SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.18, No.1, February. 2009

  液体窒素で小型Bi-2223超伝導マグネット1T超え!
_九州工業大学・住友電工・福岡工業大学_



本誌SUPERCOM、2007年10月の記事にある液体窒素中で動作する小型のBi-2223超伝導マグネットは、その後着実に改良が続けられ、性能が向上してきている。この小型のマグネットはDI-BISCCOの性能が上がったことから実用的なマグネットができるのではないかということで企画されたものである。実際に40 Aの通電で0.4 Tほどの磁場を発生させることができる。これは同じ大きさを持つ銅マグネットの4倍の性能である。大きさは外径132 mm、高さ120 mm、ボア径52 mm、重さは3.5 kgである。これまで超伝導マグネットはソレノイドで製作されることが多かったが、このマグネットはダブルパンケーキコイルを積層するという方法で作られている。実はこの方法が性能向上できる仕掛けとなっている。
 Bi-2223銀シーステープ線材の臨界電流特性は異方性が強いことが知られている。つまり磁場がテープに垂直にかかると臨界電流密度が急激に劣化してしまう。そこで、マグネットの中でも垂直磁場が大きい、端に置かれているダブルパンケーキコイルをより性能のいいコイルに取り替えることにした。真ん中のダブルパンケーキコイルはそのまま利用して、端のダブルパンケーキコイルは臨界電流のより高い最近のDI-BISCCOに変えたのだ。これだけで全体の性能の向上を得ることができる。このような方法は一本のテープを巻いて作るソレノイドコイルではできない。またもし過剰な電流を通電してしまっても、壊れるのは端のダブルパンケーキコイルであるので、修理することすら可能である。このようなメリットがある。
 さらに性能を向上させるためにテープにかかる垂直磁場を減らすことが考えられる。これを実現するにはフランジ部分に磁性材料を置けばよい。そうすると、磁場は磁性材料に引きつけられるので、コイル部分では平行になり、テープに垂直にかかる磁場の成分は極端に減少する。図1は有限要素法を用いたマグネットの上部分の磁場分布の計算結果である。磁場は期待したように鉄プレートに引きつけられており、その下にあるパンケーキコイルでは一様になっており、その結果、超伝導テープには磁場は平行にかかっている。実際にFRPから鉄プレートに変更しただけで0.4 Tだった最大磁場は0.7 Tに向上させることができた。
 密閉したクライオスタットが必要になるが、減圧した液体窒素(いわゆるサブクール液体窒素)では簡単に65 Kに冷却することができ超伝導テープ線材の性能は向上し、実際に1.3 Tの最大磁場を得ることに成功している。液体窒素だけで1 Tを超えるという目標を達したことになる。デスクトップで気軽に1 Tを得ることができるので、今後、磁気科学分野に貢献できるのではないかと期待される。実際に実験に使っている例を紹介しよう。図2は福岡工業大学倪(にい)教授の実験室で今回のBi-2223超伝導マグネットを利用して超伝導体の臨界電流特性を測定している例である。上に冷凍機があり、これで超伝導試料を20 K程度まで冷却することができる。この試料にBi-2223超伝導マグネットで磁場を印加している。冷却は簡単なクライオスタットに液体窒素を入れているだけである。この研究室ではこれまで、同じサイズの銅マグネットを利用していたが、最大磁場は0.1 Tであり、その時には電流10 A、電圧10 V、電力100 Wを必要としていた。このため液体窒素は激しく蒸発し、消費量も多く、管理にも気を遣っていた。しかし、超伝導マグネットでは消費電力は1 W以下であり、めだった蒸発はほとんど感じられない。しかも液体ヘリウムで動作させるこれまでの金属系超伝導体による超伝導マグネットとは異なり、磁場の設定が格段に楽である。従来の超伝導マグネットでは一定の速度で電流の増減をしないと、マグネットは不安定になりクエンチをすることもあるが、今回の酸化物超伝導体を利用したマグネットはほとんど銅マグネットと同じ感覚で利用することができる。
 九州工業大学の小田部教授は、「鉄プレートの形状や配置、パンケーキコイルの設計などを工夫するとさまざまな用途の超伝導マグネットを設計できることが分かった。当面の目標の液体窒素で1 Tを超えることが達成できたので、多くの磁気科学に興味のある研究者にこれを利用していただきたい。」とコメントしている。
(えそ)

図1 Bi-2223マグネットの内部の磁場分布。磁場は鉄プレートに引きつけられて、一様になり銀シーステープの垂直磁場成分が減るため、臨界電流特性が向上する。

 


図2 福岡工業大学での実験の例。この装置を用いて、最低温度20 K 、最大磁場0.7 Tの環境で実験ができる。