SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.18, No.2, April. 2009

LHD第12サイクル実験の成果                _核融合科学研究所_


 核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)は、磁場閉じ込めのための総てのコイルを超伝導化したヘリカル型核融合プラズマ実験装置である。1998年3月31日のファーストプラズマ点火から11年間に12回の長期連続運転を実施し、超伝導システムの高い信頼性を実証すると共に、大学共同利用機関として安定した核融合プラズマ実験環境を研究者へ提供し続けている。
 2008年度に実施されたLHD第12サイクル実験では、超伝導コイル電源や加熱・計測機器の改良・性能向上を行い、学術研究に生かすことにより、核融合炉実現に貢献する多くの成果が得られている。第12サイクルまでに得られたプラズマ実験の成果を図1に示す。
 第12サイクルの主なプラズマ実験の成果について紹介する。イオンの加熱電力を増加させるビーム加熱装置の整備と最適化によって、イオン温度が向上した。このイオン温度を測定するためにはプラズマ中に含まれる微量の炭素イオンからの光を利用している。将来の核融合炉では、不純物は水素燃料の純度の低下をもたらし、核融合反応を阻害する。目安として、炭素の場合は水素の1%以下であることが求められている。温度が高くなると、壁材料との相互作用が強まり、通常、不純物は増加する。イオン温度の測定には炭素イオンからの光を用いるので、温度と同時に炭素の密度も測定することができる。第12サイクルではこの測定装置の性能向上を図り、温度の高いプラズマ中心部では、炭素イオンの密度が抑えられており、水素純度が高いこと、さらに、炭素の小粒を意図的にプラズマ中へ入射しても、イオン温度の上昇に伴って炭素が吐き出されることが明らかとなった。燃料水素の純度は核融合炉のために決定的な条件の一つであるため、この成果は将来の核融合炉の運転にとって極めて重要な意味を持っている。
 プラズマは磁場の圧力を使って、壁から離して閉じ込める。核融合炉の出力効率すなわち経済性は、より弱い磁場でより高い圧力のプラズマを閉じ込めることによって大きく向上する。核融合炉ではこのプラズマ圧力の磁場の圧力に対する比(ベータ値)が5%程度であることが求められている。しかし、この比率が大きくなると、プラズマが不安定になるため、不安定になりにくい運転方法の研究が必要となる。LHDでは磁場を最適化することにより、ベータ値を5.1%まで高めることに今回、成功した。さらに、このような高い圧力状態を長時間安定に保持できることが実証された。より高いベータ値の更新を目指して、新規ポロイダルコイル用パルス電源を用いたプラズマ実験が開始された。既存の出力電圧33 Vの定常電源に出力180 Vのパルス電源を直列に挿入することにより、従来の6倍の掃印速度でポロイダルコイルを安定に運転することが可能となる。第12サイクルでは装置実験として、このパルス電源を用い、熱的な手法を用いて交流損失を測定し、使用しているケーブル・イン・コンジット導体の結合損失時定数を詳細に評価した。結果として、同じ設計の導体であってもコイル毎に結合時定数にばらつきがあることが明らかとなった。
 第12サイクルのLHD超伝導システムの運転経過を図2に示す。2008年8月15日に低温システムの精製運転を開始、8月27日に予冷運転開始、9月21日に予冷完了、9月22日~12月25日まで定常運転の維持、12月26日~12月28日まで液体ヘリウム回収及び加温運転、年末年始の休暇のため加温運転を一旦停止し、2009年1月5日に加温運転を再開、1月30日にシステムの加温を完了した。超伝導システムを超伝導状態に保った定常運転時間は2,272時間、圧縮機起動から停止までは3,856時間の安定な連続運転を行った。表に第1サイクルから第12サイクルまでのLHD超伝導システムの運転履歴と、機器故障及び停電等の外部要因によるシステム停止時間、(運転時間−システム停止時間)/(運転時間) で定義した稼働率を示す。総運転時間は55,935時間、定常運転時間は37,886時間に達し、この間、安定な連続運転に支障を来すようなシステム故障は発生していない。稼働率99.4 %を達成し、システムの高い信頼性を実証している。               (TM)

 

図1.LHD第12サイクル実験の成果

 

 

図2.LHD超伝導システム第12サイクル運転経過

 

 

表1.LHD超伝導システムの運転実績