SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.6, December. 2007

6.低温工学・超電導学会会議報告 11/20~11/22 宮城県民会館


  今回の低温工学・超電導学会はISS2007の2週間後に開催されたこともあり、新規内容の報告が比較的少なかった。よって以下には、ISS2007の報告で取り上げなかったA15とシステム応用に関する報告を掲載する。

1. A15

 A15関係の発表件数は、Nb3Snで口頭6件、Nb3Alで口頭6件であった。口頭発表会場、ポスター会場共に多くの聴衆が参加し、活発な議論が展開された。

 Nb3Snに関しては、徳島大の岩谷からは、ブロンズ法におけるブロンズの代わりに、Ag-Sn系合金を検討した報告があった。Cu-Sn系よりもSnの固溶限が高く取れる可能性があり、高特性化を期待するもの。

 東海大の中田からは、Sn基合金シートによるNb3Sn線材の組織と特性に関する報告があった。Sn-Taシートによる線材のNb3Sn層の分析結果からは、厚み75 mに亘ってSn濃度が25at%で一定で、Sn-Ti系シートではZr添加により結晶粒微細化効果が認められた。

 日立電線の田川からはCu-17%Sn-0.3%Tiブロンズ材を用いたNb3Snの生成熱処理条件による組織観察結果とJcの関係の報告があった。等軸晶、柱状晶に分類して比較した結果、いずれも結晶粒径の小さなものほどJc特性が高い傾向だった。  岩手大の石川からはCu-Nb複合材による補強効果を、補強材の複合部位によって比較した報告があった。中心部、外周部で少量、外周部で多量の比較をした結果、外周部の場合、補強材の量は大きく影響せず、横圧縮応力が100 MPa程度までは中心配置よりも極少ない劣化だった。

 Nb3Alに関しては、KEKの和気に代わりNIMSの菊池からNb3Al線材の異常磁化に関する報告があった。Nbマトリクス構成の線材を磁化測定すると、0.5 T付近で大きなフラックスジャンプが計測されるが、フェルミ研での測定やKEKでの測定時にコイル化して行う場合に、1 T程度までフラックスジャンプが計測され、フィラメントに流れる電流で磁場が遮蔽され、内部のNbが適用磁場より低く保たれる予想を立て計算検討した結果、予想通りだった。

 岡山大の下山からはRHQT-Nb3Al線材を冷凍機冷却マグネットへの適用を検討する目的で、Nbマトリクスと、TaマトリクスをそれぞれCuで安定化した線材で安定性を比較した報告があった。その結果、Taマトリクス線材の方がクエンチを発生する最小エネルギーが高い傾向でマトリクスの抵抗率の影響と考えられる。

 NIMSの飯嶋からはロッド・イン・チューブ(RIT)法、及びジェリーロール(JR)法による両線材を用いて、RHQT法で作製した線材特性を比較した結果の報告があった。JR法線材の方が、RHQ処理時の特性も、RHQ処理後に減面加工した場合の特性も優れており、これはRIT線材のフィラメント間の間隔が広い為と考えられる。

 NIMSの伴野からはマトリクス比の低下によるnon Cu Jc特性向上を検討した報告があった。マトリクス比0.25と0.5を比較し、0.25は加工性もRHQ処理もできなかったが、0.5は加工中断線が発生したものの、RHQ処理は可能でほぼ予想通りのJc向上が確認でき、製造条件の適正化でIc向上の可能性がある。

 NIMSの菊池からは線材への安定銅付与方法として、RHQ処理後にイオンプレーティング(IP)処理+電解めっきにより長尺線材を試作した報告があった。めっき速度向上を進めており、安定化処理も含めた低コスト化が課題。

 日立電線の中川からはRHQT-Nb3Al線材における製造可能線径範囲の拡大関する報告があった。一括励磁に対応できるようにする目的で、従来線径の1.35 mmから1.52 mmまで太径化してもほぼ同様のJc特性だった。また、RHQ処理後の安定化材複合時の加工に伴う特性変化の傾向も把握した。

 MgB2に関しては、NIMSの藤井から、ex-situ法MgB2線材における原料粉末を酸処理した報告があった。市販のMgB2粉末を用いて試作した結果、10 TにおけるJc値が酸処理しない場合に比べて、5~10倊に向上し、化学処理により結晶粒が微細化され、粒界面積が増加した為と考えられる。 

     

(日立電線:中川和彦)

2. システム応用

 システム応用関連のセッションとしては、「SMES《、「回転機《、「水素利用《、「磁気誘導・分離関連《、「HTS(コイル、バルク、薄膜)応用」、「電力応用《、「送電ケーブル《、「核融合関連《、「低温機器関連《があった。低温超電導線材のシステム応用に関しては、核融合関連やSMESを中心に報告があったが、多くは高温超電導材料に関するものであった。個人的には、超電導(特にMgB2)と液体水素の親和性に着目した講演が増え、また磁気誘導・分離関連の講演が活発という印象を持った。以下、幾つかのセッションについて報告する。

「SMES《のセッションでは、中電他のグループが、NEDOの委託事業「超電導電力ネットワーク制御技術開発《の一環として、古河日光発電株式会社・細尾発電所に設置されている電力系統制御用10 MVA/20 MJ SMESの実系統連系試験結果について詳細に報告した。また、東工大のグループは、超電導電力貯蔵用7 T電磁力平衡コイルの試験結果について成果を報告した。 「回転機《のセッションでは、京大・中電のグループからは、高温超電導誘導/同期発電機について、概念の説明と基礎特性試験結果、および全超電導化の考え方について報告があった。また京大・住電のグループは、高温超電導誘導/同期モータについて、高出力密度化の基礎検討結果を報告した。東京海洋大他のグループからは、次世代内航船用に超電導回転機を適用する高効率スーパードライブシステム(HESDS)が提案され、その基本設計結果が説明された。鉄道総研は,高温超電導マイクロ発電機や磁気ベアリングへの適用を主たるターゲットとした二磁極軸回転体について,基礎実験結果を報告した。

「磁気誘導《のセッションでは、超電導バルク磁石を適用した磁気誘導ドラックデリバリーシステム(MDDS)に関して、阪大他のグループおよび日立のグループから、複数件の報告があった。

「水素利用《のセッションでは、液体水素冷却SMES用高温超電導コイルがKEK・東工大・日大のグループから、液体水素循環ポンプ用MgB2モータの検討が九大・京大のグループから、水素と超電導の複合エネルギーシステムの検討が東北大から、災害列島におけるクリーン・エネルギー(パラ・液体水素)の備蓄と輸送に関する検討がKEK・日大のグループから、J-PARC低温水素システムの開発状況が原子力機構・大陽日酸のグループからそれぞれ報告された。 「送電ケーブル《のセッションでは、交流搊失測定に関する講演が、九大、横浜国大、古河電工他のグループ、および東北大からあった。また、直流送電ケーブルシステムに関する講演が、中部大他のグループから複数件あった。早大他のグループからは、YBCO超電導ケーブル導体の過電流特性解析結果について報告された。東北大からは、三相同一軸高温超電導ケーブルの基礎特性試験結果について報告された。NIFS・K&T・Nexansからは、1 GW級の電力と水素燃料の同時輸送システムに関しての検討結果が説明された。

「NMR《のセッションでは、日立・NIMSのグループから新方式NMRシステムに関する複数件の講演があった。理研GSC・千葉大他のグループは、高温超電導を用いた超1 GHz NMRにおける磁場安定化手法について基礎実験結果を報告した。横浜国大からは、NMR用高温超電導コイルにおける磁化電流に起因する誤差磁場に関して解析結果が報告された。

「NMR / コイル技術《では、長いヘリカル導体のインダクタンスの検討について文科省(理研、KEK)から、新しい超電導マグネット作製技術の開発に関して東大・NIMS・神戸製鋼から、液体窒素中で動作するBi-2223超電導マグネットに関して九工大・住電・福工大から、高温超電導磁気ダンパーによる変動磁場の低減に関してNIMSから、1.3 GHz用低温NMR検出コイルの設計について山形大・理研からそれぞれ報告があった。

以上、その他筆者が聴講出来なかったセッションを含めて、興味深い講演が多数あったことを付記する。

(京都大学:中村武恒)