超伝導用語事典



厚膜法
thick film process

導体の配線や各種材料のコーティングなどのために、比較的厚い膜を作製する方法。スクリーン印刷法、溶液熱分解法、溶射法に大別される。厚膜法の利点は、作製プロセスが簡便なことである。欠点は精密な組成制御が困難なことである。


アブリコソフ格子
Abrikosov lattice

第2種超伝導体に侵入した量子化磁束が、お互いの反発力により形作る2次元三角格子のこと。1Tの磁場のもとで48.9nmの格子間隔を持つ。当初アブリコソフは磁束の作る格子を四角格子と予想したが、クライスナーらにより三角格子の方が安定であることが示された。このような磁束の三角格子は磁性微粒子を蒸着する磁気装飾法(ビッター法)により直接観察されている。しかし、三角格子と四角格子のエネルギー差はわずかであるため、四角格子が実現されることもある。


アブリコソフの磁束線構造
Abrikosov's structure of flux line

アブリコソフ格子を参考


RVB
resonating valence bond

反強磁性量子スピン系において、低次元であったり相互作用がお互いに競合したりする事で量子ゆらぎが強くなり反強磁性長距離秩序が破壊される場合が考えられる。この場合には、スピン1重項が量子力学的に共鳴を起こしているという描像がより適切であり、これをRVB描像という。さらに量子スピン系にキャリアをドープした場合にもこの概念は拡張されており、そこではスピンと電荷の分離などの顕著な非フェルミ流体的振る舞いを示す。この状態は特に高温超伝導体の電子状態に関連して近年精力的に研究されている。


RVB理論
RVB theory

RVB状態を理論的に記述するために、多くの試みがなされているが、中でもスレーブ粒子法を用いた平均場理論およびそれらのゆらぎを扱ったゲージ場理論が盛んに研究されている。スレーブ粒子法では電子をスピノンとホロンという2種類の粒子の複合粒子として記述し、それぞれの粒子がスピンと電荷の自由度を担う。これらの粒子はゲージ場と相互作用して、観測する物理量に依存した多彩な物性を示す。


アンダーソン-キム理論
Anderson-Kim theory

超伝導体における磁束のピン止めによる臨界電流密度の磁場依存性を説明するモデル。Jc∝1/(B+B0)(Jc:臨界電流密度、B:磁束密度、B0:定数)で表される。


安定化
stabilization

超伝導線材に電流が流れている状態では、磁束線はピン止めされているが、何らかのじょう乱によって磁束線が動くと発熱が起こり、線材の温度が上昇する。温度が上昇すると磁束ピン止め力は弱くなるからますます磁束線はピン止めからはずされやすくなり移動が起こるため、温度がさらに上がって最後には超伝導状態が破れてしまうことがある。この現象をクエンチと呼ぶ。このような事が起こらないようにするのが超伝導線材の安定化である。


安定化材
stabilizing material

超伝導線材において安定性を確保するために使用される常伝導金属。線材の安定性を高めるには、じょう乱によって発生した熱を速やかに発散させて温度上昇を抑制するのが有効であり、これを動的安定化というが、このためには超伝導体を熱伝導の良好な金属と一緒に組み合わせるのが有効である。一般的には超伝導体の外面を安定化材と呼ばれる銅やアルミニウムなどで覆って複合化する。


アンドレーエフ反射
Andreev reflection

超伝導体(S)と常伝導体(N)の界面へNの側から電子が入射したとするとその反射波として通常の電子波の他に正孔が反射されて来る。これは、界面においてクーパー対が生成されてSへと伝搬していく確率が存在するからである。超伝導体のクーパー対は巨視的な位相のコヒーレンシーを持つので、これが常伝導体中の電子波の位相と相互作用して多彩な現象を引き起こす。例えばSNS接合系ではN領域にアンドレーフ多重反射によって局在状態が生成することもある。


アンベガオカー−バラトフ理論
Ambegaokar-Baratoff theory

ジョセフソン接合におけるトンネル現象を記述するためにAmbegaokarとBaratoffはトンネルハミルトニアンに関する摂動展開の最低次(2次)で電流の期待値を計算し、常伝導による寄与と超伝導電流(ジョセフソン電流)とを統一的に扱った。ジョセフソン電流に対しては二つの超伝導体のクーパー対の位相差に依存する表式が得られた。さらに進んでAmbegaokarらはこのクーパー対の位相差に対する有効作用を導き、準粒子のトンネルによる散逸の寄与なども議論した。これらの理論はジョセフソン接合及びジョセフソンネットワークの研究で基本的なものとなっている。