SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.18, No.1, February. 2009

 MODプロセスによるイットリウム系超電導線材の開発状況
_昭和電線ケーブルシステム_


昭和電線ケーブルシステム(株)は(財)国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)を通じて再委託を受けた、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の超電導応用基盤技術研究開発プロジェクト(平成19年度末終了)において、有機金属塩塗布熱分解法(MOD)よるイットリウム系超電導線材の開発を担当した。本誌2007年4月号において200 m級の線材開発に成功したことを報告しており、その後バッチ式本焼炉の大型化を図り、同プロジェクトの最終目標である500 m × 300 A級線材(実用化の目安)の開発を進めた。
 2008年10月に図1に示すように全長に亘って300 A/cmのIc分布を持つ線材の開発に成功した。500 m級線材の作製では、Super Power社(米国)と(株)フジクラに続く世界で3番目の成果であり、MOD法では世界初の成果となっている。またイットリウム系超電導線材の作製プロセスにおいてバッチ式熱処理を用いる製法は、世界で昭和電線のみが保有する技術である。
 線材の構造は、ハステロイC276基板上にGd2Zr2O7(IBAD法)とCeO2(PLD法)から成る2層の中間層を配したものであり、300 A/cm幅のIcを達成する為に従来の1.0 mから1.5 mに厚膜化を行っている。
 500 m級線材の開発に当たっては、線材の製造速度の目標である5.0 m/hを達成する為に超電導工学研究所(SRL)で開発されたReel-to-reel式マルティコーティング仮焼システム(図2)を使った大型の仮焼炉を導入し、バッチ式本焼炉の大型化と合わせて立上げを行った。現状、線材の製造速度は、仮焼プロセスで10 m/h、本焼プロセスで22 m/hと非常に速いプロセスになっている。
 バッチ式本焼炉は、YBCO薄膜の結晶化を行う為の熱処理工程で使用するものであり、200 m線材の作製と同様に円柱状ドラムに巻きつけた線材を炉芯管内部に入れて一括焼成する方式となっている(図3)。バッチ式熱処理による長尺線材プロセスにおける問題点は、仮焼膜からYBCO薄膜が形成する反応過程において発生するHF蒸気を膜の反応界面から速やかに取り除き、常に清浄な表面を維持する事にある。Reel-to-reel式の熱処理と異なり、全ての線材が炉中に存在し、一斉に反応するので反応ガスがYBCO膜の成長に及ぼす影響はよりシビアになる。この為、炉の大型化に伴い線材に対する供給ガスの流線均一化や発生ガスの排出の効率化など、改めて設計しなおす必要が生じ、500 m線材の開発を難航させた。この問題については社内にガス流の流体解析を行う部門と協力し、シミュレーションと実験をリンクさせてお互いにフィードバックをかける事によって実験の効率向上を図り、短時間で最適解に到達することができた。
 バッチ式電気炉は炉内が密閉空間である為に安定した炉内環境を保持することが容易であり、一度製造条件が最適化されると再現性の高い製造が可能な量産向きの電気炉である。今回開発した線材プロセスを用いて、2009年6月からスタートしたNEDOの新規プロジェクトであるイットリウム系超電導電力機器技術開発プロジェクトにおいて超電導送電ケーブル(ISTEC-SRL主管)と超電導変圧器(九電主管)の開発グループに対して線材供給を開始している。MOD法で作製した線材を機器開発に対する線材の供給は、応用基盤プロジェクトでは実績がなかった。MOD線材の大量生産は今回が初めてのケースであり、歩留向上などの問題点はこれから明らかになると思われる。しかし、現状はコンスタントにIc = 200~300 A/cm幅級の線材作製ができており、バッチ式熱処理プロセスの高い再現性の特徴が良く現れていると考えている。  (G3M2)

 

図1 500 m長線材のIc分布

 

 

 

図2 Reel-to-reel式連続塗布仮焼      図3 500 m対応バッチ式
システムの概念図            大型本焼炉概念図