SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.17, No.5, October. 2008

 MgB2―その後の進展 
_物質・材料研究機構_


 MgB2超伝導体も発見から7年が経過し、この間に精力的な研究が行われて、基礎、応用の両面にわたって多くの進展が得られている。本稿では、薄膜と線材の最近の動向について簡単に紹介したい。
 薄膜作製における問題点の一つは、MgB2と平衡するMgの蒸気圧がかなり高いことである。ペンシルバニア州立大のグループは、基板の近傍にMgのバルクを配置し、これを高周波コイルで加熱することによって基板近傍での高いMg蒸気圧を確保し、ボロンを供給するためのCVD法と組み合わせて、高品位の二軸配向したMgB2成膜に成功しており、Hybrid-Physical-Chemical-Vapor-Deposition(HPCVD)法と呼ばれている1)。Tcは最高で41.8Kという高い値が得られているが、これは結晶粒の成長が進むにつれて結晶の表面エネルギーを減少させるために結晶粒同士が引き合って結晶粒界となり、a, b軸方向に引張り応力が働くためであるとしている。
 最近このHPCVD法による高品位薄膜において、2 K、ゼロ磁界で1.6 x 108 A/cm2の非常に高いJcが報告されている2)。この値はクーパーペアが破壊される電流密度(上限の超伝導電流密度)であるJd ~ 8.7 x 108 A/cm2の約20%に相当しており、MgB2超伝導体の高いポテンシャルを示すものである。しかしながらJcの磁界依存性は大きく、3 Tでは5 x 105 A/cm2を大きく下回る値にまで低下してしまう。これは、本薄膜の結晶としての品位が高くHc2が低いためと考えられる。
 磁界中における高いJcは、むしろTcの低い汚れたMgB2薄膜において得られている。筆者らのグループがPLD法によって作製した薄膜では、Tcは30 K以下であるが、4.2 Kにおいては10 Tの磁界中においても105 A/cm2をはるかに越える値が得られている3)。これはこのPLD法による薄膜の結晶粒が細かく、かつHc2が40 T以上とかなり高いためである。ただしこの薄膜のTcが低いためにJcは温度が上昇するとともにかなり急激に低下し、20 Kでは5 Tで~3 x 104 A/cm2と低い値になってしまう。
 線材では、いわゆるPowder-In-Tube(PIT)法で精力的に線材化研究が進められており、Jcを向上させるために、原料粉末の微細化、ボールミル、メカニカルアロイング、各種の不純物添加、等さまざまな方法が試みられ、Jcも向上しつつある。メカニカルアロイング法では、Mg+2Bの混合粉末を長時間ボールミルすることで微細なMgB2が部分的に生成し(メカニカルアロイング)、このために熱処理温度を下げることができて高いJcが得られる。最近、内側をNbとしたNb/(Cu-Ni)複合シースを用い、600°Cで熱処理することにより、4.2 K、10 Tで6 x 104 A/cm2の高い値が報告されている4)。この値はPIT法による線材としては最高の値であろう。
一般的にPIT法で作製した線材では、MgB2コアの充填密度があまり高くないためにMgB2結晶粒のつながり(電流が流れる有効断面積: connectivity)が十分ではなく、実用レベルのJc値はまだ得られていない。connectivityはMgB2の充填率に大きく依存するが、線材におけるMgB2の充填率を向上させる方法として、筆者のグループではMgをボロン層の外から供給する拡散法を適用し、PIT法よりも高いJcを得ている5)。金属管(鉄管)の中心に純Mg棒を配置し、Mg棒と鉄管との隙間にアモルファスボロン粉末を、なるべく密になるように充填した後、1 mm径程度のワイヤーに加工する。Mgは六方晶で加工性が悪いことが知られているが、このような断面構成にすると室温において断線なく線材に加工できる。最後に熱処理をするとMgがボロン層に拡散してMgB2が形成される。この線材のMgB2層はPIT法で得られるMgB2コアよりも充填率が高く、4.2 K、8 Tの磁界において105 A/cm2以上のJc値が得られている。なお、この値は鉄シース材で得られたものであるが、シース材をTaやNbとすることで更に高いJcも得られている6)。
 薄膜、線材、いずれにしても他の超伝導材料と同じく臨界電流特性を決定するのはその微細組織であり、特性向上のためには、更なる地道な材料学的研究の継続が望まれる。

                                                                   (物質・材料研究機構 熊倉浩明)

 

参考文献
1) X.H. Zeng et al., Nature Materials 1 (2002) 35.
2) C.G. Zhuang et al., J. Appl. Phys. 104 (2008) 013924.
3) A. Matumoto et al., Appl. Phys. Express 1 (2008) 021702.
4) W. Hessler et al., Supercond. Sci. Technol. 21 (2008) 062001.
5) J.M. Hur et al., Supercond. Sci. Technol. 21 (2008) 032001.
6) K. Togano et al., submitted to Supercond. Sci. Technol.