SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.17, No.6, December. 2008

  《2008秋季低温工学・超電導学会会議報告 11/12〜14 高知市文化プラザ》


今回の低温工学・超電導学会はISS2008の2週間後に行われました。ISS2008報告との重複を避けるため、A15型およびBi系線材についてのみ報告記事を掲載します。

1. A15型線材

 A15型線材関連では口頭で2セッション、ポスターで1セッションが開かれ、このうちNb3Sn線材関連が8件、Nb3Al線材が4件、V3Gaが1件、人口ピンに関して1件の発表が行われた。概要を以下に紹介する。
 Nb3Sn関連のうち高強度化に関して次の3件が発表された。山口大の延原は、Cu-Nb補強Nb3Sn線材の3次元歪解析を行い、線材外周部に補強材を配置した場合に事前曲げ後の残留歪が小さく、特に周方向の歪が小さくなることを報告した。さらに東北大の小黒は、中性子回折によるCu-Nb補強Nb3Sn線材の3次元歪測定を行い、中性子回折が残留歪評価に有効であること、および事前曲げにより主に横方向(軸方向と垂直方向)の残留歪が緩和してIcが向上することを実験的に明らかにした。 一方、東北大の西島は、アルミナ分散強化銅(ODS-Cu)複合化によりNb3Sn線材内に新たに熱膨張差による残留圧縮歪を導入することでIc−歪特性を向上し、高磁界マグネットなどへの応用可能性について示した。次にブロンズ法にかわる新規Nb Sn製法として以下の4件が報告された。NIMSの菊池は、ブロンズ法のSn源の一部にTi2Sn3を用いるハイブリッド・ブロンズ法を提案した。Ti2Sn3は線材中で容易に破砕・変形し、ブロンズの中間焼鈍温度以上の融点をもつなどの利点がある。ブロンズ法のサブマルチの一部をTi2Sn3で置き換えた線材を試作し、Layer-Jcとしてブロンズ法の1.5~2倍の特性が得られた。徳島大の岩谷は、ブロンズ(Cu-Sn合金)より高いSn固溶限をもつAg-Sn合金を用いて約16000芯の多芯線材を作製し、線径0.82 mm で約80 AのIc (12 T)を得た。Nb3Sn相は0.1 m程度と非常に薄いためフィラメントJcとしては非常に高い可能性がある。日立電線の大圃は、ジェリーロール法Nb3Sn線材のシート厚みを厚くすることで積層構造のくずれを防止し、さらに線径細径化により、単芯線材ながら18Tで約700 A/mm2の高いnon-Cu Jcが得られることを報告した。東海大の中田は ジェリーロール法とマルチロッド法Nb3Sn線材の比較を行い、両者はほぼ同等のJc特性を示すが、断面構成によるSn拡散の違いからNb3Sn相のSn組成やJcの磁場依存性に違いが見られることを報告した。Nb3Snの評価として、NIMSの竹内はNb3Sn線材のEBSD(電子後方散乱回折)分析を行い、破断面組織に対応する像が得られることからEBSDがA15相の結晶組織解析に有効なことを示した。さらに詳細な観察により等軸晶、柱状晶とも結晶配向性は認められず、Nb3Snの結晶間方位差は17-60°の大傾角であることなどを見出した。
 Nb3Al関係では多芯フィラメント間の磁気的な結合を抑制するためのTaマトリクス線材について3件、コイル応用について1件の発表が行われた。NIMSの飯嶋は、単芯のTaマトリクス線材について熱処理後の減面加工と線材特性について調べ、減面率70%の伸線加工時に、Tc、Jcとも増加する傾向であることを報告した。上智大の竹中は、多芯線材のマトリクスにTaを用いることで磁化率がNbマトリクスの場合の約1/2に低減し、低磁界でのフラックスジャンプ発生もなくなり、Taマトリクスが磁気的安定性の向上に有効であることを報告した。NIMSの伴野は、リスタックにより84×18多芯線材を作製し、1350 A/mm2 (12 T)のnon-Cu Jc、400 mJ/cc (3 T)以下のACロスを得た。これらはRRP法Nb3SnやITER仕様値と比較しても充分高Jc、低損失で、実用域の特性を示すことを報告した。NIMSの竹内は、Nb3Alコイル(6.9 T)とNbTiコイル(8.1 T)を直列接続した一括励磁マグネットを作製した。15 Tまで10分という高速励磁が可能で、長尺均一などの実用線材としての特性が実証された。
 核融合研の菱沼は、パウダー・イン・チューブ法V3Ga線材のCu-Ga原料粉末をジェットミルにより粒径7 mまで細粒化することで、V3Gaの拡散生成が促進し、Jc特性が著しく改善する効果を報告した。
 山口大の何は、5 mピッチの非対称なstep-grooveを形成したNb膜の磁気光学イメージで非対称な磁束浸入を観測し、ビーンモデルにより求めたJcが通電方向により1.38倍の非対称性を持つことを報告した。
                                      (日立電線 大圃 一実)

 

2. Bi系線材

 Bi系線材に関して5件の口頭発表ならびに6件のポスター発表があった。線材信頼性評価、超電導ひずみ特性、電流可視化技術、交流損失低減、という内容となった。以下に概要を記す。線材信頼性評価に関しては、住友電工の畳谷らから、作製ロットごとにおける低温磁場中での超電導特性の変動と、補強による変化について報告された。77 K自己磁場でのIcが140~170 Aの線材について、Type H(裸線)とType HT(ラミネート補強線)SUS(厚み20 m)、銅合金(厚み50 m)で補強したものの3種類が評価され、補強超電導線材は77 K自己磁場でのIcは劣化しないことが示された。これら線材の低温、磁場中でのIcの値を77 K自己磁場でのIcの値で規格化したもの(以下、 とする)で評価すると、同一ロット内での差は2 %程度しか変動しないことが明らかになった。同様に、ロット別に見た では、約4 %程度の変動が確認されている。DI-BSCCOの超電導特性は、補強前後、ロット間共に、77 K、低温磁場中での特性変化は僅かであり、Type H, Type HT共に、77 K自己磁場でのIc、及び、任意の温度、磁場中でのIcの信頼性が高いことが明らかにされた。
 評価技術に関しては、大同工大の町屋らから、中性子回折による線材中Bi2223結晶の残留ひずみの評価と複合則により算出したフォースフリーストレインの値から、初期Ic の99%を維持する可逆ひずみ限界の定量が行われた。ラミネート補強のない線材では、0.1%の可逆ひずみ限界であるが、ラミネート補強により、可逆ひずみ限界が2倍以上改善しており、局所的な粒破壊の抑制効果があることが示唆された。また、岩手大学の佐藤らより、外部磁場14.5 T下でのひずみ印加におけるIcの劣化挙動を評価した結果が報告された。現状のDI-BSCCOにおいて金属系超電導線材と同等の耐ひずみ特性を有することが示され、大きな電磁力のかかる強磁場応用においても金属系の代替品として有用であることが示された。電流可視化技術に関しては、豊橋技術科学大学の荒木らにより、永久磁石により磁化させた超電導線材の残留磁界分布をホール素子によって評価され、ツイスト線材に流れる電流の定量、分布の結果が述べられた。ツイストピッチの異なる線材を評価することにより、ツイストピッチの短いものは電流の低下部が長区間に発生しているのではなく、局所的に起こっていること、作製した線材では加工によるIcの低下が主要因であることが示唆された。
 交流損失低減に関して、豊橋技術科学大学の光野らは、Bi2223多芯線材のフィラメント間に使用するバリア材をCa2CuO3(+Bi2212-30%)からSrZrO3(+Bi2212-20%)に変更した結果、多芯線材焼結後のフィラメント間に生じた剥離を抑制することが可能になり、更に10 mm以下のツイストを施すことにより垂直磁界下において商用周波数より高い特性周波数を得ることが可能になったことを示した。また、同大の來原らは圧延によるフィラメント形状とJeとの関係に触れ、ツイスト加工によるJeの低下は線材端部における非圧延部が影響していることを示唆した。
 Bi系線材応用に関しては、8件の口頭発表ならびに2件のポスター発表があった。住友電工の大屋らはBi2223超電導ケーブルの低損失化、大容量化について、超電導ケーブル内コアの全てに低ACロスタイプの線材を使用するよりも、高磁場がかかる部分にのみ低ACロスタイプ線材を用い、その他の部分に高Icタイプの線材を使用する方が低損失化に有効であることを示した。また、大容量化が可能になることにより、安全性が向上することを示唆した。また、神戸製鋼所の濱田らより、1 GHz NMR内層コイルの開発、性能評価について報告された。作製したコイルは金属系超電導コイルの内層コイルを想定し、磁場11.74 T(500 MHz)を発生する超電導コイルを整列巻き線により作製している。世界最高級の電流安定度を持つ電源を使用した電源駆動モード運転により、金属系での永久電流モード運転と遜色ない磁場均一度、NMR分解能を得たことが報告された。
              (住友電気工業 畳谷 和晃)