SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.18, No.2, April. 2009

かご形誘導機+超電導技術で同期トルクが1桁超え! ―高温超電導誘導/同期機の能力をダイレクトに証明  _京都大学、イムラ材料開発研究所、新潟大学、応用科学研究所_


 京都大学、イムラ材料開発研究所、新潟大学、応用科学研究所のグループは、高温超電導誘導/同期回転機(High Temperature Superconductor Induction/Synchronous Machine: HTS-ISM)の車載応用を指向した精力的検討を実施している。この度、従来形誘導機に比較して、同期回転にもかかわらず1桁を超える高トルク化を実証し、その成果を平成21年電気学会全国大会(平成21年3月17~19日、北海道大学)において報告した[1]。
 京都大学が既に報告しているように、HTS-ISMは、かご形誘導機の単純な構造を有しながらも同期ならびに誘導回転モードの両立性、高効率化、過負荷に対してのロバスト性、室温からの連続運転他、様々な高性能化や高機能化が達成可能なことを理論的かつ実験的に明らかにしてきた[2,3]。さらには、車載用モータに求められる高トルク密度化についても、既存の誘導機に比較して1桁を遥かに上回る高トルク化が実現可能なことを、解析結果から示していた。しかしながら、上記高トルク密度化に関しては、これまで理論予測を裏付ける実験結果の取得に成功しておらず、実証データが望まれていた。今回、ようやく上記高トルク化の検証に成功した。
 図1には、市販のビスマス系高温超電導テープ材を適用したHTSかご形回転子の外観写真を示す。臨界電流が74 A@77 K級のテープ材(テープ平均幅:2.6 mm)を10枚バンドルして1本のロータバーとした(ロータバー1本当たりの臨界電流: 740 A@77 K)。図2には、液体窒素浸漬冷却(温度:77 K)における試験結果の一例を示す。同図から明らかなように、既存誘導機の定格トルクが8 Nm (停動トルク:約20 Nm) (室温)であるのに対し、開発したHTS-ISMでは同期モードであるにも拘らず80 Nmを超えるトルクが得られている。このトルク値は、既存の誘導機を液体窒素温度に冷却しても到底達成不可能であり、そもそも同期回転することはできない。なお、試作機は既存の1.5 kW級誘導機を改造しているため、シャフトやカップリングの破断の危険性から、上記を超えるトルク値における実証試験は断念したが、さらに高トルクが得られることは間違いないと考えられる。同グループは、現在、ロータバーの臨界電流値や駆動条件、構造他を最適化することにより、さらなる高トルク密度化を検討している。本研究開発により、ダイレクトドライブ方式の自動車の実現が期待される。
 開発を主導している中村武恒准教授によると、「我々のグループは、これまでHTS-ISMを車載するための検討を包括的に実施してきた。本回転機は、市販の小容量誘導機を改造して高トルク密度化を検討したため、あまりに出力が大きくなったことから、構造的強度不足のためにトルク試験は難航した。しかしながら、研究室で様々な検討や改良を重ねた結果、最後は学生達の執念と神業によって本成功に至った。現在は、さらに様々なアイデアを導入して究極の高トルク密度化を達成し、産学連携の研究開発によって究極の超電導自動車の実用化を目指したい。」と話している。 (京大TN)

図1. 開発した高出力高温超電導誘導/同期機(HTS-ISM)の外観写真

 



図2. 試験結果の一例 (試験温度:77 K、市販の1.5 kW級かご形誘導機(定格トルク@室温: 8 Nm)を改造)

 

参考文献
[1] 中村武恒 他、「次世代車載応用を指向した高温超電導駆動システムの基礎検討」、平成21年電気学会全国大会、平成21年3月17~19日、北海道大学、5-116 (2009年3月)
[2] 「誘導か同期か?−高温超電導かご型誘導モータの特異な回転特性_京都大学」, 超伝導コミュニケーションズ (SUPERCOM), Vol. 15, No. 1 (2006) pp. 2-3
[3] 「臨界温度を超えた!−室温から回転する超電導モーターの開発に成功_京都大学」, 超伝導コミュニケーションズ (SUPERCOM), Vol. 17, No. 3 (2008) pp. 1, 4-5