SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.17, No.2, April. 2008

5.推進動力用高温超電導電動機を開発*アキシャル型コアレス電動機では世界初 _東京海洋大、福井大、北野精機、鉄道総研、鉄道建設・運輸施設整備支援機構_


東京海洋大学、福井大学、北野精機、鉄道総合技術研究所の産学研究グループと鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、鉄心を使わずに高温超電導線材を巻き線した磁石を回転界磁磁石とするアキシャル型超電導同期電動機を開発したと発表した。 環境保全及び操船性などの観点から、電気推進船が内航船を中心に普及しつつある。このような船の効率をさらに向上させる方法として、小型、軽量ながら低回転でも高トルクと高効率が期待される高温超電導線材を用いた船舶推進動力用同期電動機の開発が期待されている。また、日本の超電導線材製造技術は国際的に優位にあり、その船舶推進用電動機への応用においても優位に立つ素地があるため、この産学グループでは、鉄道・運輸機構の「運輸分野における基礎的研究推進制度(http://www.jrtt.go.jp/business/research.htm)《による研究の一環としてアキシャルギャップ型高温超電導同期電動機の試作機を開発した。

この電動機の界磁には高温超電導線材としてBi-2223が用いられており、設計仕様は毎分最大230回転、出力100 kW、外径85 cm、長さ50 cmである。電動機内部の回転界磁磁石を30 K以下に伝導冷却することを可能にし、その状態で界磁8極を安全に200 A以上に励磁できたという。その他に、この電動機の優れた特徴としては以下が挙げられる。

① 世界で初めて界磁に鉄心のない高温超電導コイルを回転子用磁石(コアレス回転界磁極)として実装しており、現在急速に進展している超電導線材の実用性能向上に連動して、コイルへの通電電流を格段に増やすことができる構造を実現した。これにより、電動機の性能は現状にとどまらず、さらなる高トルク化と小型化が継続的に見込まれる。

② 直径73.5 cm、厚さ7.5 cmの回転子には、コアレス回転界磁極を8極搭載しており、コイルを多様な冷媒により簡便に冷却励磁できる伝導冷却構造を実現している。

③ 新たに開発した高温超電導バルク電流リード(Gd-123を使用)を実装することにより、外部から電動機内部への熱侵入をきわめて短い距離で有効に遮断して電動機寸法の軸方向の小型化を実現。アキシャル型としてのタンデム構成を容易にした。高いエネルギー密度で高温超電導線材を巻き線した界磁コイルを安全有効に冷却できる構造となっている。

④ 直径73.5 cm、厚さ4 cmの固定子(電気子巻線は銅線)は水冷、油冷、液体窒素等による冷却が可能。

⑤ 界磁は冷媒液体に浸漬されず、8極単位で界磁の種類を増減、交換可能なため、永久磁石と超電導磁石を組み合わせて界磁構造を形成できる。その場合、冷凍機冷却が故障停止しても永久磁石の界磁部分を使用して船舶推進は継続可能である。

この高温超電導同期電動機は、船舶用としてポッドに搭載できる縦置き電動機として開発したが、横置きも可能であり鉄道、風力発電などへの応用も可能な構造となっている。東京海洋大学の和泉充教授は今回の研究成果について「更なる評価と解析によって、小型・軽量で高いシステム効率をもたらす推進動力用同期電動機としての性能が期待される。今後負荷試験等のデータを集め、実用化に向けて取り組んで行きたい。2015年頃には船を走らせたい。《とコメントしている。


図1 電動機の外部及び内部構造と冷却概念図


図2 電動機外観

(深川越中島)