SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.18, No.1, February. 2009

  積層型高温超伝導SQUIDを用いたロボット式非破壊検査装置の開発
−水素燃料タンクへの適用性を実証− _豊橋技科大_


 豊橋技術科学大学の田中三郎研究室は、ISTECとの共同研究により、世界最高レベルの磁場耐性をもつ積層型高温超伝導SQUID磁気センサを用いた、三次元的なセンサ移動が可能なロボット式非破壊検査装置の開発に成功するとともに、水素燃料タンクの内部欠陥検出への適用性を実証した(2009年春季応用物理学関係連合講演会で発表予定)。
 現在、酸化物系高温超伝導材料(主にYBCOなど)を用いたSQUID磁気センサは、心磁計や磁性異物検査などの応用に関して実用化されており、さらに免疫検査や構造物非破壊検査などへの応用が検討されている。しかし、一般的な高温超伝導SQUIDは、一層の高温超伝導薄膜とSTOバイクリスタル基板を用いた、バイクリスタル粒界によるジョセフソン結合を有した構造となっており、1 T未満の磁場中でも磁束トラップや磁束ジャンプが生じて動作が不安定になるという課題があった。このため、磁気シールドのない環境で、励磁磁場を用いて計測を行う非破壊検査などの応用では実用化が困難であった。ところが近年、超電導工学研究所にてランプエッジ型ジョセフソン接合を用いた積層型高温超伝導SQUIDが開発された(SUPERCOM 2008年4月の記事参照)。このSQUIDでは、ランプエッジ接合を構成する上下薄膜として87 K以上のTcをもつSmBCOとLa-ErBCOが用いられている。SQUIDの性能を示す磁場変調電圧は最大50 Vと大きな値が得られており、磁気シールドのない環境で冷却・使用した場合でもホワイトノイズレベルは6 0/Hz1/2と優れた低ノイズ特性が得られている。
 このようなランプエッジ接合をもつ高温超伝導SQUIDグラジオメータ(勾配計)の交流磁場耐性を豊橋技術科学大学で評価した(2008年ASC2008にて発表)。このグラジオメータは、2個の正方形コイル2つからなる差分型ピックアップコイル(1個のコイルサイズ3 mm×3 mm)を持つ平面一次微分型グラジオメータである。比較のため、ほぼ同サイズのバイクリスタル接合をもつ高温超伝導SQUIDグラジオメータの場合、磁気シールド中で冷却後、振幅約30 nT、100 Hzの交流磁場をSTO基板に垂直に印加したときに、磁束トラップ・ジャンプが生じ、動作が不安定となった。一方、ランプエッジ接合のグラジオメータの場合、約1.5 m Tの磁場中まで安定に動作し、従来よりも4~5桁高い優れた磁場耐性を持つことがわかった。この高い磁場耐性は、ランプエッジ型ジョセフソン接合を形成するバリア面の上下が超伝導薄膜でサンドイッチされた構造により、磁束トラップ・ジャンプが抑制されるためと考えられる。この耐性により、高価な磁気シールドのない環境において、残留磁化をもつステンレスなどに接近させても磁束トラップ抜きなどがほぼ不要となり、扱いやすさが格段に向上したことになる。
 このSQUIDグラジオメータを小型クライオスタットにマウントし、ロボットアームに搭載したセンサ三次元移動型の非破壊検査装置を豊橋技術科学大学で開発した(図1)。本装置は、ランプエッジ接合SQUIDグラジオメータの高い磁場耐性のため、磁気シールドのない環境で、SQUIDを数10 mm/sの速度で三次元的に移動させても不安定動作しないという。本装置を用いて、次世代自動車である燃料自動車に搭載される水素燃料タンクの内部欠陥検出試験を行い、その有効性を実証した。水素燃料タンクは、高密度水素燃料の貯蔵のため、肉厚のドームシリンダー形状のアルミライナー(内張り)を先進材料CFRP(カーボン繊維強化複合材料)で外側から補強した積層構造になっている。この肉厚・積層構造のため、アルミ内部に亀裂欠陥が発生した場合、渦電流や超音波、X線を用いた従来の非破壊検査技術の適用は困難であった。そこで、田中グループでは、SQUIDの低周波数帯域における高感度特性と、金属内部まで侵入できる低周波数励磁を組み合わせて、上記非破壊検査装置を用いたタンク内亀裂欠陥検出を試みた。この試験では、SQUID直下に設置したダブルD型励磁コイルから振幅約20 T、1 kHzの低周波数励磁磁場を発生させた状態で、タンク周囲の円筒曲面に沿ってSQUIDを走査させた。この結果、高圧の繰返し負荷によりタンク内部に発生させた長さ約10 mmの亀裂による磁気応答の検出に成功している(図2)。
 研究担当者の廿日出好助教は、「従来の高温超伝導SQUIDでは困難であった磁気シールドレス環境におけるSQUIDの移動が容易になったため、燃料タンクのような先進構造物を含め、検査可能な対象が大きく広がった。今後は、企業と連携してSQUIDセンサおよび非破壊検査装置の実用化・商用化を推し進めていきたい」と抱負を語った。                                          (YH)

 

図1 ロボット式SQUID非破壊検査装置

 

 

図2 水素燃料タンクの内部亀裂の電磁的非破壊検査結果。SQUIDによる三次元的走査により、亀裂周辺に
4重極子的な磁気応答分布が測定された。