SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.17, No.3, JUNE. 2008

6.日本人研究者が新しい超伝導ファミリーを発見!


 東京工大の研究者チームがLaOFeAs系の新超伝導ファミリーを発見した。彼らの仕事に基づいて、中国人研究者の数グループが55 Kの臨界温度を持つ追加の超伝導体を開発した。新ファミリーでは合わせて4つの異なった超伝導体が発見された。(Superconductor Week誌2008年6月4日号 Vol. 22, No. 8)

細野教授に率いられる東京工大の研究者チームは、最初にTcが26 K以上のLaO1-xFxFeAs(以下LaOFeAsと略)を発見した。この物質は、O2-サイトをF-イオンでドープすると超伝導を示すようになる。「当物質の臨界温度は、F組成に対して台形的依存性を示し、5~11の原子パーセントで最高のTc ~ 26 Kとなる。さらに、帯磁率はFをドープしたLaOFeAsが常伝導状態でCurie-Weiss則的な振る舞いを示している。《と細野教授は述べた。

さらに、「LaOFeAsは、La砒素化物、鉄砒素化物、La2O3粉末をアルゴンで満たした石英管封管中で1250 °C、40時間加熱することによって合成した。この物質に対してはその後、Ca2+とF-イオンのドーピングを行ってみた。砒素は、それほど猛毒な金属ではないので、我々はそれを出発材料として用いた。《と同教授は説明している。

Florida州, Tallahasseeのフロリダ州立大学国立高磁界研究所(NHMFL)応用超伝導センター長のD. Larbalestier氏は、「新種の超伝導体の発見は、科学上の進歩であると共に実用的進展であると考えられよう。磁気モーメントは対破壊因子と考えられるのに、その鉄化合物中に超伝導が出現した事は驚きであると同時に意義深いものがある。この発見はまた、超伝導が発現する物質の範囲が非常に拡がり且つ今回は0.5や5 Kでなく50 Kのオーダーで変化するので極めて重大である。《と語った。さらに続けて「この発見により、超伝導関連のR&Dは今後拡大するだろう。米国の幾つかの研究所で、この新種超伝導体の研究が既に始まっているのを知っている。これには、オークリッジ国立研のD. Mandrus、Ames研のP. Canfield、E. Hellstromと私を含む国立高磁界研の数グループが含まれる。我々は、もっと多くの超伝導体、特に高温で異方性が小さな超伝導体を望んでいる。砒素化物は新しい強力な種別である。《と語った。

東京工大の成果を出発点とし、北京の中国科学院物理学研究所(IoP)と安徽省合肥の中国科学技術大学(UST)の中国人研究者達は、55 KまでのTcを持つ幾つかの類縁組成の鉄砒素化物超伝導体を開拓した。IoPのN. Wang氏に率いられるグループは、CeでLaを置換して41 KのTcを持つCeOFeAsを作製した。USTのX. Chen氏はSmでLaを置換して43 KのTcを持つ超伝導体を作製した。最後に、IoPのZ. Zhao氏に率いられるもう一つのグループが、LaOFeAsファミリーのNdとPrメンバーを作製した。これらの物質は、最高55 KのTcを示した。

IoPの凝縮系物理学教授であるH. Wen氏は、「この新型超伝導体は、幾らか銅酸化物超伝導体に似ている。それは、層状構造、低い超流動密度を持つ。最近の高磁界データによれば、非常に高い上部臨界磁界したがって大きなペアリングギャップを持っている。それ故、両者のメカニズムの間にはかなりの類似性が存在する。今後、これらの物質群から、よりクリーンな系が創られ、それが高温超伝導機構解明の一助になることは、大いにあり得る事である。《

「鉄砒素化物超伝導体の合成技術は、全く類似のものである。もっとも、鉄系超伝導体に対しては初期の段階で、材料を石英管に封入する必要があるけれども。鉄砒素化物超伝導体中では、電子間相互作用は銅酸化物程強く無い。実験観察では、バンド構造に対応する計算結果に一致した。銅酸化物では、ホールド−プ側においてはシングルバンドであるかマルチバンドかは、今尚論争の最中である。《と語った。

IoPの擬集体物理学教授であるZ. Zhao氏は、鉄砒素化物超伝導体のTcを増加すべく追求している。「55 Kは、この新しいFeAs単層超伝導体のTcはこの系として最高の値に近いように見えるが、私はTcをもう少し高める余地があると考えている。我々の最近の研究では、より高いTcを持つ新しい結晶構造を発見する事に焦点を合わせている。《とZhao氏は語った。銅酸化物と鉄砒素化物ファミリーの超伝導発現機構の関係について尋ねられて、Zhao教授は「これら鉄砒素化物は、銅酸化物の良いパートナーになりうると言いたい。単相試料あるいは単結晶に関する信頼しうる実験結果が現れるまでは、何等かの結論を出すのは難しい。現在、鉄砒素化物の背後に在るメカニズムが銅酸化物のメカニズムと同じであるかどうかは上確かである。我々の計算結果では、格子振動が単純にこのような高いTcを説明する十分な根拠を与えていない《とコメントした。

                               

 (相模)