超伝導用語事典



ギエバートンネル効果
Giaever tunnelling

超伝導体と常伝導金属又は超伝導体同士を非常に薄い絶縁膜をはさんだ接合に、準粒子のトンネル効果によって電流が流れること。このトンネル電流は、超伝導のエネルギーギャップの影響を受け特徴的な電圧の時に増大する。したがって、接合の電流ー電圧特性から超伝導帯のエネルギーギャップを測定することが出来る。超伝導体同士の接合の場合、クーパー対のトンネルによるジョセフソントンネル効果も観測される。


希釈冷凍
3He-4He dilution refrigeration

ヘリウムの安定同位体である3Heと4Heの混合液を利用し、3〜300mK温度を生成するmK温度領域における代表的な冷凍法。3Heが4He中に溶解する際の吸熱を利用する。装置は、冷却の起きる混合器、3Heを選択的に分留する分留器、熱交換器などからなる。3Heの循環速度をn[mol/s]としたとき、温度T[K]での冷却能Q[W]はQ =84nT2 (T <40mK)で与えられる。


気相法
gas phase process

構成成分を気体状態にし、基板上に堆積させて、薄膜を作成する方法、物理堆積法(PVD)と化学体積法(CVD)に大別される。PVDには、原子の衝突エネルギーを利用するスパッタリング法と原料を加熱する蒸着法(抵抗加熱法、電子ビーム加熱法、レーザー法、分子線エピタキシ法など)がある。CVDは、成分元素を気体状の化合物の形で基板上に運び、そこで分解反応を行うと同時に成膜する方法で、原料としては主に有機金属を用いる。


ギフォード・マクマホン サイクル
Gifford-McMahon cycle

作業物質として気体を使った蓄冷式冷凍サイクルの一種。G-Mサイクル。圧縮器、蓄冷器、ディスプレーサなどからなる。原理的に不可逆過程であり、熱効率は劣るが、汎用の圧縮器が使え、低温弁が必要なく、力のいらないディスプレーサを用いれば良いという、技術上の利点がある。このため多段化されたものが20K程度の温度域の小型冷凍機(1〜10W)に広く用いられている。


逆転温度
inversion temperature

ジュール・トムソン逆転曲線と同義


ギャップ間状態
in-gap state

超伝導のBCS理論では、S-波対形成を考えると準粒子励起にエネルギーギャップがあり、その中には状態が存在しない。ところが種々の理由でエネルギーギャップの中に状態が生じる場合があり、それをギャップ間状態と呼ぶ。その原因としては、次のようなものが考えられる。 @電子間相互作用にs-波以外の成分が存在することからギャップ内に束縛状態としてエキシトンが生じる。A磁性不純物を導入すると時間反転対称性が破れる結果ギャップ内に状態ができる。これは非磁性不純物の場合と顕著な対照をなしている。磁性不純物濃度を十分に大きくするとギャップ自体が消滅し、ギャップレス超伝導体となる。


ギャップレス超伝導
gapless superconductivity

超伝導体に不純物を入れると、それが磁性不純物か非磁性不純物かでその影響は大きく異なる。磁性不純物をドープすると時間反転対称性が破れ(k, σ)と(-k, -σ)の状態のエネルギーが等しくなる結果、転移温度Tcは下がりギャップの中に状態が発生する。さらに不純物濃度を増やすと準粒子スペクトルのギャップが消滅するが超伝導自体は生き残るという状態が実現する。これをギャップレス超伝導と呼び、エネルギーギャップの存在が超伝導の本質ではない事を如実に示している。さらに不純物濃度を増やすと最後にはこの超伝導も消滅する。


キャンベル法
Campbell method

超伝導体の交流応答測定法である微小交流重畳法の一種。交流磁場の振幅を変化させながら超伝導体に出入りする磁束を測定する事により、試料内部の平均の磁束密度分布・臨界電流密度に関する情報を得ることが出来る。


吸収冷凍サイクル
absorption refrigerating cycle

冷媒の蒸発潜熱を利用した冷凍サイクルの内で、溶媒への溶解度が低温では高く、高温では低いことを利用して冷媒の圧縮循環を行うもの。冷媒と溶媒の組み合わせとして、アンモニアと水、水と臭化リチウムが使われている。吸収器で溶媒に吸収された冷媒の濃厚溶液はポンプで発生器に送られそこで加熱され分離する。分離した冷媒は凝縮器と膨張弁を通り、蒸発器で熱を吸収する。溶媒もまた吸収器に戻りサイクルが完成する。吸収冷凍機の効率は低いが、廃熱の利用ができる場所に適している。


吸収冷凍システム
absorption refrigerating system

参考:吸収冷凍サイクル


急冷部分溶融法
quench & melt growth (QMG) process

磁束のピン止め中心としての常伝導析出物を含むY-Ba-Cu-O系超伝導材料の作成法の一つ。YBa2Cu3Ox焼結体を出発原料とし、まず、1400℃程度まで加熱溶解後、急冷し成型体を作る。次に1200℃まで再加熱し、徐冷する。超伝導相であるYBa2Cu3O7-δに常伝導相であるY2BaCuO5が微細に分散した試料が得られる。Y2BaCuO5がピン止め中心として有効に働き、77Kにおける臨界電流密度はゼロ磁場で〜105A/cm2, 1Tの磁場下で〜104A/cm2とかなり大きい。


強結合理論
strong coupling theory

BCS理論によると超伝導は電子ー格子相互作用を媒介とした電子間の有効引力によって引き起こされるが、その電子ー格子相互作用は無次元の結合定数λを用いて記述される。このλが1より十分小さい場合はBCS理論が適用できることが知られているが、λが1のオーダになると格子系のダイナミックス及び電子間のクーロン相互作用をあらわに取り込んだ理論を作る必要がある。これを強結合理論といい、鉛などの超伝導状態を見事に説明した。強結合理論はグリーン関数法によって定式化されエリアシュバーグ方程式を解くことに帰着されるが、電子の速度が格子の速度よりも十分速いことを前提としており(ミグダルの定理)、この遅延効果が理論の中で最も重要な役割を果たす。


強磁性超伝導体
ferromagnetic superconductor

磁性超伝導体のうち、低温で強磁性秩序が現れるもの。キュリー温度Tcで1次相転移を起こして超伝導は破れ、常伝導強磁性状態になる。HoMo6S8(超伝導臨界温度Ts=2.2K, Tc=0.65K)やErRh4B4(Ts=8.7K, Tc=0.9K)などが知られている。


凝縮体
condensate

相互作用している電子系においては相転移を起こして種々の秩序が発生する。例えば、電荷密度波、スピン密度波、超伝導などはその代表例である。そのような場合、電子系はばらばらに運動するのではなく、集団モードで運動する。例えば、電荷密度波、スピン密度波におけるスライディング運動や超伝導体における位相のダイナミックスを考える際に、このような集団運動が問題となるが、このことは秩序変数のダイナミックスを考えることと等価であり、系の運動の自由度として秩序変数を見た場合それを凝縮体と呼ぶ。


強制冷却導体
force-cooled conductor

導体の内部に流路を設け、そこに冷媒を強制的に循環させて冷却させる超伝導導体。冷却にはヘリウムが使われるが、循環中に蒸発して大きな圧力損失が生じないよう、相変化しない超臨界ヘリウムが用いられる。このような導体では周囲をステンレスなどのシースで覆うことができ、機械的強度や電気絶縁の面で優れており、大型高磁界マグネット用の導体として期待される。


強相関電子系
strongly correlated electron system

電子間に強いクーロン相互作用が働く場合、各々の電子は他の電子の運動に影響され、かつ自分も他の粒子に影響を与えるといった複雑な運動を行い電子系全体を一つの系として考えなければならなくなる。このような電子系のことを強相関電子系と呼び、より具体的には希土類化合物などにおける重い電子系、高温超伝導体などの遷移金属酸化物、半導体界面における量子ホール系などが挙げられる。狭義では従来の一粒子近似に基づくバンド理論で記述できない電子系を指すが、例えば、モット絶縁体はその顕著な例である。強相関電子系は系の低次元性が増すとより顕著な性質を示し、その最も極端な例が一次元における朝永・ラッティンジャー液体である。


局所理論
local theory

参考:ロンドン理論


極低温
very low temperature

極めて低い温度のこと。現代の低温物理学の世界では、液体ヘリウム温度あるいは1K以下のmK領域を指すことが多い。


ギンズブルグ・ランダウ方程式
Ginzburg-Landau

参考:ギンツブルグ−ランダウ理論


近接効果素子
proximity effect junction

参考:SNS接合


ギンツブルグ−ランダウ理論
Ginzburg-Landau theory

ギンズブルグとランダウはBCS理論が出る前に超伝導の現象論的理論を建設していた。これをギンズブルグ・ランダウ理論と呼ぶ。その内容は、ある複素数のオーダパラメータを満たす方程式(ギンズブルグ・ランダウ方程式)を導くというものである。BCS理論によりこのオーダパラメータはクーパー対の振幅である事が明らかにされ、また自由エネルギーの表式も導出されてギンズブルグ・ランダウ理論は微視的な立場から基礎付けられることとなった。ギンズブルグ・ランダウ理論ではオーダパラメータが電磁場とゲージ不変な形で結合しており、コヒーレンス長と侵入長が含まれている。このため、第1種と第2種の超伝導体の区別や磁束の量子化、ジョセフソン効果など超伝導で本質的な現象を導くことができる。また、非一様な場合の研究にも強力な手段となっている。