SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.17, No.1, February. 2008

1.ITER 建設に向け大きな前進*原子力機構が超伝導導体の調達取決めに署吊*_日本原子力研究開発機構_


 日本、欧州連合(EU)、ロシア、米国、韓国、中国、インドの7 極により2006 年11 月に調印された「ITER(イーター)協定《は、その後、これら参加極における批准など国内手続が全て完了し、2007 年10 月24 日に発効した。これにより、イーター協定の下にイーター計画を実施する国際機関「イーター国際核融合エネルギー機構(イーター機構)《が正式に発足した。また同日、イーター協定の発効を受け、文部科学省はイーター協定に基づく活動を行う日本の国内機関に日本原子力研究開発機構(原子力機構)を指定した。これらにより、実験炉ITER の建設活動が吊実ともにスタートしたことになる。

イーター協定が発効して約1か月後の2007年11月27日には、第1 回イーター理事会が建設サイトのカダラッ シュ(フランス)で開催され、クリストファー・ルウェリン・スミス卿(欧州原子力共同体核融合計画諮問委員会議 長)が理事会議長に、アカデミシャン・エフゲニー・ベリホフ(ロシア、クルチャトフ研究所総裁)が副議長にそれぞれ 選出された。続いて、池田要氏がイーター機構長に、ノルベルト・ホルトカンプ氏が首席副機構長に指吊された。 ITER は超伝導コイル、真空容器、中性粒子ビーム入射加熱装置、高周波加熱装置、遠隔保守機器、ダイバータ、 ブランケット第一壁、トリチウムプラント、計測装置などの主要機器で構成され、これら本体建設費として約 5,000 億円が予定されている。その中で日本は「準ホスト国《として、ホストの欧州に次ぐ大きな貢献が期待されており、本体機器の約20%の調達を分担することになっている(このうち半分の10%は日本・EU間の役割分担に関する共同文書に基づくEUからの割譲分)。とりわけ、本体建設費の約1/4 を占める超伝導コイルにおいては参加7 極中最大の貢献をすることになっている。イーター計画では、ほとんどの機器の製作は、参加各極からの「物紊《という形で行われ、これは、イーター機構と各極との間で結ばれる「調達取決め《に基づいて実施される。第1 回イーター理事会の翌日、カダラッシュにお いて池田機構長と原子力機構の長岡国際部長が「トロイダル磁場(TF)コイル導体の調達取決め《に署吊し、調達 取決めが締結された(図1)。今回の調達取り決めは、イーター計画における初めての調達取決めとなり、TF コイ ル用導体の調達を分担する日本、EU、ロシア、米国、韓国、中国の6 極の中で、日本が一番乗りで署吊したこ とは、本分野における主導的な役割を確保する意味で重要な出来事である。日本に引き続き12 月にはEU が、2008 年1 月にはロシアが「TF コイル導体の調達取決め《に署吊した。

TF コイルは磁場11.8 T、蓄積エネルギー41 GJ の下で運転される。TF コイルに使用される導体(図2、図3) は、直径8.1 mm のNb3Sn 素線900 本と銅線522 本を5 段階で撚り合わせた構造で、定格68 kA のケーブル・ イン・コンジット導体である。Nb3Sn 素線の量は400 トンを超え、6 極で導体約90 kmを製作する。このよう な大規模な超伝導導体の製作は超伝導技術史上、前例がなく、日本はこのうちの1/4 を分担する。原子力機構は、 これまでに国内関連メーカーを幅広く取り込み、このような大型・高磁場導体の製作に必要な技術開発を完了す るとともに、量産化にも目処を付けている。調達取決めが締結されたことで、原子力機構はこれらの成果を基に、 2008 年初旬には素線製作、撚線製作、及び導体製作(ジャケティング)について各メーカーと契約を結び、日本 における導体製作を開始する予定である。

TF コイル導体に加え、日本は中心ソレノイド(CS)用導体の全量の調達を担当し、Nb3Sn 素線として約120 トンを製造する。また、日本はTF コイル製作にも大きく貢献し、コイル構造物を100%(19 個分)担当すると共 に、コイル巻線9 個分を担当し、TF コイル9 個を完成させる。残りのコイル構造物10 個分は欧州に引き渡さ れ、そこでコイルとして完成する。原子力機構はこれらについても実規模での技術実証を進めるとともに、順次、 イーター機構と調達取決めを締結する準備を進めている。

                               


図1 トロイダル磁場コイル導体の調達取決め に署吊する池田機構長(中央)と原子力機構の長 岡国際部長(右)


図2 TF コイルと導体断面写真

図3 TF コイル導体の構成図

 (テンガム)