超伝導用語事典



回復電流
recovery current

臨界電流が流れている超伝導線材において、部分的なじょう乱により常伝導遷移して電流がすべて安定化材に流れている場合、完全安定化されていない導体では、じょう乱が無くなっても発熱が冷却を上回るのでそのままでは超伝導状態に戻らないが、流す電流をある値以下にすると、冷却が発熱を上回るようになるので超伝導状態に復帰するようになる。この電流を回復電流と呼ぶ。


核断熱消磁
adiabatic nuclear demagnetization

核磁気常磁性を利用した冷凍法で、μK以下の超低温の生成が出来るほぼ唯一の冷凍法である。希釈冷凍機を使い、10mK程度の温度で10T程度の強磁場を加えることによって、作業物質中の原子核磁気モーメントを磁化したあと、周囲から断熱し、磁場を取り除くことによって超低温が得られる。作業物質としては、原子核スピンと格子系との間のエネルギー緩和の早い金属が通常使われる。さらに低温を得るためには多段の核断熱消磁が行われる。


核冷却
nuclear cooling

核断熱消磁によって冷凍作業物質である原子核スピン系のみの温度を超低温度に冷却する事。超低温度では一般に原子核スピン系と電子・格子系との熱緩和時間が著しく長くなる。各断熱消磁ではまず原子核スピン系が冷却されるため、適当な条件の下では、両系の温度に差が生じ、原子核スピン系のみに極めて低い温度が生成される。これを核冷却と呼び、両者の平衡を保ちながら行う核冷凍と区別する。核冷却によって原子核スピン温度にnK以下の超低温が得られ、核スピンの秩序相への相転移が観測されている。


核冷凍
uclear pumping laser

3He(n,p), 10B(n,α), 235U(n,fission)などの発熱型の原子核反応により発生する荷電粒子を用いて、ガス媒質を励起して発振させるレーザー。放電によるポンピングや光によるポンピングの変わりに原子核反応を用いている。COやAr-Xe, 3He-Heなどの希ガスを中心に多くのガスが試みられ、発振に成功している。1014n/cm2程度以上の中性子束が必要なためパルス中性子場が多い事、放電型に比べてガス厚による制限がない点に特徴がある。


化合物系超伝導材料
superconducting compund material

化合物の超伝導材料。結晶構造としてA15型(Cr3Si型)、B1型(NaCl型)、C15型(ラーベス相)、シェブレル相がよく知られている。臨界温度、上部臨界磁場、臨界電流密度などの超伝導特性は合金系超伝導材料に比べて優れているが、機械的性質が劣る為、加工工程が複雑になり、加工費や材料費が割高になる。しかし8T以上の高磁界では超伝導特性の良い化合物系が不可欠となる。


化合物超伝導体
compound superconductor

超伝導を示す化合物。代表的なものとして、A15型化合物(Nb3Ge), B1型化合物(NbN), ラーベス相化合物(V2Hf), 水素化物(PdH), 遷移金属カルコゲナイド(NdSe2), シェブレル相化合物(PbMo6S8), 磁性超伝導体(TmRh4B4), 重い電子系(UBe13), 酸化物超伝導体(YBa2CuO2-δ), 有機超伝導材料((BEDT-TTF)2I3), フラーレン(K3C60)などがある。


カスケード液化法
cascade liquefaction

沸点の異なる物質を冷媒とした複数の冷凍サイクルを組み合わせ、隣接するサイクル間で熱交換させることによって順次低沸点の液化ガスを精製する方法。効率は高いが、設備は複雑となる。プロパン、エチレン、メタンのジュール・トムソンサイクルを組み合わせた天然ガスの液化などに使われている。


カピッツァ抵抗
Kapitza resistance

異なる物質の接合界面に生じる熱抵抗の事。ある面を介して接した二つの物質の間に熱の流れWがあるとき、界面の両近傍には一般に温度差ΔTが生じる。この比、R=ΔT/Wをカピッツァ抵抗という。極低温における液体ヘリウムと一般の固体との間には特に大きなカピッツァ抵抗が生じ、両者の間の熱伝達を阻害する。音速や密度が両者で著しく異なり、熱を運ぶフォノンの大部分が界面で反射されてしまうことがこの原因である。


下部臨界磁界
lower critical field

第2種超伝導体においてマイスナー状態が破れ、磁束が試料に侵入し始める磁場。現実の超伝導体における磁束の侵入は、反磁場効果のため下部臨界磁場以下の磁場から始まる。下部臨界磁場における磁束の侵入は、ピン止めが無視出来る場合、磁束間の相互作用が効く磁束密度で急激に起こる。一方、ピン止めの強い第2種超伝導体では下部臨界磁場において、わずかな数の磁束のみが侵入する。


下部臨界磁場
lower critical field

下部臨界磁界と同義


カルノー効率
Carnot efficiency

可逆熱機関であるカルノーサイクルに対して求められた熱効率。熱効率の効率 η とは、高温熱源から受け取ったエネルギーQHに対する外部に取り出された仕事Wの比 η =W/QHであり、カルノーサイクルに対しては η =1-TL/TH(TL:低温熱源の温度、TH:高温熱源の温度)となり熱源の温度比のみで決まる。現実の非可逆熱機関の効率は必ずカルノー効率より劣る。


寒剤=凍結材
coolant, refrigerant

冷媒と同義


緩衝層
buffer layer

[1]二つの薄膜層を直接重ね合わせて作製すると、界面において相互拡散や化学的な反応が生じたり、下地膜表面の凹凸が大きくて特性を著しく劣化する場合に、それを防ぐ為に二つの層の間にはさむ膜の事。例えば、医用分野に用いられるX線イメージインテンシファイアにおいて、X線を光に変換する膜であるCsI(Na)の上に、光を光電子に変換する為の光電面(CS3Sb蒸着膜)を直接重ねると、活性化されたCs原子がCsI(Na)膜に化学的作用を及ぼし発光効率を低下させるのを防ぐ目的で、間に光学的に透明なSiO, MnO2, Al2O3, あるいはLiFを、また平滑化の目的で透明導電膜が干渉膜として使用される。 [2]異種の基板上に単結晶薄膜をヘテロエピタキシャル成長させる場合、格子定数の不一致などの物理的化学的性質の違いにより、良好な結晶が成長しない事が多い。この事を改善するために、二つの層の間に入れる両者の性質に近い中間層の事。


干渉長
coherence length

コヒーレンス長と同義


完全安定化
full stabilization

超伝導材の安定化法の一つ。電流が流れている超伝導線材において、じょう乱により局所的に温度が上昇して線材中の超伝導体が常伝導遷移すると、電流の大部分は安定化材に流れる。この時安定化剤の量を多くしてジュール熱による発熱量が、冷却による放熱量よりも小さくなれば、通電中でも線材の温度は下がり超伝導状態に復帰するはずである。このような考え方による安定化が完全安定化である。