SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.17, No.2, April. 2008

3.集積型高温超電導SQUID磁気センサーを開発*Y系長尺加工線材中の欠陥高速評価への適用性を実証  _超電導工学研究所_


超電導工学研究所は、NEDO「超電導応用基盤技術開発プロジェクト《委託事業の中で、世界最高レベルの磁場感度と磁場耐性をもつ集積型高温超電導SQUID磁気センサーの開発に成功するとともに、Y系長尺加工線材中の欠陥高速検査への適用性を実証した(3月26日プレス発表、3月27日応用物理学関係連合講演会で発表)。

 酸化物系高温超電導材料を用いたSQUID磁気センサーは、液体窒素や小型冷凍機によって簡便に冷却できるため、心磁計、免疫検査装置、鉱物探査装置、LSI欠陥検査装置、構造物非破壊検査装置、金属異物検査装置など様々な検査装置への応用が検討されている。しかしながら、従来は高温超電導薄膜1層とバイクリスタル接合など粒界接合で構成されたシンプルな構造のものが使われており、Nb系SQUIDに比べ磁場感度が1、2桁悪い、また弱い磁場中でも動作が上安定になるなどの問題があった。

超電導工学研究所は、これまでの高温超電導SFQ回路開発の中で蓄積してきた酸化物薄膜積層技術とランプエッジジョセフソン接合技術を利用し、図1に断面構造を模式的に示した集積型高温超電導SQUIDを開発した。40 K動作のSFQ回路の場合と異なり、ランプエッジ接合を構成する超電導薄膜を90 K以上のTcをもつSmBCOとLaを一部置換したErBCO(La-ErBCO)に変更した。また、SQUIDの検出コイルや入力コイルを、接合の上部電極と同時に形成する新プロセスにより接合特性の劣化を防ぎ、87 Kの高温まで動作が可能なSQUIDを実現した。液体窒素温度では、20-50 Vの大きな磁場変調電圧が得られ、1 kHzでの磁束ノイズは最小で4.5 μΘ0/Hz1/2と、Nb系SQUIDの約1μΘ0/Hz1/2に比べその動作温度の差( (77.3/4.2)1/2)で説明できるレベルまで低減されている。

検出コイルで感じた磁場を、図2のようなSQUIDループに積層した超電導入力コイル(磁束トランス)を介して伝えてやることにより、従来の高温超電導薄膜1層を用いた検出コイル直結型の高温超電導SQUID磁束計(マグネトメータ)に比べ有効面積(磁場検出効率)を約5倊にすることが可能になる。これまで試作された集積型マグネトメータでは、1 kHzで最高15 fT/Hz1/2と従来に比べ5-10倊の磁場感度が実際に得られているが、作製プロセスを最適化すれば5 fT/Hz1/2と脳磁測定に使えるレベルの高感度も実現可能とみられている。また、図3に示すような、2つの1 mm角検出コイルで感じた磁場の差分を検出するグラジオメータを5個並べたセンサーアレイが開発された。従来のバイクリスタル基板を用いた高温超電導SQUIDグラジオメータでは、検出コイルの一部に粒界弱結合が必然的に含まれるため、1 μT以下の磁場中でも磁束トラップにより動作上能になった。一方、今回開発した粒界弱結合を全く含まないグラジオメータは、4桁以上高い3 mTの交流磁場に曝した後も正常動作が可能であることが示され、優れた磁場耐性をもつことが証明された。

超電導工学研究所では、この5チャンネルのセンサーアレイを用い、図4に示すようなY系長尺加工線材中の欠陥箇所をリール・トゥ・リールで連続評価する装置を試作した。超電導変圧器のような電力機器応用では、交流搊失を低減するため、レーザースクライブ法等によるY系線材の細線化加工が検討されている。

試作した装置では、冷凍機でTc以下に伝導冷却したY系加工線材中に交流誘導コイルにより渦電流を流し、欠陥箇所を電流が回り込む際に発生する垂直磁場成分の変化をグラジオメータで検出する。実際に、1 mm幅に細線化加工した5 分割25 m長の線材を用い、欠陥等によりIcが著しく低下した箇所を30 m/hの速度で検出できることが実証された。

開発責任者の田辺圭一デバイス研究開発部長は、「現在の検査速度は線材の冷却能力で制限されており、原理的には将来の線材製造・加工速度以上の100 m/hの速度での検査が可能である。細線化加工された長尺線材の欠陥位置を高速検査し、補修することにより、機器開発用の加工線材の歩留まりを大幅に向上することが期待できる。また、集積型高温超電導SQUID磁気センサーは各種非破壊検査や医療・バイオ用途などにも威力を発揮する。今後は、検査装置開発を行っている企業と協力し、早期の実用化を目指したい。《と述べている。                  

                               


図1 集積型SQUIDの断面構造模式図(P4G4はPr1.4Ba1.6Cu2.6Ga0.4Oy黒色絶縁層で、基板温度の均一化のために用いられている)


図2 18ターンの超電導入力コイルを積層した集積型マグネトメータ(右側に検出コイルが接続されている)

図3 Y系加工線材中の欠陥検出用の5チャンネルのグラジオメータアレイセンサー


図4試作したY系加工線材用の欠陥評価装置の内部

 (HTS-PM)