SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.17, No.4, AUGUST. 2008

超電導主変圧器の開発状況について    鉄道総合技術研究所


鉄道総合技術研究所では、超電導技術の利用により、小型軽量な高速鉄道車両用の主変圧器の研究開発を進めている。これまでに、軽量化のための最適設計、巻線構造や冷却システムの検討などを行い、Bi2223系超電導線を用いた新幹線の架線電圧25 kVに対応する超電導主変圧器を試作して基本特性の評価した結果は、SUPERCOM, Vol. 14, No. 3, June. 2005 に紹介されている。しかし、実用化に向けて、軽量化や効率向上のためには交流損失を低減すること、大容量で軽量な冷凍機を含む冷却システムを確立することなどが重要な課題となっており、課題解決に向けた取り組みの状況について紹介する。

交流損失低減対策
交流損失の発生により、効率の低下はもとより、その冷却のため冷凍機容量が増加して重量増加にもつながるので、交流損失を低減することが重要な課題である。
従来の標準的な仕様である幅4.2 mm、厚さ0.25 mm程度で、超電導フィラメントにツイストのないBi系超電導線では、多芯線構造の効果が充分に見られず交流損失が理論値に比べて大きい。交流損失を低減するための有効な対策としては、(a) 超電導線の幅を狭くする、(b) 超電導フィラメントにツイストを加える、(c) 母材にバリアを導入するなどの方法が考えられている。
鉄道総研では、上記の対策のうち主に(a)と(b)の効果を確認するため、住友電工に依頼して超電導線の寸法(幅、厚さ、アスペクト比)、構造(ツイストピッチ、フィラメント数)を変えた複数のサンプルを試作し、評価を実施した。その結果、交流損失は、垂直磁界に対して幅に、平行磁界に対して厚さにほぼ比例して減少すること、超電導線の幅を狭く、厚さを薄くすることで短いピッチのツイストをきれいに施せることが可能となり平行磁界に対する交流損失の低減効果があることを確認するとともに、高い臨界電流密度を確保するためにはある程度大きなアスペクト比が必要なことなどを確認した。一方で、幅を狭くすると超電導線1本あたりの電流容量が小さくなるなどの問題があり、富士電機の協力を得て多並列導体の構成方法、巻線方法などの対策を検討している。
これまでの成果をもとに、交流損失の低減効果があり、高臨界電流密度を確保できて、機械的な特性低下が小さく巻線などへの影響が少ない実用的な仕様として、幅を2.5 mm程度に狭くし超電導フィラメントにツイストを加えた低交流損失型のBi系超電導線を製作し(図1)、巻線構成の検討、超電導主変圧器に組み込み可能な巻線の製作が行われている。

図1 低交流損失対策Bi系超電導線

大容量の小型、軽量冷却システム
現在検討を進めている超電導主変圧器では、通電時の交流損失や定常熱侵入などがあるため温度65 Kで1 kW級の冷凍能力が必要と想定されており、小型、軽量な冷凍機、熱交換器から構成される冷却システムの開発が必要である。特に、従来は超電導主変圧器に搭載可能な小型、軽量の温度65 K、1 kW級冷凍機がなく、新たな開発課題であった。
鉄道総研では、エア・ウォーターの協力を得て、冷凍能力1 kW以上でCOP(成績係数 = 冷凍能力/投入エネルギー) 0.05以上、消費電力20 kW以下を目標としたパルス管冷凍機の開発を進めている。これまでに、アクティブバッファ方式のパルス管冷凍機(図2)で、パルス管冷凍機としては他に例を見ない冷凍能力1.2 kWの大容量化を達成するとともに、COPも初期の0.0238から、蓄冷材の構成変更などの冷凍機本体にかかる改良、ラインバッファの増設などガスラインにかかる改良を経て、冷凍能力は確保したままでCOPを0.037までに向上している。さらに、ガスラインのコンダクタンス改良などにより、目標値の到達を目指している。
熱交換器についても、大陽日酸の協力を得て、低温流体の流動可視化、自然循環時の流動状態解析、剣山熱交換器の温度分布評価などを実施して、パルス管冷凍機と剣山熱交換器から構成される自然対流方式の冷却システムによる冷却特性の把握と性能向上を進めている。
今後、紹介した交流損失低減対策や大容量小型軽量冷却システムなどの成果を盛り込んだ超電導主変圧器が組み立てられ、評価試験が実施される予定である。
なお、本研究は、国土交通省の補助金を受けて行われている。

図2 パルス管冷凍機

                 (るるる)