SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.17, No.2, April. 2008

1.MgB2を用いたスイッチ試作   _日立・日立研、物質・材料研究機構_


 日立製作所日立研究所と物質・材料研究機構は、二ホウ化マグネシウム(MgB2)超電導線材を用いて、温度変化などに強く、安定性の高い永久電流スイッチ(図1)を試作した。 今回、100 m長のMgB2単芯線材を作製し、そのうちの30 mを使用し、円筒状の永久電流スイッチを作製した。そしてこのスイッチとNbTi線で作製した超電導コイルとを超電導接続することで閉ループ回路を作製し、16時間以上、約1000 Aの永久電流運転に成功したという。またこのときの回路抵抗は、1.0×10-12 Ω以下であったという。

 2001年に青山学院大学の秋光教授らによって発見されたMgB2超電導物質は、臨界温度(Tc)が金属系材料として世界最高の39 Kであり、Nb系超電導体より約20 K以上も高い。そのため将来的にMRIやNMR用超電導マグネットなどに使用されることが期待されている。これらの超電導マグネットに適用されるためには超伝導による永久電流運転が必要となる。永久電流運転には超電導接続が可能な超電導線材、それらを用いて作製した超電導コイル、永久電流スイッチが必要となる。日立・日立研においては、MgB2長尺線材及びコイル作製技術を開発し、約100 mの線材を用いて作製したソレノイドコイルで約1.5 Tをキープした永久電流運転に成功してきた。そこで、今回、もう一方の永久電流スイッチをMgB2で試作することを検討した。 永久電流スイッチとは超電導の閉ループに電力を出し入れする際に必要な超電導コア部品である。超電導マグネットの励磁時は常電導状態となり、所定の磁場に達するまで超電導コイル側だけに電流を通電させ、所定の磁場に達した後、超電導状態となり、超電導コイルと永久電流スイッチ間で閉ループ回路を構成する機能を有する。従って、永久電流スイッチには、常電導状態の時はスイッチ側に分流しないようできるだけ高抵抗であること、また超電導状態の時は通電電流に対して十分に安定な運転ができる、トレードオフの特性が必要となる。現在、永久電流スイッチを構成する超電導線材には、NbTi線が使用されることが一般的である。しかし、スイッチ機能を付与させるため、非常に熱的・電気的に上安定となり、NbTi線材の本来の臨界電流より非常に低い電流でクエンチしやすい特性をもつ。以上のことから、臨界温度が非常に高いMgB2を用いることで、高い安定性を有する永久電流スイッチを製作できる可能性がある。

本開発では、(a)高抵金属シースを用いたMgB2線の高均質加工技術、(b)MgB2線とNbTi線の大電流超電導接続技術を開発したという。(a)で作製したMgB2線を用いた永久電流スイッチの仕様は、内径30 mm、外径40 mm、高さ100 mmであり、また(b)の超電導接続部の性能は4.2 K、0.1 Tの条件で、1000 A通電時に接続抵抗1.0×10-13 Ω以下であったとのこと。そしてこれらを用いて作製した閉ループ回路に4.2 K・外部磁場ゼロの条件で1000 Aを印加したところ、16時間以上の永久電流運転が確認された(図2)と報告している。

日立研究所の高橋雅也研究員によれば「MgB2で永久電流スイッチを作製したことで、大電流対応のMRI、NMRの開発が可能となった。今後は実用化検討を推進していく。《とのこと。また同研究所の岡田道哉プロジェクトリーダは「今回の成果はMRIやNMRなどへのアプリケーション拡大に繋がるもので、液体ヘリウムフリー超電導マグネットの開発に一歩前進したと思う。《とコメントした。一方、物質・材料研究機構 超伝導材料研究センターの熊倉浩明センター長は、「MgB2の応用展開に幅が広がった。今後は、高JcのMgB2線を開発することで、すべてをMgB2で作製した実用化レベルの液体ヘリウムフリー超電導マグネットの開発に繋げたい。そして日本で発見されたMgB2の実用化に向けて、世界をリードしていきたい。《とコメントした。

                               


図1 永久電流スイッチ外観


図2 閉ループ回路の永久電流運転結果

 (万馬券)