超伝導用語事典



永久電流
persistent current

永久に減衰しない電流の事。超伝導体リングに磁場を印加したまま超伝導転移温度以下に冷却すると、超伝導体の内側と外側に表面電流が誘起され、リング内部に磁束がトラップされる。この状態で磁場を0まで下げると、超伝導体の内側の電流は減衰せずに残る。この電流は超伝導状態を保つ限り、永久的に流れつづける。


A-15化合物
A15 compound

結晶構造は、立法晶系に属するCr3Si型構造で空間群Pm3mに属し、化学式A3Bで表される化合物。B原子は体心立方格子を形成し、A原子は立方格子の面内で3方向に一次元鎖を形成し、軸はx,y,z方向を向き互いに直交している。高い臨界温度Tcと高い上部臨界磁場Hc2を示す超伝導物質として、Nb3Sn(Tc=18K, Hc2〜20T), Nb3Al(Tc=19K), Nb3Ge(Tc=23K), V3Si(Tc=17K), V3Ga(Tc=16K, Hc2〜20T)などが知られている。中でも、Nb3Sn, V3Gaは、高磁界用の実用超伝導線材として非常に重要な材料である。


A15型金属間化合物
A15 intermetallic compound

A15型化合物と同義


Hg-Ba-Ca-Cu-O系
Hg-Ba-Ca-Cu-O system

元素Hg, Ba, Ca, Cu, Oで構成される酸化物高温超伝導体。Hg系ともいう。化学式HgBa2Can-1CunO2n+2+δで表される。n=3の化合物は現在、最高の超伝導臨界温度Tc=135Kを記録している。また、高圧力下においても最高のTc=164Kを記録している。


液化機
liquifier

気体を液化するための装置。臨界温度が室温より高い気体の場合は等温圧縮すれば液化出来る。空気や窒素ではジュール・トムソン膨張によって温度を下げ、その一部を液化する(リンデ液化サイクル)。逆転温度の低いヘリウムや水素では単純なリンデサイクルで液化することは出来ない。断熱膨張とジュール・トムソン膨張を組み合わせたクロードサイクルによって液化される。


液相法
liquid phase process

各成分金属元素を含む化合物を溶媒に溶解し、その溶液から粉末あるいは直接バルク材やファイバ材を作成する方法。酸化物超伝導材料を作成する方法として、蒸発乾固・噴霧熱分解法、共沈法、ゾルゲル法などがよく知られている。液相法の特徴は得られる粉末が微細で化学反応性が高く、高均質の試料が得られやすいことである。


液体酸素
liquid oxygen

液体状態の酸素。沸点90.185K、密度1.1396g/cm3, 3重点T=54.361K, P=146.3Pa。工業的には液体空気の分留によって生産される。酸素は支燃性ガスであり、反応性が高く、特に有機物と接触すると爆発の危険性があるため注意しなければならない。


液体水素
liquid hydrogen

液体状態の水素。沸点は約20Kで液体ヘリウムについで低い。密度0.071g/cm3,3重点T=13.96K, P=7.2kPa。宇宙ロケット用液体燃料などに用いられる。爆発の危険性は周知の事実であり、取り扱いには十分な注意が必要である。


液体窒素
liquid nitrogen

液体状態の窒素、沸点77.347K、密度 0.80861g/cm3, 3重点T=63.148K, P=12.53kPa。窒素は大気の主成分であり、液体空気の分留によって工業的に大量に製造されている。窒素は化学的に不活性である為、安全な寒剤として多用されている。


液体ヘリウム
liquid helium

液体状態のヘリウム沸点4.224K、密度0.125g/cm3。低温研究や超伝導の応用などに寒剤として広く使われる。量子性の強い液体で、3重点が無く、絶対零度まで液相が安定に存在する。また2.2Kで相転移(λ転移)を起こし、超流動となる。超流動相を液体ヘリウムU、常流動相を液体ヘリウムTと呼ぶ場合がある。ヘリウムには通常の4Heの他、安定同位体3Heがある。液体3Heの沸点は3.1905Kとさらに低く、希釈冷凍機を初め極低温生成用寒剤として欠かせない。


SIS接合
SIS(superconductor insulator superconductor) junction

非常に薄い絶縁相を二つの超伝導体ではさんだ構造を持つトンネル接合。トンネル効果が現れるには、絶縁相の膜厚を超伝導体のコヒーレンス長と同程度にする必要がある。その電流ー電圧特性には、電子対のトンネル効果によるジョセフソン電流と、準粒子トンネル効果による超伝導エネルギーギャップを反映した非線形特性が現れ、履歴現象を示す。ジョセフソントンネル接合ともいう。


SISミキサー
SIS(superconductor insulator superconductor) mixer

IS接合を用いたミリ波・サブミリ波帯の電磁波検出デバイス。この周波数帯で最も感度の高いデバイス。電磁波の照射によりSIS接合の電流ー電圧特性に電流ステップが誘起される現象(フォトンアシステッドトンネル効果)を利用。超伝導体としてニオブまたは窒化ニオブを用いた物が開発され、数百GHz帯での電波天文計測などに利用されている。周波数の上限は接合容量により決まる為、接合の微細化が重要である。


SNEP
selectively niobium ething process

高品質ニオブトンネル接合の作成法の一種。SNEP法と同様にトンネル接合を真空を破らずにチップ全面に作製。フォトレジストにより接合の形状を決めたあとに、陽極酸化法により不要な上部電極のニオブを酸化しニオブ酸化物に変える。ニオブ酸化物は絶縁物となる為接合間の分離が可能となる。


SNS接合
SNS(superconductor normalconductor superconductor) junction

金属や半導体などの常伝導相を二つの超伝導体ではさんだ構造を持つジョセフソン接合。超伝導体と常伝導体を接触させた時、超伝導のオーダパラメータが常伝導体に染み出す効果(近藤効果)を利用する為、近接効果素子とも呼ばれる。その電流ー電圧特性はジョセフソン電流を示すが、SIS接合のように準粒子特性による履歴現象を示さない。SIS接合の対語


SMES
superconducting magnetic energy storage

超伝導マグネットを用いたエネルギー貯蔵装置。超伝導は抵抗0で電流が流せるので、超伝導コイルに電流を流すと磁気エネルギーの形で電力を長時間貯蔵できる。既に実用化されている揚水発電などに比べて効率がよく、即応性に優れるなどの利点があるが、実用化のための技術的課題は多い。これとは別に、電力系統の安定化や負荷変動補償などのために小型のSMESを発電所や変電所に設置する計画もある。


SQUID
superconducting quantum interference device

超伝導ループにおける磁束の量子化を利用したデバイス。超伝導量子干渉素子とも言う。超伝導ループの一部にジョセフソン接合を1個もしくは2個挿入した構成となる。前者をRF-SQUID,後者をDC-SQUIDと呼び、その内部の磁束は量子化磁束Φ0=2.07×10-15[Wb]を単位として量子化されている。デバイスとして用いる場合には入力信号により超伝導ループに磁束を交差させ、量子状態を変化させることにより出力電圧を得る。SQUID磁力系やジョセフソン集積回路の基本素子として用いられており、ジョセフソン接合の臨界電流と超伝導ループのインダクタンスの積がΦ0程度になるように設計される。


SQUID磁力計
SQUID magnetometer

SQUIDを用いた超感度磁気センサ。B〜10-14Tまでの微弱な磁界を測定できる唯一の磁気センサであり、脳磁計、心磁計などの医学応用や、精密計測、材料評価などに用いられている。センサの構成はSQUID、インプットコイル及び磁界検出コイルからなり、センサを多チャンネルにして磁界の分布を測定する事も多い。ニオブ及び高温超伝導体を用いたものが開発されており、センサは前者では液体ヘリウムで、後者では液体窒素で冷却される。


Nb合金
Nb alloy

Nbの合金。実用超伝導材料として重要であり、Nb-Ti合金、Nb-Zr合金、あるいはNb-TiにZr,Tz,V,Hfなどを添加した三元ないし四元系がよく知られている。


Nb−Ti合金
Nb-Ti alloy

NbとTiの合金。現在最も大量に使用されている合金系超伝導材料である。Nbの組成は45〜55 at%で超伝導臨界温度は約10K, 4.2Kにおける上部臨界磁場は約12Tである。機械的性質がよく、高度な加工法が適用でき、また劣化しにくいので、幅広い仕様の線材が出来る。


エネルギー貯蔵装置
energy storage system

社会の電力エネルギー需要には、年、週あるいは一日においても大きな変動があり、需要の少ない時にエネルギーを貯蔵し、多い時に放出をする装置が必要となる。エネルギー貯蔵装置としては、揚水発電、バッテリー、フライホイール,圧縮空気、超伝導マグネットなどが考えられ、これらのうち揚水発電と圧縮空気は既に実用化されているが、広く普及するまでにはいたっていない。超伝導マグネットを使用したものはSMESと呼ばれ、現在研究が進められている。


エリクソンサイクル
Ericsson cycle

冷凍サイクルの一種であり、等温圧縮、等圧圧縮、等温膨張、等圧膨張の4過程からなるサイクル。高温、低温両熱源でそれぞれ等温圧縮と等温膨張を行い、その間で熱交換器あるいは蓄冷機を使って、高圧高温気体と低圧低温気体の間で等圧的に熱の交換を行わせることによって近似的に実現できる。しかし、現実の気体を等温的に圧縮・膨張するのは困難であり、むしろ断熱過程に近い。


La2CuO4
La2CuO4 system

K2NiF4型構造を持ち、最初に発見された酸化物高温超伝導体。La系ともいう。La2CuO4は反強磁性絶縁体であるが、La2-xAxCuO4(A=Ba,Sr,Ca)のように+3価のLaを2価のアルカリ土類金属元素で部分置換すると、ホールキャリアがドープされ、最高のTc〜40Kの超伝導を示す様になる。La2CuO4+δのように、過剰酸素の導入によってもホールがドープされ超伝導を示す。