Bi系線材
Bi2212では、Oxford InstrumentsがOSTのBi2212 丸線(1.5 mm )を内層コイルに使った4.2 K運転22.07 T、25
mm ボアの全超電導マグネットを発表した。これはNbTi線とRRP法Nb3Sn線で構成される20 T−78 mm ボアのマグネットに、高さ100 mm、各6層の2つのWind
& React法Bi2212コイルを挿入したものである。Bi2212コイルの素線間はアルミナで絶縁され、エポキシが真空含浸されている。Bi2212線材関連は8件の口頭発表のうち、4件がHellstrom、SchwaltzらASC-NHFMLグループからの発表であった。これらは全て丸線に関するもので、特にOutgrowthによってフィラメント同士がつながって3次元的電流パスが形成されることによりJcが向上する現象に注目していた。焼成後のフィラメントには2212結晶の他に、ボイド、アルカリ土類銅酸化物凝集相、2201が見られ、2212相内に2201のIntergrowthもある。ただし銀との界面はほぼ2212単相となっており、2212が銀界面に沿って配向している。横断面ではフィラメントは円形であるため、溶融後の2212相析出・凝固のための冷却プロセスでまず2212板状結晶がフィラメントの外周に沿って円周状に形成される。冷却速度を遅くすると2212板状結晶が大きく成長し、その一部は銀マトリックスを貫いて隣のフィラメントまで到達する。板状結晶同士が小さなズレ角でつながるとフィラメントを跨ぐ電流パスが形成されるという。NIMSのTakahashiはIsothermal
Partial Melt Processと称する昇温および最高温度保持過程で雰囲気ガスを窒素から徐々に酸素濃度を上げて最終的に酸素100%とする焼成法を報告した。コイルあるいは大容量導体の全体で、均一に温度の時間変化を制御することが困難な溶融凝固プロセスに変えて、炉内の温度は一定値を保ちながら酸素濃度を変化させることにより質量の大きな対象物全体で溶融凝固を均一に制御することが目的で、同方法を最初に開発した大工試(当時)の導体の特性を超えることを目指している。結晶配向の改善を微小領域のマイクロラマン散乱、粒結合の改善を帯磁率の温度変化、微小領域のX線回折で確認していた。Supercon社はASC-NHFMLと共同研究としてfilament
sizeを小さくして銀界面を増やした丸線の試作結果を発表した。直径8~20 mの範囲では12~15 mでJcが最高になった。彼らの目標は20 K運転のOpen
MRIで線材コストを抑えるためにsingle stackの低銀比設計で性能向上を目指している。
Bi2223では口頭発表は6件全てが日本からの発表で、その内4件は住友電工製加圧焼成線材DI-BSCCO シリーズ各品種の様々な特性を紹介したものであった。住友電工のAyaiは同社の標準型DI-BSCCO
Type Hと、2種類の金属テープ補強線Type HT-CA, Type HT-SSの電気特性、機械特性を、NIMSのKitaguchiはスリム型金属テープ補強線DI-BSCCO
Type STのIc、n値の磁場温度特性と、それを用いた小コイルについてを、応研のOsamuraはDI-BSCCO Type HTの機械的特性、横浜国大のTsukamotoは交流用線材Type
ACを金属テープで補強した試作線の引張応力下での交流損失をそれぞれ発表した。東大のShimoyamaはBi2212単結晶、Bi2223バルク材の研究結果から推定して金属・酸素組成比を最適化することによりBi2223線材のJcは少なくとも現状(77K、自己磁場下で50~60
kA/cm2)の10倍以上に向上するとの見通しを示した。ポスター発表では中国・精華大のQuはInnoST社製の37芯線を、自作の小型加圧焼成装置を使って10
MPaで焼結し、空隙のない緻密な組織を得ることに成功している。使用した線材のIcは加圧前で80 Aとやや低く、加圧後は15%向上して93 Aが最高であった。組織はOutgrowthが多く未反応相の比率も未だ高い。九州大学のFunakiは、ツイストピッチを変えた交流用線材DI-BSCCO
Type ACの磁化損失を発表した。交流損失を構成する成分のうち、本来ツイストピッチに関わらず一定であるべきヒステリシス損失にツイストピッチとの相関が見られ、In-situ法Nb3Sn線と同様にフィラメント間が部分的に物理的結合している影響を考慮したモデルによる説明を試みた。Slovak
Academy of ScienceのSolovyovは、Trithor社の市販Bi2223テープのエッジ部にNiをメッキした線の評価結果を報告した。Ni層によって磁場分布が変わりIcが53
Aから63 Aに向上すること、およびNiの磁性による増加分を合わせても線材体交流損失低下することを示した。 (住友電工 綾井直樹)
会議は、Electronics、Large Scale、Materialsの三分野に関する講演が口頭、ポスターと順次紹介されていった。2年前に比べ、Large
Scale分野におけるCoated Conductor関係の発表が飛躍的に向上しているように感じられた。ここでは、Materialsの中心的な研究となっている、RE123導体やRE123薄膜などのCoated
Conductorに関する発表を一部紹介する。 Coated Conductorの分野は日米を中心として、「長尺化、高Ic化、コスト低減などの実用化開発を念頭に入れた研究」を中心に「超伝導マグネットなどの応用を目的として、磁場中高特性化のためのピン止め点の導入」などの研究結果を報告していた。
長尺化、高Ic化、コスト低減などの実用化開発を念頭に入れた研究は、前回のASCから2年の間に、世界中の多くのグループの成果が進展している。その中でも今回報告のあった、日米のグループの成果は会場の多くの聴象の興味をひいていた。Super-Powerは、IBAD-MgO基板上YBCO-cc
は、長尺化、高Ic化、さらに磁場中高特性化というあらゆる面から検討を行い、記録を更新していた。約1.3 kmのテープはIc (77 K, 自己磁場) =
153 A/cm、540 m長のテープでは337 A /cmなど、長尺化、高Ic化の面から各種実績を述べていた。さらにMOCVDテープとしてあまり報告のなかった人工ピンに関してもZr導入(Gd,Y)BCOテープの磁場中高特性化、微細組織をまとめて報告した。一方、日本のグループからも例えば、フジクラのGdBCO-IBADテープや低コストプロセスの昭和電線ケーブルのMODテープなど長尺化、高Icのデータ更新が続々と報告されている。このようなCoated
Conductorの成果がLarge Scale分野の活発な研究開発の基盤になっていると感じられる。
超伝導マグネットなどの応用を目的として、磁場中高特性化のためのピン止め点の導入に関する報告は、4年前のASCからAFLや日本のグループを中心に提案され、2年前の会議では多くのグループから報告され、今回の発表でも高磁場高特性化をめざして多くの報告があった。ONLのグループでは、これまでの人工ピンの研究成果、例えばハイブリッド人工ピン(BZOドープYBCO薄膜はB
// cに高いピンニング特性を示すがB // abのJcは低下傾向にある。そこで、全膜厚のうち、半分をBZOドープYBCO層、残りの半分をBZO層とYBCO層を交互に積層させる方法)を紹介するとともに、Baを含まないSrZrO3やMgOを用いた場合の人工ピン導入研究に着手していた。これらのBaを含まない酸化物材料においてもナノロッドが微細組織から確認され、磁場中特性からB
// cにc軸相関ピークが確認されている。しかし、MgO人工ピンの場合添加量に対するTc低下が課題であると述べていた。また、低コスト線材プロセスとして期待されるTFA-MOD法においても PLD法で報告されているBZOなどに加え、Y2O3やZrドープなどの報告例が紹介されている。
BZOやBSOなどの人工ピンは、これまでそれらの導入による超伝導特性の評価などに研究の重点が置かれてきている。その間、磁場中Jc向上、角度依存性、c軸相関ピンなど、国内外から興味深い報告が行われた。さらに今回の会議では、BZOドープしたYBCO薄膜における自己組織化BZOナノロッドの成長メカニズムを理解するために Simultaneous
Phase SeparationやPhase-Field Model、薄膜成長のマイグレションなどを含めて考察していくために、成膜条件などの異なる薄膜の表面断面微細構造の詳細な結果やシミュレーション技術の構築がおこなわれている。
本報告では紹介できなかった研究内容も含めて、基礎的研究から応用を念頭にいれた研究が多くなりつつあるが、Coated Conductorの長尺化技術、人工ピン導入、さらにここでは紹介しなかったが評価技術、応用機器への適応技術の観点からさらなる新規アイディアや技術の構築が研究進展には重要であると感じられた。
(名古屋大学 吉田隆)
RE123溶融凝固バルク体に関連した報告では、ポスター発表を中心としHTS Bulk - MaterialsやHTS Bulk -
Large Scaleのセッションなどにおいて約30件の報告があり、そのうち日本からの報告が多数を占めた。本報告ではバルク体の機械的特性、超伝導特性、着磁特性、またバルク体を用いた磁石システムに関して述べる。
機械的特性に関して、H. Fujimoto(鉄道総研)らは、Agを添加したGd123溶融凝固バルク体の曲げ強度、破壊靭性などについて報告した。またA.
Murakami(弘前大)らはDy123溶融凝固バルク体の空孔率と機械的強度の関係を調べ、バルク体の育成雰囲気をPO2 = 1 atmとし空孔率を低減することでYoung率が上昇することを報告した。
超伝導特性に関して、Y. Shi(Cambridge大)らはGd2BaMCuOy (M = W, Ag, Nb, Bi)ナノ粒子を添加したGd123溶融凝固バルク体を作製し、これにより臨界電流特性が向上することを報告した。また、P.
Laurent(Liege大)らは、大型バルク試料を対象とした磁化測定システムを設計、開発した。試料上面と底面にヒーターをそれぞれ設置することによって、32
mm までの大型試料内でほぼ均一な温度分布を実現し、このシステムを用い18 mm および30 mm のバルク体の磁化率の温度依存性の測定に成功した。
着磁特性に関して、R. Weinstein (Houston大)らは、バルク体のモーターへの搭載を想定し、鉄リングに組み込まれたバルク体の着磁特性について報告した。T.
Oka(新潟大)らはバルク磁石応用における小型冷凍機冷却の有用性を強調し、異なる小型冷凍機を搭載した二種類のバルク磁石システムを設計・開発、その着磁特性を報告した。Y.
Yamazaki(東大)らはバルク体の成長領域によって臨界電流特性が異なることに注目し、高捕捉磁場特性を有するバルク体の設計と開発を行った。H.
Fujishiro(岩手大)らは、静磁場着磁においてより高い捕捉磁場特性を示したバルク体に対し、MMPSC法を用いて着磁を行った結果を報告した。また、H.
Ohsaki(東大)らはバルク体の不均一性を考慮に入れ、パルス磁場を印加した後の捕捉磁場分布をシミュレーションを行い、磁束がJcの低い領域から侵入することを示した。
バルク磁石応用に関して、F. Mishima(阪大)らは、工業用ドラム缶洗浄排水を浄化する磁気分離システムを開発し、実証試験を行った結果について報告した。またS.
Nishijima(阪大)らは、日立と共同開発したMDDS用小型磁石装置を用い、マウスとブタの血管内において薬剤搬送実験を行った。その結果、目的位置への薬剤の集積に成功したことを報告した。 (東京大学 石井悠衣)
ASC2008では非常に多くのMgB2に関する報告があった。MgB2に関する発表は登録されている数で約110件、そのうちMaterial部門が圧倒的な数を有しているが、ElectronicsやLarge Scale Applicationでも発表があった。そのうちMaterial部門におけるMgB2のセッション数は12とほぼ連日午前、午後全てにわたって発表が行われた。ただ、残念だったのは登録されているにもかかわらず、当日も含めて、20件近くがキャンセルとなっていた(これは中国からの参加者にビザが下りなかったことが主要因と思われる)。しかしながら、MgB2に関する興味(特に日本以外で)が非常に高いことを示す会議であった。
8月20日の夜にはFeAs系超電導体の特別セッションが企画されていた。このセッションではまず当の発見者である東工大の細野が発見のいきさつから始まる講演を行った。さらに同グループが最近作製に成功したエピタキシャル成長薄膜について報告した。これはSrFe2As2という母物質のFeの一部をCoで置き換える事により超電導を発現させた物質で、約20
Kの臨界温度を有している。磁場中の電気抵抗の測定もすでに行われているが、磁場をc-軸に平行に印加した時と垂直に印加した時の違いは小さい。これは最近単結晶で報告されている実験事実と符合するが薄膜の場合はさらに異方性が小さい様である。続いてヒューストン大のChuは圧力下で超電導が発現するケースは圧力がSDWを抑制するためであると述べた。またいわゆる無限層構造を持つ物質について紹介した。ジョンズホプキンス大のTesanovic
は理論の立場からこれらの物質が複数のフェルミ面を持つ事の重要性を強調した。また臨界温度はFeAs面におけるAs原子配置の平面からのずれで決まるのではないかとのアイデアを紹介した。続いてフロリダ州立大のLarbalestierは磁気相図において上部臨界磁場と不可逆磁場があまり離れていない事を紹介した。これは銅系の高温超電導体と大きく異なる点で実用化の可能性を高める特性である。
以上4件は招待講演であった。続いて5件の一般講演が行われた。イタリアのFerdeghini はSmFeAs(O,F)について、中性子散乱や比熱の実験を報告した。オーストラリアWollongong
大の Wang は NdFeAs(O,F)について報告した。Chinese Academy of Science のMa のグループからはpowder-in-tube
法による線材作製の試みが報告された。磁気的に測定した臨界電流がかなり高いにも拘らず、通電によれば1 kA/cm2 程度にとどまっており、現状では粒間の結合が不十分なようである。Geneva
大の Senatore は20 Tまでの磁場中で比熱を測定し、上部臨界磁場が優に100 Tを超える事を報告した。IFW Dresden
の Backen はPLD法によるLaFeAs(O,F)薄膜作製について報告した。この物質の多結晶体の臨界温度が26 K であるのに対し、薄膜の臨界温度は11
K 程度にとどまっており、薄膜の質としては依然不十分の様である。
この特別セッションには、ASC が超電導の応用をテーマとする会議であるにも拘らず多数の出席者がつめかけた。質疑応答は盛り上がり、7時から9時までの予定であったが実際に終了したのが10時を過ぎていたのは、最初に司会者が予測した通りであった。但し伝説となった1987年の"Woodstock
of Physics"の時代と大きく違うのはインターネットに代表される通信技術の進歩で、新しい発見は直ちにcond-mat
等で直ちに伝えられる世の中になってしまっている。従って予想される事ではあったが、会議では始めて聞く驚くべき報告はなかった。また特別セッション以外の一般セッションではFeAs系に関する発表は事実上なかった。2年後に首都ワシントンで開催される予定の次回ASCにおいてFeAs系超電導体の応用に向けた研究がどの程度進展しているかが注目される。
(超電導工学研究所 中尾公一)
ASCを構成する3分野の1つであるLarge Scaleの中から、主に電力機器応用について筆者の興味をひいたものを報告する。前回のASC2006に出席された方は、米国DOE-SPIの各プロジェクトの最新情報や、韓国DAPASの進捗、欧州の機器開発などに、ワクワクされたことと思う。残念ながら今回のASCではそのような高揚感は得られなかった。新たにスタートしたプロジェクトに関する情報は見あたらず、予定通り進んでいる実証試験の報告や小規模な実験報告、概念設計に関する報告が多かった。Y系導体の機器応用については本格化しつつあり、今後の進展が期待される。
[電力ケーブル] 初日最初のOral sessionにおける2件続けてのInvited Talkは、米国AlbanyとLong Island (LIPA)のHTS電力ケーブルであり、その扱いからも注目度の高さがわかる。今回の発表は、昨年~今年に行われた実系統への導入試験をはじめとした絶縁試験や冷却試験など各種試験の結果報告であり、両プロジェクトともすべて順調とのことであった。プロジェクトの概要は本誌バックナンバーを参照していただくとして、一言でまとめれば、Albanyは配電用で導体は住友電工とSuperPower、LIPAは送電用で導体はAMSCが担当した。LIPAケーブルの仕様は、2005年に終了したNEDOプロのそれを上回るもので、着々と要素試験が進められており、我が国が保有していた超電導ケーブルに関する数々の高い技術を上回っていく様を見るのは、悔しくも思える。2008年4月から始まった実運用試験は、最低でも1年間行われる予定で、その後、AMSC社製Y系導体で600 mのケーブルを製作し、現在のBi系ケーブルと置き換える計画という。なお、冷凍設備は、頓挫したDetroitプロジェクトで使われたものを改良して使用しているとのことである。発表からは冷凍技術周辺に課題が多い印象を受けた。138 kV送電線を345 kVにアップグレードするより、この超電導ケーブルに置き換える方が低コストである旨の発言もあった。Albanyケーブルの方は住友電工の技術が活かされており、豊富な実績に裏打ちされた安心感すらある(我が国の高温超電導ケーブル実証プロジェクトもInvited Talkであった。韓国KEPCOケーブルも住友電工が主導しているといって過言ではないと思うが、こちらは数件のポスター発表があった)。発表の最後にNational Grid社のWilliam Flahertyの発言「(HTSケーブルを実系統へ導入するに際し)何ら困難に直面しなかった。顧客にとっては(HTSケーブルの導入は)完全に透明だ。」を引用していた。超電導電力機器の真の実用化は、超電導かどうかを特別意識させないことだ、という主張には首肯する。米国では他に数件の新ケーブルプロジェクトが計画されているが、筆者はASC会場でそれらの詳しい情報を得ることができなかった。
[限流器] リアクトル型とSN転移型、その中でも薄膜式や巻線型など、種々多様な限流器の発表があった。様々な限流方式の原理検証や、高電圧大電流化のための実験件的検討がほとんどで、抜きんでて実用化が近いと思える方式は、今のところない。近年の傾向として、超電導自身でエネルギーを消費することをあきらめ、超電導デバイスを限流開始のためのスイッチとして使う方式が増えている。しかしただのスイッチであるなら、常時通電損失が小さいこと以外に、競合技術に対する圧倒的なアドバンテージがない。韓国KEPRIの限流器は、超電導デバイスへの負担を減らし、かつ電力系統の保護協調設備との親和性を増すため、短絡電流の第一波は限流せずに通過させて次の波から限流させる方式をとっている。この考え方は新しく、今後の動向に注目したい。また、巻線SN転移型限流器を意識したY系導体の熱解析と安定性に関する発表も複数あった。基板材料が異なるとノーマル発生時の導体内部の温度分布や伝搬の様子が大幅に異なるが、これを数値解析により視覚的に表した発表があった。限流器の設計に大いに役立つだろう。
[モータ] 2日目のPlenary SessionではFlorida State UniversityのProf. Cesar Luongoが、HTSの航空機への適用性について講演を行った。講演のメイントピックであるNASA主導のオール電化航空機開発は、前々回のASCですでに発表されている。燃料電池を電源とし、冷凍機冷却HTSモータで推進力を得る。出力あたりの重量では、超電導モータはタービンエンジンの1/3、産業用モータの1/15〜1/30になるが、航空機に搭載するには冷凍機の小型軽量化も課題とのこと。また現状のHTSモータでは出力が足りず、更なるR&Dが必要不可欠である。液体水素冷却によるシナジーの可能性、タービンエンジンとSC発電機・モータのハイブリッド型にも触れ、HTSモータによる電気推進システムの設計案を複数紹介していた(航空機搭載用HTS発電機についてはGEからも発表があった)。講演後に効率についての質問があったが、明言は避けていた。米国の航空需要は増加傾向にあり、原油価格高騰も相まって、民生でも超電導電気推進化による省エネのニーズはあるようだ。米国の超電導機器応用に関する発表は、民生用のように見えて軍事用であることもあるようだが。
他にSMES、核融合、Maglevなど多数の発表があった。全体的に中国・韓国からの発表申し込みが多かったが、相当数の発表取り止めがあった。知人の話では査証の問題らしい。有益な情報が得られなかったのなら、残念だ。冒頭にも述べたとおり、今回のASCは概念設計や小規模な実験報告が多く、皆が機器応用の出口を暗中模索しているように思える(米国は国策に則り明確な指針を持って超電導機器開発を行っている)。次回のASCではその成果があらわれた、ワクワクする発表を期待したい。 (産業技術総合研究所 古瀬充穂)
[SQUID] デバイスに関し、Nano SQUID の開発がCRISOやColorado大学から数件報告された。また、岩手大からナノブリッジジャンクションを用いたMgB2 SQUIDの開発に関する報告があった。一方、JenaのP.
Seidelらは、傾角30°のバイクリスタルラインが十字に入った特注の基板を用いて、一つの基板上の素子から直交する二次微分まで計測可能な新しい構造のグラジオメータを開発した。応用に関し、SQUID-NMR/MRIの発展が著しく、特にロスアラモス国立研究所では7chのLow
Tc SQUIDを用いて人間の脳のMRI画像を取得して、従来法のMRIとの比較、およびMEG同時計測まで行った。また、磁気微粒子を用いたイミュノアッセイへの応用、および線材(アルミワイヤ、超伝導線材)などに対する非破壊評価の応用に関する報告もあった。
[電圧標準] 最終日に特別セッションが企画され4件の招待講演があった。1件目は、独PTBのMueller等のSNS接合アレイによる10
Vプログラマブル電圧標準の報告で、IcRn積 ~150 VのNbSiバリア接合を採用し70 GHzのマイクロ波を用いる事で比較的少ない接合数で10
V発生を達成した事が特徴である。このNbSi接合の詳細は開発したNISTグループからは別のセッションにてそのパラメータの制御性等について報告があった。2件目は産総研の神田等によるスタック接合アレイの作製・評価に関するもので、誘導結合プラズマ(ICP)エッチングを用いた10積層までのスタック接合作製技術の確立及び、改善プロセスを報告、3件目はNISTのDresselhaus等によるTapered
Transmission Line構造を用いた接合アレイの特性についての報告であり、伝送線路の特性インピーダンスに傾斜をつける事で損失のある線路でのバイアスマージン特性を改善できることが示された。両報告とも数十万に及ぶSNS接合を含むことになる素子の実現可能性を高めるもので、実用的な電圧を比較的低い(10~20
GHz)マイクロ波により発生させうることから、単純なDC電圧のみならず交流波形合成への応用が期待される。4件目は独Supercon社・IPHTグループからの10
V標準電圧システムの報告であり、比較的雑音に対して弱いとされるSIS素子アレイを用いてもパルスチューブ冷凍機との組み合わせで安定な動作が可能であることが示された。冷凍機を用いたシステム化に関してはNISTグループからもパッケージング、温度制御についてそれぞれ別セッションにて発表が行なわれており、電圧標準の工業製品化が着実に進んでいることを感じさせる。
[超伝導転移端検出器(TES)] TES検出器では、〜2 eV @6 keVという理論値の3倍程度のきわめて高いエネルギー分解能がすでに実現されている。そのため、研究開始当初の分解能向上レースは落ち着いて、現在は検出器特性の総体的取り扱いや、動作時の物理現象そのものに対する研究と、実際に検出器として使うための実装技術(アレイ化、熱特性の均一化、多素子読み出し技術)の開発研究の2つに分かれてきたと感じた。従来から、TES検出器の応用の多くが宇宙天文学であったが、今回は、量子情報通信用デバイスとしての研究発表もあった。超伝導検出器の応用の拡大という意味でも、本検出器の通信用デバイスとしての早期実用化を望みたい。伊ジェノア大のL. Ferrariらは、Ir超伝導細線をミアンダー形状にした際の、その配線幅や配線の折り曲げ部分の形状によるR-Tカーブの変化を評価した。その結果、配線幅を1~2 mの間で変更してもR-Tカーブ形状への影響はなかったが、折り曲げ部を角形からカーブ形状に変化させたところR-Tカーブ形状が極めて急峻になったと報告した。 線検出では、NISTを中心として高効率吸収体と結合したTESを16 x 16以上にまで多ピクセル化することで検出効率の向上を果たしたデバイスが紹介された。光子検出では、NISTや産総研のグループから90%以上の量子効率、あるいはMHz程度の高計数率で動作可能な光子数識別器の発表があった。
[ナノワイヤー検出器] ナノワイヤー検出器は、主に量子情報通信の光子検出器としての開発が進んでおり、その開発において検出器の量子効率の向上が重要である。1つの方法が、超伝導細線間のギャップ逓減による、同一面積内にしめる超伝導線面積の割合(Fill Factor)の増加である。MITのJ.K.W. Yangらは、作製時のレジスト冷却により、配線幅を一定に保ったまま、そのギャップを12 nmにまですることに成功し、Fill Factorを88%に向上した。また、ミアンダーラインを分割して多チャンネル化することで、応答信号回復時間の高速化を狙った取り組みが、MITやEPFLなど数多くの機関より報告された。この構造によりインダクタンスの低減が図れるため、1 ns以下の回復時間が可能となる。さらに、BB84プロトコルに基づく量子暗号鍵配布へのフィールド実験への応用がNISTや情報通信研究機構等のグループによって行われ、従来型のInGaAs光検出器に比べて鍵配送距離の長距離化や伝送レート向上に本検出器は有効であるとの発表が行われた。
[トンネル接合直接検出器(STJ)] Colgate大のK. Segallらから、回路的な工夫により、STJ動作上必須とされた磁場によるジョセフソン電流抑制を省略可能という提案があった。
[ヘテロダインミキサ] 超伝導トンネル型(SIS)ミキサと超伝導ホットエレクトロンボロメータ(HEB)ミキサの高周波化、広帯域化が進められている。米カリフォルニア工科大のA.
Karpovらは、微小かつ高臨界電流密度のNb/AlN/NbTiN接合を用いたSIS受信器を開発し、Nbのギャップ周波数を越えた0.87~1.12
THz帯での広帯域(中心周波数の25 %)・低雑音(受信器雑音温度約250 K)動作を確認した。オランダ宇宙研究所のP. Khosropanahらは、NbN
HEBミキサの、4.3 THzにおける低雑音動作(受信器雑音温度1300 K)を実証するとともに、2 THz以上の高周波領域における雑音の支配要因考察を行った。
(産業技術総合研究所、神代 暁、平山文紀、浮辺雅宏、福田大治、豊橋技術科学大学、廿日出 好)
大規模ディジタル回路の分野では、日本で進行中の研究プロジェクトチームによる最新の成果報告が際立った。名古屋大学、横浜国立大学、九州大学によるJST
CRESTのプロジェクトでは、デスクサイド・スーパーコンピュータのアクセサレータとして多数の浮動小数点演算器をネットワークで接続した、再構成可能なデータパス(RDP)の提案とともに、数個の整数演算器を接続したプロトタイプの実証について報告がなされた。また、要素回路となる浮動小数点加算器、乗算器、除算器並びにネットワークについても試作が行われ、実験結果が報告された。また、横浜国立大学などいくつかの国内の大学による特定領域研究のプロジェクトでは、高速フーリエ変換の要素回路であるバタフライ演算器の試作と実験結果が報告された。これら数千から一万接合規模のランダムロジック回路の高速動作実証では、日本のチームが依然として突出した技術を有しているといえる。ディジタル応用のセッションでは、このほかHypres社のADCの要素回路及びマルチバンドADC向けの非同期2
x 2スイッチのテスト結果、Chalmers大学によるDSP開発のレビュー、東北大学のニューロコンピュータ応用に向けたup/downカウンタなどの発表があった。
ADCの分野では、米国Hypres社による進捗の報告がいくつかあった。例えば、高いダイナミックレンジを得るためのアプローチとしてモジュレータをデシメーションフィルタの2倍の周波数で動かすマルチレートADCの開発では、29.44
GHzのサンプルレート、信号バンド幅10 MHzに対して、13.65 bitの有効ビット数を得ている。ADCやそのコンポーネントなども含め、同社の4.5
kA/cm2プロセスにより試作された回路が安定して動作してきている印象を受けた。Northrop Grummanのグループは2次のADCの進捗を報告し、5
GHzのサンプルレート、信号バンド幅10 MHzに対して90 dBのSNRを得ている。また、量子化ノイズの線形モデルやジッタによるノイズの影響に関する報告もあった。日本からはSRLが広帯域リアルタイムオシロスコープへの応用を目指したフラッシュ型ADCの提案があり、相補型QOSを用いることにより50
GHz/4 bitの性能をシミュレーションで明らかにした。このほかミックスドシグナルのセッションでは横浜国立大学のグループによる時間ディジタル変換機(TDC)の発表があった。このTDCは2つのリング発振器を用いることを特徴としており、数ピコ秒の精度が実験により評価された。
その他ディジタル応用のための基盤技術と思われる分野では、さまざまな研究機関による報告がなされた。インターフェイスの分野では、Hypres社によるマルチチップADCの高速テスト結果、SRLによる25
GB/s NRZドライバの実証、Ilmenau大学(SFQ/dcベース)とNorthrop Grumman (SQUIDベース)による直流バイアスのドライバ回路の報告があった。また、情報通信機構からは、MSM-PDやNbNナノワイヤを使用した光入力インターフェイスに関する発表があった。ニューヨーク州立大学とIlmenau大学、SRLからは磁場トラップに対するモート構造の効果に関する発表があり、興味深い実験結果が示された。大規模回路に大電流を供給しなければならないという問題に対しては、横浜国立大学とHypres社から電流リサイクルに関する研究の進展があったほか、名古屋大学のグループからは多層プロセスにおける電源ラインの影響について評価結果の報告があった。面白いアイディアとしては、横浜国立大学のグループがツイストペアをレイアウト上に実現することによって発生する磁場を軽減する提案があった。
以上で述べたように、ディジタルエレクトロニクス分野では、アナログ-ディジタル変換器(ADC)の分野では米国、計算機などの大規模なディジタル回路応用については日本のグループの発表が多いのは相変わらずであった。その他のディジタル回路技術の応用として量子ビットの情報読み出し(Chalmers大学・名古屋大学)に加え、今回のASCではTESのマルチチャンネル化(名古屋大学)や乱数発生回路(横浜国立大学)など新しい応用に関する発表もあり、今後の広がりに期待したい。また、現在米国で進められている大型コンピュータのプロジェクトに関する報告も今回のASCのディジタルエレクトロニクスのセッションでは聞かれなかったが、今後の動向に期待したい。 (名古屋大学 田中雅光)