SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.18, No.1, February. 2009

  高磁場オープンMRI 「OASIS」 米国にて好評稼動中  _日立メディコ、日立製作所_


 株式会社日立メディコが製造する高磁場オープンMRI装置「OASIS」が2008年7月に米国にて稼動開始し、以降順調に据付台数を伸ばしている。「OASIS」は垂直磁場オープンMRIでは現在最も磁場の高い製品(1.2 T)であり、超電導磁石は株式会社日立製作所にて製作されている。開放角度270度、開口高さ44 cmの広く開放された撮像空間は、被検者に安心感を与えるとともに、医師から被検者へのアクセスが容易であることから、さまざまな診断や治療への適用を可能としている。
  また、ガントリー内照明、左右移動が可能で被検者のセッティングが容易な寝台、常に装置状態を監視して異常をいち早く検出するリモート監視機能、MRIユニット数の低減による省スペース・省電力など被検者から医師、技師、経営者まで、すべての関係者に優しい装置となっている。
一般的に言って、垂直磁場方式のMRI用超電導磁石は水平磁場方式の超電導磁石よりも高磁場化が困難であり、これまではフィリップス社の1 T機が最高磁場であった。本「OASIS」用超電導磁石は1.2 Tとさらに高い磁場強度を実現し、日立メディコが長年培ったMRI製品技術と融合し、オープンMRIの最高峰を完成させた。
オープンMRI用超電導磁石は上下にクライオスタットが分割されるため、水平磁場方式と比較してコストを抑制しつつ磁場強度を向上させるのは非常に難易度が高い。水平磁場方式であれば磁石中央部分に超電導コイルを配置できるが、垂直磁場方式では検査領域として大きく開けざるを得ず、磁場発生効率が悪くなるためコイル起磁力が増大せざるを得ない。さらに、オープン性を確保するため上下を2本の細い連結柱で繋いだ構造をとるが、中心磁場が1.2 Tの場合上下のコイル間で引き合う電磁力は約1000 kNに達するため、連結柱の無い部分のコイルボビンは大きく撓むこととなる。従って、超電導コイルの安定性を確保するためには、この電磁力の影響を如何にうまく処理するか、即ちできるだけコイルボビンへの投入物量を抑えつつコイル変形を許容レベル以下に抑制し得るかが課題となる。また検査領域には精細な画像を得るために広い領域に非常に均一な磁場(0.3 ppm @ 35 cmDSV(rms))を形成する必要もあり、コストを抑制しつつ超電導コイル寸法及び配置を最適化するのは、垂直磁場方式電磁石成立の最大のポイントであろう。
また、MRI装置として機能させる際、傾斜磁場コイルにより交流磁場を印加するため振動が発生するが、撮像に対し影響が大きい周波数領域にどうしても全体振動ピークを持たざるを得ないため、耐振性についての最適化も同時に行う必要がある。これは、クライオスタットが大きく振動すると磁場が乱れ撮像に悪影響が出るためである。
本超電導磁石を適用した「OASIS」は、MRIとして十分なギャップ(44 cm)を確保しつつオープン型としては世界最高の1.2 Tを達成し、良好な磁場安定性、磁場均一度及び耐振性を確保したもので超電導磁石の技術は非常に高いと言えよう。
「OASIS」について米国では、従来精細な検査画像を得るために快適性が犠牲になっていた面のあるMRI検査に対し、適応被検者を増やすとともに快適性と精緻な画質を両立させたと高く評価されている。
現在、「OASIS」は北米での販売(注1)を促進しているが、今後日本を含めた全世界への展開を視野に入れている。

(注1) 米国においては日立メディコの子会社であるHitachi Medical Systems AmericaがMRI装置を中心とした画像診断装置を販売している。                                                                                                                           (渡辺)