コイル間の接続は超電導接続とし、永久電流モードによる磁場安定性を確保している。
　マグネットを納めるクライオスタットは、NMR用と同形状のもので、液体ヘリウムによる浸漬冷却方式を採用している。均一磁場空間はクライオスタット下部プレートから 211 mm に位置しており、室温ボア径は小動物の画像取得が可能なよう 89 mm とした。
　完成したモデルマグネットの磁場分布測定を実施したところ、図4に示したように磁場均一度はpeak to peak で 1231 ppm と設計値の 5 ppm を逸脱してしまった。これはコイル位置精度を確保したものの、作業上の都合から総巻数が予定と異なるコイルが生じたためと考えられる。このような製作誤差が生じることは経験的に予測されることであり、磁場均一度を改善する手段として磁性体シムを用いることとした。磁場分布は直径 35 mm の球面上をトラバースする形で 63点の磁場強度をNMR式磁場測定装置(METROLAB社製)で測定した。
　磁性体シムのサイズは12 mm × 6 mm で、室温部に置いた直径 78 mm の磁性体シム用ボアに貼り付けた。磁性体シムの貼り付け位置及び厚さは、磁性体シム使用量が最小となる最適化計算結果に基づいて決定した。尚、磁性体シムの厚みは 0.1 mm 及び 0.05 mm を用いた。
磁性体シムによる調整で、磁場均一度は図5に示したように165 ppm にまで改善できた。なお、図は35 mm DSVで実測されたBz成分を平面に展開して表したものである。今後も同様の方法で再度調整を行い、設計値の達成を目指す。

図4. モデルマグネットの磁場分布(改善前)　　　　　　　　　　　図5. モデルマグネットの磁場分布(改善後)　
　　磁場分布はpeak-to peakで165　ppm　　　　　　　　　　　　　　磁場分布はpeak-to peakで165　ppm

　本モデルマグネットにおいて、均一磁場空間が設計通りクライオスタット端面側にオフセットした位置に発生していることが確認できた。一方、磁場均一度は今後更に改善する必要があるが、同様の方法で改善可能な解を得ている。
　今後本モデルマグネットを使用して小動物の画像を取得する予定である。
本モデルマグネットの検証結果から、設計者は「今後、患者を想定したサイズにスケールアップし、認知症の初期段階診断用MRIとして実用化されることを願っている。これによって認知症の原因究明が進めば、治療が進歩するだけでなく、適切な介護という面においても貢献できると思う。そうなればマグネットメーカーとして大きな社会貢献であり、大変嬉しく思う。」とコメントしている。(I.M)

認知症研究用新型MRIモデルマグネット製作 ＿東京大学、物質・材料研究機構、ジャパン スーパーコンダクタ テクノロジー(株)＿

認知症研究用新型MRIモデルマグネット製作
＿東京大学、物質・材料研究機構、ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー(株)＿