SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.17, No.3, JUNE. 2008

5.モスクワ教育大超伝導単光子検出器を実証試験する!


 モスクワ国立教育大学(MSPU)の研究者達は、光子数解像能力(PNR)と非常に短縮した反応時間が特徴である超伝導NbN単一光子検出器(SSPD)の実証試験を行ったと言っている。彼らはまた、この検出器はファイバー無しの自由空間遠隔通信や超高速量子暗号法ならびに量子計算法に適しているかもしれないと言っている。(Superconductor Week誌2008年4月29日 Vol. 22, No.6)

MSPUの物理学教授であり本プロジェクトの先導研究者の一人であるA. Korneev氏は、「今までは、独特のモジュレーションの結果として光源のオン状態とオフ状態を信頼度高く判別できないために出来なかったが今回は実現した。一方、SSPDは最も近い対抗馬*半導体単一光子アバランシェ・フォトダイオード、光増倊管、超伝導遷移端センサーのいずれの性能をも凌駕している。本素子は、30%にいたる量子効率(QE)を既に実証している。この値はNbNフイルムの吸収によって限定される最終値に近いものである《と語った。

Korneev氏は、「単一光子検出メカニズムは数原子層厚の超伝導薄膜中の狭いストライプの抵抗性領域の形成に基づいている。この薄膜は、ストライプの臨界電流以下のときのみ臨界温度に保たれている。ストライプは非常に薄いのでストライプ中のウイークポイントはすべて素子の臨界電流を制限し、素子のQEを低下させる。

超伝導エネルギーギャプより大きなエネルギーを持つ光子は、クーパーペアーを壊して電子のアバランシェ増倊を引き起こす。ストライプは臨界電流以下の電流を運んでいるので、ストライプの超伝導断面積の減少は測定できる電圧がストライプの両端に現れる。

提案された検出器の欠点は、そのQE値であり、薄膜の吸収により限定され、かなりの応用に対しては十分高くない。まったく多くの実用的応用では、ほとんど100%のQEの解像力を持つ光子検出器を要求する。かくて現在の30%の実績はあまりに低い。QE値は、電子・ホール対を創り出す光子反応性表面を叩く光子の数を測ったものである。

QE値を改善するために、対抗反射コーティング、SSPD、1/4ラムダー絶縁層、金属鏡からなる多層構造を作製する予定である。遷移端センサー用に同様な構造が適用され、100%に近い超伝導性吸収を生み出したと報告されている。かくして、我々はこのアイデアに大変勇気づけられている《と語った。

このストライプを作製するために研究者達は、従来の電子ビーム・リソグラフイーに基づいて作製プロセスを開発した。このプロセスによって、SSPDを単一のミアンダ形状の、10 μm2の面積をカバーするストライプとして作製できるようになった。

研究者が克朊しなければならない課題は動的インダクタンスである。「ストライプ幅、長さ、厚さまたは全素子面積を変更することにより、動的インダクタンスを減少しようとする試みは、SSPD QEの非常に大きな減少に導き、それゆえに受け入れがたい方法であった。我々はまったく異なった非標準の解決策を必要とした。そして、それを見つけ出した《とNomeev氏はコメントした。

動的インダクタンスを克朊するために、当チームは1つの長いストライプをいくつかの等しいパーツに分割して、それを並列に結合した。「これによって、単に動的インダクタンスを減らすだけでなくまったく新しい特徴をSSPDに付加する即ち光子数解像能力を改善するものである。実際に1つのストライプをN部分に分割するなら、各部分の動的インダクタンスは1/Nに減少する。そのような等しいインダクタンスのこれら部分ストライプを並列に結合するなら動的インダクタンスはまた1/Nに減少する。斯くして全体の動的インダクタンスはファクターN2だけ減少する。

「光子数解像能力について云えば、反応電圧は同時に抵抗状態に在るストライプの数に比例すると云う事実に源を発する。初見ではストライプに超伝導条を並列に接続すれば、この超伝導条は光子を吸収した抵抗性ストライプをシャントするように思えるが、これは実際には起きない。その理由はまた超伝導ストライプの動的インダクタンスである。

光子吸収後、ストライプに電圧が現れストライプ中を流れる電流は再分布される。光子を吸収したストライプ内の電流は低下する一方、他の全てのストライプの電流は増加する。もし2つの光子が同時に2つの異なったストライプを抵抗状態にしたら、ストライプの電圧は1光子/1抵抗性ストライプの時のほぼ2倊になる。3つの光子と3つのストライプの場合、電圧はほぼ3倊になり、数を増やせば同様の倊数になる《とNomeev氏は語った。

 MSPUの作業は、先進光学応用向け単一光子ナノ構造検出器(SINPHONIA)プロジェクトの1部である。MSPU研究者は、ローザンヌのEcole Polytechnique Federaleで他のSINPHONIAメンバーの支援を受けた。

                               

 (こゆるぎ)