SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.17, No.4, AUGUST. 2008

高性能Nb3Sn超伝導体生成の新しい拡散メカニズム    東海大


ブロンズ法や内部拡散法Nb3Sn線材は、ITERをはじめとする核融合分野やNMR分析装置等に大量に用いられつつあり、製造ラインや品質管理技術の整備によってNb-Tiに続くポピュラーな線材となろう。東海大学では、次世代のNb3Sn線材としてSn-Ta系合金シートとNbシートを積層した加工の容易なジエリーロール(JR)法線材で4.2 K, 22 Tで実用可能な性能をえている。図1には、その4.2 Kにおける不可逆磁界、Birr遷移の例を示した。シート組成は、Sn/Ta原子比4/1に少量のTiを置換し、また熱処理温度の低下のため微量のCuを添加している。Ti量を増すとCu量を減らすことが出来る。図のようにonset 27.3 T, mid. 26.9 T, offset 26.5 Tと、Nb3Sn線材としては最高のBirr (4.2 K)を示す。

図1 4/1(Sn/Ta)-3Ti+3Cu及び4/1-7Ti+2CuシートJR線材(750 ℃×100 h熱処理)の4.2 Kにおける磁界による抵抗変化。

図2には線材のNb3Sn層のEPMA分析結果を示した。Nb3Sn等のA15型化合物では、化学量論比組成をもつことが高い特性を示すキーポイントとなる。本線材では25原子%のSn組成がえられ、またNbやSnに濃度勾配がみられない。TaはNbサイトに置換すると考えられ、TiとCuは微量ずつしか含まれない。一方、ブロンズ法線材では、ブロンズとの界面では25原子%のSn組成を示すが、Nbコアとの界面では17原子%に低下する例が報告されている(参考文献 1)。

図2 Nb3Sn層断面の電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)による組成分析結果


 EPMAを用いた研究により、本線材では30-35原子%のNbがSn-Ta層に拡散し、その代わりにSnがNbに拡散してNb3Sn層が生成する新しい機構が見出された。図3にその反応過程を示すが、NbとSnの相互拡散によって拡散が促進され、化学量論比組成の厚いNb3Sn層が生成される。これまでのブロンズ法線材ではNbがブロンズに拡散することはなく、SnがブロンズからNbに拡散する一方向の反応のため、前述のような濃度勾配が生ずると考えられる。その結果、本線材はブロンズ法線材より明瞭に高くてシャープなTc遷移を示す。
 また、Sn-Ta系合金より安価なSn-Ti系合金シートとNbシートの積層線材でも、同様な相互拡散によって優れた特性のNb3Snが生成される。本成果の研究者である太刀川恭治教授は、"線材設計の改良によりさらに前進が期待され、またこの拡散機構が他の高性能A15型化合物線材にも広く適応出来ると嬉しい" とコメントしている。今後新しい生成機構によるNb3Sn線材の実用化が着実に進められるであろう。
なお図1の特性は、物質・材料研究機構との共同研究により、同機構の強磁場共用施設によって測定された。

 

図3 本線材におけるNb3Sn生成の新しい拡散メカニズム。

(古今)

参考文献1: V. Abacherli et al.,, IEEE Trans. Appl. Supercond, Vol. 15, No.2 (2005) pp3482-3485.