SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.17, No.6, December. 2008

  《国際超電導シンポジウム(ISS2008)会議報告10/2〜29 ―つくば国際会議場ー》


 第21回国際超電導シンポジウムISS2008(国際超電導産業技術研究センターISTEC主催)は、つくば国際会議場(エポカルつくば)にて10月27日から10月29日まで18ヶ国、684人が参加して開催された。米国、欧州そして中国、韓国などアジア太平洋地域からの参加者が多く、発表件数は口頭130件ポスター368件合計498件と盛況になった。高温超伝導が発見されてから21年が経過しているが、近年応用研究の発表が増えており、9企業/団体による製品・技術展も同時開催される等永年に亘る研究開発の成果を実感させる会議であった。
 初日の会議では、ISTEC/SRL田中昭二名誉所長の開会挨拶に続いて、2件の特別基調講演と6件の基調講演が行われた。特別基調講演では、塩原融所長代行(ISTEC/SRL)が「日本に於けるCoated Conductor開発とその電力応用-Coated Conductorの材料及び電力応用技術開発に向けた5年間プロジェクト」と題して講演した。過去5年間(FY2002-FY2007)の技術開発の成果に基づき、材料開発と電力応用を目指す新5年間プロジェクト(M-PACC)が昨年6月にスタートした。線材の高性能・長尺化に関して藤倉がIBAD-PLD法で350 A×500 m = 176,000 Amを達成し、SRLがIBAD-MgO基板を用いて20~50 m/hの成膜速度でIc= 500~600 A/cmの41 m長テープを製造した。低コスト線材については、昭和電線がTFA-MOD法で310 A/cm、500 m長線材を作製した。一方電力応用については、小型SMES(2 MJ)の開発が始まっている。送電ケーブル関連では、東京電力/住友電工チームが横浜プロジェクト(66 kV, 3 kA, 300 m)を昨年から立ち上げており、15 m長短尺ケーブルの試験結果を報告した。また、車載用超電導トランスの開発がJR東海を中心に進められていると述べた。次いでJ.W. Spargo博士(Northrop Grumman Space Technology)が「ハイエンドコンピュータの為の超電導技術」と題して講演した。ハイエンドコンピュータ(HEC)に於ける最近の傾向は、必ずしもより高速のプロセッサーではなく、より多数のプロセッサーの使用を支持する。RSFQは、より速いプロセス速度とより小型でより低い潜在性のHECシステムに電力の増大を犯す事なく至る道を提供する。超電導RSFQ技術及びメモリー、包装、通信のような補助的技術の開発計画が提案された。当計画の詳細、実施の現状及び当初課題の進展が発表された。最後に、2010年の到達目標は、1 m3のpackage中に1 MJJ/cm2以上の素子密度での作製と1 kW @ 4 Kの冷凍機を内臓するCryo Processorの実現であると述べた。
 基調講演では最初に、大貫惇睦教授(大阪大学)が「重フェルミオンシステムの超電導性」について報告した。反フェロマグネットCeRhIn5及びCeIrSi3の圧力誘導超電導に絞って検討し、前者に於いてd波超電導を観測した。後者では印加磁場方向で異なる特異な超電導特性を示したと述べた(Hc2(0) = 9.5 T at 2.6 GPa, H // [110]: Hc2(0) = 45 T at 2.63 GPa, H // [001])。D.F. Lee博士(オークリッジ国立研究所)が「米国における次世代線材開発の進展」について報告。SuperPower社が153 A/cm、1300 m長テープを製造し、AMSC社が344超伝導線(200 A, 200m)を製造・販売している。R&DではORNLがIBAD-MgO基板を用いて4 m厚の YBCOを成膜し、1000 A/cmを達成したと述べた。松本要教授(九州工業大学)が「高Tc超電導体中の磁束ピンニング向けナノテクノロジー適用への挑戦」について報告した。高性能・低コストの線材を製造するにはIc特性の改良が重要である。其の為には強力なピンニングセンターを導入すべきで、ナノ技術による磁束ピンニング制御が有効である。最近我々の所で、従来の10倍以上のピンニング力(10~12 GN/m3)を達成したので、ナノロッドモデルによる解析結果と共に紹介すると述べた。J. Maguire博士(American Superconductor Corporation)が「AMSCに於ける高温超電導ケーブル及び限流器プロジェクトの現状」について報告。567 MVA-600m長のBi系超電導ケーブルプロジェクト(LIPA1)は本年4月より送電運転を開始し、現在も運転を継続中である。本プロジェクトにはLIPA2として、線路の一部をY系線材へ転換する計画が在る。この他に内国安全省(DOHS) Hydraプロジェクトの中で限流器機能を持ったY系ケーブルの実証が行われる。また、サウザン・キャリフォニア・エジソン社の変電所に於いて115 kV限流器の試験を行う予定と述べた。田中啓一博士(SIIナノテクノロジー)が「電子顕微鏡を用いた材料分析用遷移端センサーシステム(TES)」について報告した。TESは超電導転移の急峻さを利用したセンサーで、1.5 kVの電子線に対して15 eV以下のエネルギー分解能を持つ高性能システムである。電顕(TEM,SEM)に取り付けて使用出来る冷凍機付きTESシステムを開発したと述べた。生田博志教授(名古屋大学)が「応用からの要求を満たす為のバルク超伝導体の作製と磁化技術」について報告。Jc-B特性向上の為の不純物ドーピング(Zn, Co)やシーディングによるCaCO3導入の実例を紹介した他、マグネット応用に関連してパルス着磁など磁化技術の最近の進歩についてレビュ?した。
 2, 3日目の会議は、物理・化学、バルク/システム応用、線材/システム応用、薄膜・デバイスの各セッションに分かれて討論が行われた。閉会に当って清川寛専務理事は、次回の会議は2009年11月2日から11月4日まで、つくば市で開催の予定と述べた。各セッションの参加者に寄稿戴いた各報告を以下に掲載する。なお、物理・化学・磁束物理セッションについては超電導Web21に田島節子氏による詳細な報告が記されている。(http://www.istec.or.jp/Web21/PDF/08_12/J3.pdf)         (SUPERCOM事務局取材)

 

1. バルク&評価

バルク関係の発表は、BLセッションでは、REBCOバルクの作製方法や特性向上及び物性評価に関する発表が25件、応用に関する発表が10件、MgB2多結晶体の物性向上に関わる発表が9件、Bi系単結晶の作製方法や物性評価に関する発表が5件あった。また、SAセッションにおいても、バルク体を利用した機器開発や基礎特性評価に関わる発表が8件ほど行われた。以下、興味を持った発表のいくつかを報告する。
 まず、名古屋大学の生田氏が基調講演において、REBCOバルクのZnによるプレーンサイトCu置換、CoによるチェーンサイトCu置換及びREサイトのCa置換の単独あるいは前者との併用によるJc-B特性の向上手法やパルス着磁等の磁石化に関する課題とその改善方法等、名古屋大学でのバルク研究のレビューを行った。Cambridge大のD.A. Cardwell氏は、空気中でのGdBCOバルク作製に関し、Gd163相をBaリッチ原料として用いることで、Gd/Ba置換による特性劣化がなく、かつ成長速度低下のないバルク成長が可能であると報告した。また、MgO添加による融点上昇を利用して、融点の高いNd123系バルクの成長も可能とさせる汎用種結晶として利用可能であると報告した。種結晶に関しては、生田氏からも、MgO基板上に成膜したYBCO種結晶がSuper-Heating効果により、高温利用可能であるとの報告があった。IFW のK. Iida氏からは、成長済みのGdBCOバルクを粉砕した粉末を原料として、再度バルクの成長を試みるというバルク体のリサイクルという観点での発表があり、粉砕粉の粒径が初期原料と同程度であれば、ほぼ同等品が作製でき、再利用によるコスト低減が期待できると報告した。CNRS のX. Chaud氏は、高温高圧酸素下で熱処理することで、非常に短期間で、かつ酸素導入に起因するクラックの生成のないバルク体の作製が可能であることを報告した。東京大の堀井氏は、層状酸化物の各結晶軸方向の磁化率と結晶の形態の違いを利用し、静磁場及び回転磁場などを併用して印加することで、2軸配向が得られることを報告した。
 応用関係では、鉄道総研の長嶋氏から、高磁場勾配を持つ様に設計した超電導マグネットと60 mm のGdBCO系バルク超電導体を用いて、9000 Nという非常に大きな浮上力を得ることが出来たと報告があった。これを用いて鉄道用フライホイール型エネルギー貯蔵装置(FW)を作製し電力ロス低減に利用したいとのこと。また、KEPRIのT.H. Song氏らは、バルク体を利用した電力の負荷平準化用FWの開発状況に関し報告した。現在、10 kWhまでの試験を終了し、100 kWh級の製作を開始するとのこと。ここで、バルク体はラジアル型磁気軸受けとし、横ブレを制振するために利用しており、10000 rpmを超える高速域においても十数 m以下の軸ぶれ幅と優秀な数字を示した。新潟大の福井氏らは、バルク体を用いたスピンコータの開発において、FEM解析結果を紹介し、現在使用している30 mm の小型バルクを大型化することで急速回転、急速停止においても目標値が達成できる見込みとのこと。また、バルク超電導体の大きな磁気勾配を利用した磁気誘導薬剤搬送システム(MDDS) や磁気分離装置、さらに、バルク体の内部の磁場が均一になりやすいといった特徴を利用したコンパパクトNMRの可能性検討に関する報告など、バルク体の特徴を活かした応用についていくつかの報告があった。
                                (超電導工学研究所 坂井 直道)

 

2. 薄膜・接合・デバイス

初日の特別基調講演では、Northrop Grumman社のSpargoから米国で最近開始されたSFQ(単一磁束量子)論理を用いたHEC(High End Computing)を目指したプロジェクトに関する報告が行われた。2005年に作成された報告書STA (Superconducting Technology Assessment)を基に報告され、2010年での達成目標は、動作クロック50~100 GHz、集積度100~300万ゲート/cm2規模とされている。基調講演では、SIIナノテクテクノロジー社のTanakaらから材料分析用の電子顕微鏡(SEM、TEM)に付属するTES(超伝導転移端センサー)システムに関する報告が行われた。1.5 keVの蛍光X線に対して15 eV以下のエネルギー分解能、1 kcps以上の計数率を持ち、200 mTの磁場中で動作可能な検出器システムが構築された。SEM−EDSシステムは来年度発売予定と報告された。
 検出器関連では、NICTのMikiらが6 chのNbN超伝導単一光子検出器(SSPD)を3 KのGM型の冷凍機に設置したシステムを用いて100 kmの光ファイバーを用いた量子通信実験を行い、12 kbpsの暗号鍵生成速度が得られたことを報告した。また、CaltechのKarasikらは、HEnB(ホットエレクトロンボロメータ)を用いて10-20 W/√Hzの高感度やnsオーダーの高速応答を実現し、遠赤外領域での単一光子検出やTHz領域で高速なカウンター型検出器が可能であることを報告した。
 SQUID応用では、JuelichのZhangらにより、低磁場NMRに関する報告がなされた。低磁場とすることにより交流励磁の周波数が低くできることから、水溶液中のprotonに対して0.078 Hzの非常に細い線幅が得られたことが報告された。また、日立のSekiらは2次元配置のグラジオメータを用いることにより、磁気シールドのない環境で胎児の心磁信号が計測できることを報告した。さらに、SRLのHatoらは界面改質型の接合により構成された高温超伝導SQUID (5 ch)を用いた高温超伝導線材の非破壊検査に関する報告を行った。現在30 m/hの検査速度が達成され、将来は200 m/hを実現することを報告した。
 マイクロ波応用では、精華大学のCaoらから北京市における携帯電話用超伝導フィルタのフィールドテストに関する報告が行われた。2005年に5台のCDMAベースステーションによる運用が始まり、2008年からは8台に増加させ、20万人の日常の通信に問題なく用いられている。また、東芝のNakayamaらからはレーダーシステム用の、富士通のYamanakaらからは高温超伝導パワーフィルターの報告が行われた。いずれも、高いパワーハンドリング性能と急峻なカットオフ性能を有しており、ピークパワーとして10Wの信号を取り扱えることが報告された。
 量子コンピュータ関連では、NECのAstafievらが、ジョセフソン電荷量子ビットを用いたレーザ効果について報告した。3準位系であるジョセフソン電荷量子ビットをマイクロ波キャビティーと結合し、反転分布状態を形成することにより、レーザ発振効果と誘導放出効果を得ている。UC Santa BarbaraのWangらは、ジョセフソン位相量子ビットを用いて共振器の量子状態を自由に操作することに成功した。本方法を用いて共振器の励起状態の緩和時間を測定し、理論との良い一致を得ている。また、イントリンシック接合における巨視的量子効果について、筑波大のKuboらと京大のKakeyaらが、5 Kを超える大きなクロスオーバ温度や、2種類のクロスオーバ温度の存在などを報告した。
 デジタルエレクトロニクス関連では、SRLのHinodeらが、ジョセフソン集積回路プロセスにおいて、水素の拡散がジョセフソン臨界電流の大きさに影響し、Mo層が水素の拡散を押さえることを報告した。名大の田中らは、ジョセフソン集積回路においてバイアス電流が発生する磁場を低減するための新たなバイアス供給法を提案した。Northrop GrummanのHerrらは、2重フィードバックループを持つADコンバータについて、最近の研究成果を報告した。SRLのSuzukiらは、SFQ回路のための40 Gbps光入力回路を試作し、ビットエラーレートを評価した。横国大のYoshikawaらは、再構成可能なSFQデータパスの研究開発に関する最近の研究成果を報告した。また、名大のAkaikeらは、アドバンストNbプロセス用のセルライブラリを開発し、小規模回路の90 GHz動作を報告した。                           (横浜国大 吉川信行)

 

3. RE123

 RE123薄膜超電導線材、いわゆるCoated Conductor関連の発表は、主に「Wires, Tapes and Characterization」セッションで行われた。発表件数はOralで10件以上、Posterも50件以上と非常に多く、活発な議論がなされていた。本稿では各社、各研究機関の線材開発状況とその他トピックスについてまとめて報告する。
1) 線材開発状況
 各機関から「高速化、高Ic化、長尺化」などを主眼に報告された。
○ 海外
米国からはSuperpower社、AMSC社、そしてLANLなどから発表があった。Superpower社からは、長さ1000 m以上のIBAD-MgO中間層を既に40本以上作製したという報告があった。また、MOCVD法による超電導層作製プロセスでは1 m長でIc = 813 A/cmの高Ic特性を記録し、磁場中特性もZrドープによって改善されているということであった。Ic×L値でもIc×L = 227 A/cm×1,030 m = 233,810 Am/cmの世界記録を達成していた。AMSC社は量産を見越して、幅広の配向金属基板上にMOD法で超電導層を製造してから4.4 mm幅へスリットするというプロセスを採用しており、200 m長でIc = 250 A/cmの長尺線材の作製に成功しているとのことであった。また、Marken氏(LANL)からはPLD法において成膜条件や膜のピンニングを厳密に制御することで(詳細は明かされていないが)、膜厚4 m程度でIc = 1500 A/cmのサンプル作製に成功したと報告され注目を集めていた。実製造ラインへの技術移管が期待される。
韓国からはMoon氏(SuNAM Co. Ltd.)が、高速化プロセスを中心に発表した。基板の電解研磨が90 m/h (4 mmw)の高速で表面粗さRa = 1 nm程度を実現しており、IBAD-MgOプロセスも600 m/h (4 mmw)に到達しているという。さらには基板研磨からIBAD、LMO中間層に至る工程を一つのチャンバー内で一括して行うシステムを検討中であるとのこと。
○ 国内
 フジクラ、昭和電線、住友電工、ISTEC-SRLなど各機関から線材開発の進捗に関する発表があった。Kutami氏(フジクラ)からは大型IBAD装置を使用することで、500 m/h (10 mmw)の高速で良好な配向を示すIBAD-MgO中間層の作製に成功したと報告があった。また、超電導層の成膜においてはホットウォール加熱のPLD装置においてReel-to-reel成膜により6 m厚でIc = 1040 A/cmという高Icを達成しており開発の進展が目立っていた。PLD法に関しては、Yamada氏(ISTEC-SRL)からもBa-poorターゲットを使用することで膜厚を厚くしたときのJcの低下を抑制できると報告があり、40 m長でIc ~ 600 Aの高特性の線材作製に成功しているという。また、Chikumoto氏(ISTEC-SRL)からはPLD法の高速化への指針としてターゲットと基板間の距離(TS間)を近づける"in-plume"法について紹介があり、TS間を変えると膜の組成も変わるためターゲットの組成をあらかじめ制御することが有効であるということであった。Izumi氏(ISTEC-SRL)からは低コストプロセスであるTFA-MOD法に関して、Reel-to-reelの仮焼工程でのマルチターン化による高速化や、原料溶液の組成制御による高特性化などの報告があり、短尺ながら2 mにも満たない膜厚でIc = 735 A/cmのサンプル作製に成功しているという。Aoki氏(昭和電線)はMOD法のこれら技術の移管を受けて、仮焼き工程では線速10 m/hの高速化に成功し、500 m長の線材作製に挑戦して全長(end-to-end) の通電測定でIc = 310 A/cmを達成したと発表した。Taneda氏(住友電工)からは、低磁化率のNi合金系クラッド基板の開発について報告があり、短尺でIc = 321 A/cmを得ているとのことであった。

2) その他トピックス
○ 人工ピン
 BaZrO3(BZO)ナノロッドによるピンニング機構を中心に非常に多くの発表があり、磁場中特性向上への非常に有意義な議論がなされていた。Yoshida氏(名大)らのグループからは、基板に垂直な方向から観察したTEM像を見るとBZOナノロッドがあたかも花火のような構造(Firework structureと呼ばれていた)をとっているという報告があった。BZOナノロッド成長機構でロッド同士に何らかの相関があることが示唆されるとのこと。またAwaji氏(東北大)からはBZOとBaSnO3(BSO)のピン力の違いについてJc特性や組織観察など様々な視点からの報告があった。その他ナノロッドではなくナノドットを導入しようとする試みや、PLD法とMOD法における人工ピン導入の違いなどについても報告があった。
Coated conductorの開発は実用レベルに達してきているという実感を受け、様々な機器応用への夢が大きく膨らむ会議であった。                                (FJK 五十嵐 光則)

 

4. 大型システム応用

 Large Scale System Applications分野は、オーラルセッションで15件、ポスターセッションで約50件の発表があった。最近は韓国からの発表数がたいへん増えていて、今回のポスターセッションでは発表の半分を占めていた。以下では、オーラルセッションでの発表の概要を紹介する。
 T.-H. Sung氏(KEPRI, Korea)は、韓国電力研究所(KEPRI)で開発中の超電導フライホイールエネルギー貯蔵装置の開発状況について報告した。5 kWh級システムを製作、試験して、14,800 rpmで10 m以下の振動という軸受性能を実証した。2005年からは100 kWh級システムを開発中であり、超電導軸受部についてはすでに試験が行われている。2011年までには装置が建設される計画になっている。
 山本明氏(高エネルギー加速器研究機構)からは、CERNのLarge Hadron Collider (LHC)の超電導マグネット技術について紹介があった。5000個を超えるNbTi超電導マグネットが、約27 kmのトンネル中に設置された大規模システムであり、高温超電導電流リードも使用されている。最先端の超電導マグネット技術とその規模の大きさは非常に印象的であった。
 向山晋一氏(古河電工)は、超電導送電用(RE)BCOケーブルの開発成果について報告した。1 cm幅のテープ線材にレーザでスリットを入れた2 mm幅テープで作製したケーブルで、1 kA時に0.05 W/mという低交流損失を達成した。また、中間接続部の開発や20 m長YBCOケーブルによる過電流試験も実施された。
 H.-W. Neumueller氏(Siemens AG, Germany)は、Siemensにおける超電導回転機開発の最新状況を紹介した。電気推進船用として開発・試験された4 MVA高温超電導発電機は、ニュールンベルクの試験設備で無効電力補償用の同期調相機として長期運転試験中で、高温超電導機の信頼性検証と試験設備の無効電力補償に使用されている。また、320 kNmの高トルクを有する定格120 rpm, 4 MVA舶用モータの製作も進行中であり、2010年10月には工場試験が計画されている。
 P.N. Barnes (Air Force Research Laboratory, USA)は、出力5 MW、6極、周波数1750 Hz、定格回転数35,000 rpm、効率98%、直径50 cmの高速高温超電導発電機(HTS Homopolar Inductive Alternator)の設計と、1 MW試験機での試験結果として10,000 rpmで1.3 MWの出力が得られたことを報告した。低交流損失のY系超電導線材が得られれば、巻線部のシールドの省略、場合によっては電機子巻線の超電導化も期待できるとのことである。テープ線材の形状をうまく利用した永久電流スイッチについても紹介があった。
Y. Iwasa氏(Massachusetts Institute of Technology, USA)は、MRIへの適用を目指したMgB2マグネット技術を報告した。MgB2線材のsplice技術や永久電流モードにあるMgB2マグネットの保護技術を紹介した。
 上岡泰晴氏(大陽日酸)は、高温超電導応用機器への適用を目指したタービン方式冷凍機の開発について紹介した。ネオンガスを用いたターボ・ブレイトンサイクル冷凍機は、70 Kで2.75 kW、65 Kで2 kWの冷凍能力をもち、カルノー効率の20%程度まで達成した。タービンの最大回転数は100,000 rpmである。
 山崎裕文氏(産総研)は、Au-Ag合金保護層を有する大面積MOD-YBCO薄膜を用いた500 V/200 A限流モジュール開発について研究成果を報告した。高抵抗Au-Ag合金を保護層(約60 nm厚)に使用することにより30 V/mを超える高電界条件で使用可能となり、YBCO超電導薄膜を大幅に小さくできる。さらに27 mm幅、200 mm長の膜をBi2223テープ線材で並列接続して限流試験をした結果の報告があった。
 矢澤孝氏(東芝)は、NEDOプロジェクトとして実施された、Y系線材を使用した6.6 kV/600 A超電導限流器の開発成果について報告があった。定格電流72 Armsの三相限流コイルは、GM冷凍機を搭載したサブクール窒素クライオスタットに納められている。6.6 kV条件での限流試験では、1.6 kAの短絡電流が800 Aに限流することが実証され、限流試験後も線材特性の劣化等は見られなかった。この限流器はその後フィールド試験が行われた。さらに、600 A級の超電導限流コイルの開発も行われた。
 岩熊成卓氏(九州大学)は、2008年にスタートしたNEDOプロジェクトにおけるY系線材を使用した超電導変圧器の開発計画について紹介した。66 kV/6.9 kV-20 MVA超電導変圧器をターゲットとし、低交流損失、大電流容量、高耐電圧が重要開発技術要素である。レーザスクライビング技術により、5 mm幅で5フィラメント構造のY系線材を製作し、19層のコイルを巻いて試験を行ったところ、60 Hzで交流損失が約1/5に低下することを実証した。
 さらに、大橋俊介氏(関西大学)からは、ハイブリッド構造のHTSバルク−永久磁石構成の超電導軸受の電磁力特性、増田孝人氏(住友電工)からは、NEDOプロジェクトとして進行中のDI-BSCCO線材を使用した超電導ケーブルの横浜プロジェクトの概要、東川甲平氏(九州大学)からは、GdBCO超電導線材を使用した高磁場コイルの設計と各種特性、J.-B. Song氏(Korea University)からは、Y系線材の固体窒素冷却の効果、小山智徳氏(東京電機大学)からは、電磁反発スイッチと組み合わせた超電導限流器について研究報告があった。
 今年のISSでは、Y系線材を使用した、あるいは使用することを前提とした研究開発の報告が昨年にも増して多くなってきた。Y系線材の研究開発の進展状況には応用研究側からも大いに注目していきたい。
                                                                    (東京大学:大崎 博之)

 

5. Oxypnictide系新超伝導体

  29日にはTopical SessionとしてOxypnictide系新超伝導体のセッションが行われ、計18件の発表がなされた。内訳としては、REFeAsO(1111系)及びAEFe2As2(122系)の合成と特性評価に関するものが5件、電子状態計算が5件、結晶構造に関するものが2件、MOなどを用いた物性評価が3件、類縁構造を持つ超伝導体に関する報告が3件であった。主な内容について以下に報告する。基調講演としてHirano(東工大)よりFeAs系超伝導体発見の経緯が紹介された。またPLD法による薄膜の作製を試み、La-1111の薄膜作製に成功したものの超伝導は確認できていないこと、SrFe2As2 (Sr-122)をCo, Niで置換することにより超伝導が発現したとの報告や、新物質のCaFeAsFでの超伝導発現など最近の研究状況に関して報告がなされた。この講演に続いて、Oak Ridge National LaboratoryのSinghからは、第一原理計算によるFe系超伝導体の特徴について報告があった。1111系・122系などFeAs系全体にわたる特徴として、キャリア濃度が低く、状態密度が高いことが挙げられるとのことであった。またRen(Chinese Academy of Science)らはRE = La~Gdまで各REのREFeAsOについてTcの圧力依存性、TNとTcとの関係、RE混合系でのTcの変化などについて、Aoki(東大)らは強束縛近似による電子状態計算結果について報告した。以上の計4件が招待講演である。一般講演では、1111系・122系の物性・電子状態計算、MO像を用いた解析や類縁構造を持つ物質の超伝導性などについて発表が行われた。Wen(Chinese Academy of Science)らは比熱・磁場侵入長などの比較から、1111系・122系の特性が大きくことなることを示した。また上部臨界磁場が高いものの異方性は4~5 (1111系)、2 (122系)といずれも低く、応用上優れているとのことであった。Shirage(AIST)らは高圧合成により新超伝導物質としてCaFe2As2を発見したこと、La-1111の高圧によるTc向上などを報告した。Ishikado(原研)らは、高圧合成によるPrFeAsO単結晶の育成結果について報告した。既にmmオーダーの大型単結晶が作製できるようになってきたとのことで、今後は質的な改善が期待される。Lee(AIST)らは1111系の中性子による構造解析結果から、FeAs4四面体の歪みと超伝導性に相関が見られること、酸素欠損量やREの違いによるTcの変化がかなりの部分この歪みから説明できることを報告した。このほかAISTグループからは、1111系のTcの圧力依存性、類縁化合物であるBaNi2P2の物性などについて報告がなされた。Kondo(Iowa state university)らはARPESを用いた1111系、122系の解析結果から、フェルミ面の形状及びドープによる面形状の変化について報告した。Nd-1111の超伝導ギャップは20 meVであり、Tc以下でコヒーレント成分が現れることなど、いくつか銅酸化物系に類似した挙動が観測されているとのことであった。Yamamoto(NHMFL)らは、FeAs系のMO像の解析結果について報告し、現状では試料は不均一であるものの、粒間電流は発見当初の銅酸化物系よりも高く、応用上も期待できるとのことであった。
Tamegai(東大)らはMO像を用いた解析により、粒間・粒内電流を見積もり、粒内に比べて粒間電流が非常に低いことを報告した。また、これまでのFeAs系のMO像を用いた解析で、ある程度野粒間電流が確認できているのは前述のNHMFLのグループのみで、試料間の差異が非常に大きいとのことであった。Fe系で最も簡単な結晶構造をもつFeSeに関しては、Mizuguchi(NIMS)らが硫黄ドープ・テルルドープおよび圧力依存性について報告した。現状では更に高い数十GPaという圧力では超伝導が消失することが確認できているが、中間領域は未探索で、更なるTcの向上も期待できるとのことであった。
今年春にFe系超伝導体が発見されて以降、122系やFeSeなど一連の類縁物質における超伝導が発見され、様々な実験及び電子状態計算などを通じて超伝導体としての特徴が明らかにされつつあり、応用に関しては優れた特性が示唆される一方で、高Tc化については約55 Kで足踏みしているのが現状のようである。材料化技術の開発と共に、今後の更なる新物質開発にも期待したい。          (東京大学 荻野 拓)