SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.17, No.3, AUGUST. 2008

ITER計画で試験用Nb-Ti超伝導コイルの通電試験を開始
−原子力機構がITER機構及び欧州からの委託を受けて
_日本原子力研究開発機構_


日本原子力研究開発機構(原子力機構)はITER計画推進の一環として、欧州原子力共同体が製作した試験用Nb-Ti超伝導コイルを那珂核融合研究所が所有する超伝導コイル試験設備(CSモデルコイル試験装置)へ据え付け、極低温への冷凍を完了して通電試験を開始した。
ITER超伝導マグネット・システムの調達では、原子力機構はトロイダル磁場(TF)コイル導体、TFコイル巻線、TFコイル構造物及び中心ソレノイド(CS)導体の製作を分担する。Nb3Snを使用するTFコイル導体及びCS導体に関しては、ITER工学設計活動(EDA)において実規模導体による性能検証が既に完了している。一方、Nb-Tiを使用するポロイダル磁場(PF)コイル導体は欧州、ロシア及び中国が調達を分担するが、EDAでの開発の重点が未踏技術を必要とするNb3Sn導体に置かれたため、PFコイル導体の性能検証はITER建設期における実施項目の一つとして残されていた。

今回の試験用Nb-Ti超伝導コイルは、PFコイルで使用されるNb-Ti導体の性能検証を目的として製作されたもので、PFインサート・コイルと呼ばれ、直径1.6 m、高さ3.4 m、重量6トンのソレノイド状のコイルである(図1)。PFインサート・コイルに使用されている導体は、ロシアが直径約0.75 mmのNb-Ti素線を製作、さらに素線1,440本を撚って超伝導ケーブルを長さ約40 m製作し、欧州原子力共同体がこれにステンレスのコンジットを被せてケーブル・イン・コンジット導体としたものである(図2)。この導体を英国でコイルに巻線した。PFインサート・コイルの通電試験には、世界で唯一、大型超伝導コイルを高磁場、大電流で試験できる設備と優れた実績を有する原子力機構が選ばれ、ITER機構及び欧州原子力共同体からの委託を受けて試験を実施することになった。
PFインサート・コイルは2007年9月に那珂に搬入され、その後、一連の受入検査を経て、2008年3月に据え付けを完了した(図3)。高圧ガス設備としての完成検査に合格した後、5月19日からヘリウムガスを循環させて室温から徐々に温度を下げる初期冷凍を開始した。この初期冷凍は、コイルに過度な熱歪を与えないようコイル内の温度差を50度以内に制御しながら進められ、6月5日にはPFインサート・コイルの温度が約9 Kに到達し超伝導状態となった。極低温が安定に維持された後、通電試験が6月18日に開始された。
ITERにおける実機PFコイルの運転条件は6 T、4.5 Kにおいて45 kAであり、この状態で1.5 Kの温度マージンを有する(すなわち、同磁場、同電流値で6 Kになるまで常伝導転移を起こさない)ことが技術要件となっている。PFインサート・コイルの通電試験の目的は、この運転状態における安定した運転を実証するとともに、Nb-Ti導体が有する超伝導臨界特性を詳細に測定し、所定の温度マージンが確保されていることを示すことである。このため、磁場と温度を一定にした状態でコイルが常伝導転移するまで通電電流値を上げていく臨界電流値測定や、磁場と電流値を一定にした状態でコイルが常伝導転移するまで温度を上げていく分流開始温度測定を実施する。CSモデルコイル試験装置は、CSモデルコイルが発生する磁場中(最大13 Tまで可能)で、PFインサート・コイルに最大60 kAまで通電できる。さらにコイルの温度も冷媒である超臨界ヘリウムの温度を4 Kから20 Kの範囲で変えることができ、これらの測定が効率的かつ信頼性高く行えるシステムとなっている。中間結果として、6.4 T、4.5 Kで52 kAの安定した運転を達成している。さらに、8 Tの磁場中でPFインサート・コイルをゼロから30 kAまで通電(すなわち240 kN/mの荷重を超伝導ケーブルに付加)するサイクルを1万回繰り返すサイクリック試験も実施中で、通電回数の蓄積による交流損失特性や超伝導臨界特性の変化を観測する。これら那珂での試験には、ITER機構、欧州、ロシア、米国からの研究者も参加しており(これまでに外国人研究者のべ20人が参加)、8月中旬まで続けられる(図4)。これらの試験結果に基づき、ITER機構がPFコイル用導体の技術仕様を最終確定し、欧州、ロシア及び中国が導体の調達を開始することになる。

 
図3 CSモデルコイル試験装置に据付けられるPFインサート・コイル

                 

図4 試験中の制御室。試験にはITER機構や参加極の外国人研究者も参加

(テンガム)