SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.18, No.2, April. 2009

新構造の鉄系超伝導体群が登場!                   _東大ほか_


 昨年、東工大の細野グループによって発見された、鉄の正方格子を有する一連の超伝導体群は、これまでREFeAsO(1111)系[RE: 希土類元素]、AEFe2As2系[AE: アルカリ土類金属]、LiFeAs系、FeCh系[Ch: カルコゲン]の4種の構造が知られていたが、今回5元系の(Fe2Pn2)(AE4M2O6) (東大グループの表記法を使用、図1)が新たに加わった。この物質群は、昨年中国のWenらによって発見された(Sr3Sc2O5)(Fe2As2)と類似の、FeAs層の間にペロブスカイト型類縁の酸化物層が挿入された構造を有し、1997年に発見された酸硫化物(Cu2S2)(Sr4Fe2O6)と同一構造である。特徴的なのは長いFe面間の距離で、FeP層を持つ(Fe2P2)(Sr4Sc2O6)は15.5 ?、FeAs層を持つ(Fe2As2)(Ba4Sc2O6)は16.8 ?と1111系の2倍近い。また1111系よりFe-Pn(Pn: ニクタイド)距離がやや長くなる傾向が東大グループより示されている。
 この系における第一報は東大の荻野拓助教・下山淳一准教授らのグループによる、(Fe2P2)(Sr4Sc2O6)での17 Kの超伝導で、LaFePOのTc (4 K)よりはるかに高く、FeP層を含む物質としてはこれまでで最も高い。また同グループにより、この物質のAs置換体である(Fe2As2)(Sr4Sc2O6)や、さらにNiを置換した(Ni2As2)(Sr4Sc2O6)が報告されているほか、(Fe2As2)(Sr4Cr2O6)のようにScサイトを他の金属元素で全置換できることも示されている。FeAs層を含む物質ではScやCrが占めるBサイトのTiドープ及びV全置換体で超伝導化が報告されており、本原稿執筆時点で、Tcは (Fe2As2)(Sr4V2O6)による37 Kに達している。
 本系は3月19日に最初の論文がarXivに投稿されてから1ヶ月弱しか経っておらず、まだ最初の論文すら発刊に至っていない段階であるが、既にarXivへ関連論文が10報以上投稿されており、関連化合物も7種にのぼっている。恐らく1111系と同様にFePn層を他の遷移元素やニクタイドで置換できることを考えると、まだまだ関連化合物は出てきそうである。この系においても中国の動きは早く、最初の報告から約10日後の東大グループの続報と同じ日にAs置換体の論文が投稿されているほか、上記の最高のTcの報告も中国のWenらのグループによりなされている。今後どこまでTcが向上するかが焦点のひとつであるが、(Fe2As2)(Sr4V2O6)が意図的なドーピングを行わずに超伝導化していること、1111系では最もスタンダードな方法であるFドープでの超伝導化の報告がないことも気になる点である。
 なお、多元系であることからこの系の物質の表記法については混乱が生じており、例えば東大グループは化学式(Fe2As2)(Sr4Sc2O6)及び略記Sc-22426を、Wenらのグループは化学式(Sr3Sc2O5)(Fe2As2)及び略記32522-FeAsを用いているほか、中国のChenらの論文ではSr2ScFeAsO3、ドイツのTegelらの論文ではBa2ScO3FeAsと表記されているなど、似たような物質に関して多くの表記法が用いられているので、関連論文を検索される場合は注意されたい。
 今回の系に関しても、日本の研究者の発見を契機としていながら元素置換による物質探索では中国がすぐにキャッチアップしてくるという、昨年の1111系の発見時と似た状況になっている。東大グループによれば「この構造から今後も新しい元素の組み合わせの超伝導体が生まれる可能性が高いのはもちろん、新しい構造の超伝導体も多く潜んでいるはず。そのなかからより高いTcを実現していきたい。」と のことである。ここは是非日本の研究者による巻き返しに期待したい。 (宮城)

参考文献 [1] H. Ogino et al., arXiv: 0903:3314  

 

 

       図1. (Fe2P2)(Sr4Sc2O6)の結晶構造