SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.6, December. 2007

5.国際超電導シンポジウム(ISS 2007)会議報告 11/5~11/7 つくば国際会議場


   第20回国際超電導シンポジウムISS2007(国際超電導産業技術研究センターISTEC主催)は、つくば国際会議場(エポカルつくば)にて11月5日から11月7日まで19ヶ国、704人が参加して開催された。米国、欧州そして中国、韓国などアジア太平洋地域からの参加者が多く、発表件数は口頭122件ポスター392件合計514件と昨年を上回る盛況となった。高温超伝導が発見されてから20年が経過しているが、近年応用研究の発表が増えており、20年に亘る高温超伝導研究開発の成果を実感させる有意義な会議であった。

 初日の会議は、ISTEC/SRL田中昭二所長の開会挨拶に続いて、2件の特別基調講演と6件の基調講演が行われた。特別基調講演では、塚本修巳教授(横浜国大)が「日本に於ける超電導開発の概観—技術戦略マップの構築と研究開発の現状《と題して講演した。通商産業省は研究開発を戦略的に推進する為超電導技術分野の技術戦略マップを策定し、2007年には改訂版を発行した。それには4つの主要分野—環境/エネルギー・生命科学・製造工業・情報通信—を網羅し、採用シナリオ・技術分野マップ・開発計画マップを盛り込んでいる。本報では超電導技術の戦略マップに関連する線材技術を含む電力応用に焦点を絞って、日本に於ける超電導応用の現状をレビューする。日本のCoated Conductor(CC)プロは順調に進展しており、200 A/cm以上のIc値を持つ200 m長のY系線材が2005年に製造され、2007年末までに300 A/cmのIcを持つ500 m長のCC線材が実現しよう。CC線材を応用するプロジェクトも2006年にスタートし、20 m長電力ケーブル、低搊失の大型トランス、S/N転移型限流器を開発中で、次期計画として3, 66 kV, 200 MVA, 300 m長ケーブルの開発を予定している。一方、SMESの国策プロとしてLTSを用いた10 MVA/20 MJ機が開発され、現在Cu製造工場で実証試験中である。その他7.5 kW Fly wheel向けCCコイル、JR東海のID500のコイル試作、コンパクト・バルクマグネット等が進行中である。次いで、G. Crabtree博士(アルゴンヌ国立研)は、「超伝導による挑戦《について講演した。電力は我々の最も実効的エネルギー伝達形態であり、照明・冷却・運輸・通信・医療・娯楽等へ電力を供給している。電力需要は、2030年までに先進国では50%、世界全体では100%増加するだろう。送電系統は、十分な高品質の電力を急増中の過密な都心及び郊外地域に供給すべく今や深刻な挑戦に直面している。このような状況下で超電導技術は、基盤整備に要する空間を減少させつつ、極めて高い容量、高い信頼性及び高品質・高い効率の系統に再編成する為のユニークな解決策を提供するものと期待されている。HTSの発見以来20年間の進歩により、超電導電力技術は成功的系統実証の段階に入っており、幾つかの実例を紹介する一方基礎研究の進展状況についても米国の国立研究所を中心に報告した。

基調講演では最初に、内田慎一教授(東京大学)は「さらなる高Tcへの道《について報告した。高Tcに向けて種々のルートが検討されているが、従来型超電導体でさえ、MgB2(~40 K)が知られて以来Tcの上限はずっと高いと研究者は信じている。銅酸化物のTcを高める方法を探すのが最も現実的であると述べ、3つの方法を提案した(①無秩序の制御②多層化の効果−O2面とO2原子間距離が長くなる③高ドーピング)。H. W. Weber博士 (ウイーン工科大学)は、Magneto scan法について報告した。超伝導体(SC)上で永久磁石を移動させる時SC表面に誘起される局所的SC流を検出するもので、ミクロ構造とSC流分布との間に明らかな相関が100 スケールで認められ、長て方向のJc分布等が評価出来る。坂井直道主幹研究員(超電導工学研究所)はREBaCuOバルクのプロセッシングとその応用に於ける最近の進展について報告した。RE系バルクの超電導特性はJcとドメインサイズに強く依存するが今やmaximum Jcは105 A/cm2を超えており、直径が140 mmを超える大きなバルクが溶融法で作製されている。バルク応用についてはコンパクトNMRマグネット、20 kA電流リード、バルク磁気分離装置等が紹介された。O. A. Mukhanov博士 (HYPRES社)はRF超伝導エレクトロニクスについて報告した。最近、極低温冷却されたSCデジタルRFレシーバーが直接デジタル信号をkHz~GHzのレンジで変換すると云う大きなブレークスルーが達成された。これは世界最初の人工衛星上でのHF~Lバンド・データーの取得である。H.Koch博士(ドイツ物理工学研究所)は、SQUIDの今後について、機能性NMRや低磁界(1.5~2 mT)NMRとの協調あるいはMEG及びMCGとNMRとの融合的進展の展望を示した。西島茂宏教授(大阪大学)は、医療及び工業応用分野に於ける磁気力制御のための超電導応用について報告した。製紙工場の廃水浄化システムにSC高勾配磁気分離法を用いて1年間の実証試験(設備容積30 m3、処理量2000トン/日)を実施し経済性を確認した。今後実用化に向けた進展が期待される。次いで当磁気力制御技術を薬剤伝送システム(DDS)にも適用し、好成績を得たと述べた。

2, 3日目の会議は、物理・化学・磁束物理、バルク/システム応用、線材/システム応用、薄膜・デバイスの各セッションに分かれて討論が行われた。閉会に当って田中所長は、次回の会議は2008年10月27日から30日まで、つくば市で開催の予定と述べた。各セッションの参加者に寄稿戴いた各報告を以下に掲載する。なお、物理・化学・磁束物理セッションについては超電導Web21に永崎洋氏、筑本知子氏による詳細な報告が記されている(http://www.istec.or.jp/Web21/PDF/07_12/J2.pdf)。

(SUPERCOM事務局取材)

1. RE123

 Wires, Tapes & Characterizationのセッションでは、総計158件(口頭発表:29件、ポスター発表:129件)の発表が行われた。その内訳は、LTH 4件、MgB2 19件、Bi系線材17件、RE-123系線材115件だった。以下、RE-123 coated conductor関する講演について報告する。

(1)PLD法

 PLD法における長尺化は、200 m級において一昨年SRL-NCCCによって先鞭がつけられ、2007年1月にはフジクラでも実証がなされた。現在このグループは磁場特性の改善と長尺化に向けて精力的な開発を行っており、Jc-B特性がYBCOよりも優れるGdBCOの開発に主軸を移している。GdBCO線材の技術はSRL-NCCCよりフジクラに技術移転が行われ、今回、500 m長GdBCO線材で368 m×304.8 A/cm-wという成果が報告された。これはIc×L値では現在世界2位の記録となっている。住友電工は、プルームの最適化により長手方向の特性の均一性を図り、200 m×205 A/cm-wのHoBCO線材をNi系合金基板上に作製した。同社においては、磁化率をハステロイ並みに低減させたNi合金系クラッド基板の報告もあり、今後の長尺線材は新基板に移行すると報告していた。

(2)蒸着法

 韓国のKERIからは、PLD-LaMnO3/IBAD-MgO基板上でEDDC法によるSmBCO線材の長尺化を検討し、93 m長のSmBCO線材を作製した結果、27m×305 A/cm-wのIcが得られたことが報告された。最もIc値が高い区間では1 m間では500 A/cm-wの特性が得られており、今後の進展に興味が持たれる。

(3)MOCVD法

 中部電力は203 mのIBAD-Gd2Zr2O7基板の上に多段式MOCVD法でYBCO膜を作製し、Icの平均値で150 A/cmが得られたことを報告した。成膜条件の最適化により、膜厚1.75 mで294 A/cm-wのIc値が得られたと報告した。一方、昨年427 m×191 A/cm-wの長尺線材を報告したSuperpower(米国)は、更なる長尺化を図り、IBAD-MgO基板上にMOCVD法を用いて世界最高値となる790 m×190 A/cm-wのYBCO線材を作製した。また、460 m長のYBCO線材を用いてダブルパンケーキコイルを作製し、4.2 Kにおいて26.8 Tの磁場が発生できたことも報告した。

(4)MOD法

 昭和電線は、TFA-MOD法においてSRLで開発したBa-poorタイプの溶液を用いて長尺化を行い、バッチ式本焼プロセスで200 m×201 A/cm-w(PLD-CeO2 /IBAD-GZO基板上)の特性を達成した。Ba-poor溶液の使用により、熱処理条件のウィンドウが広がった事が長尺化につながったと報告した。このTFA-MOD線材でソレノイドコイルを作製し、通電試験を行っている。また、配向Ni-3at%W基板上においても長尺化が検討されており、15 m×135 A/cm(幅換算)が得られたことも報告した。 SRLでは、線材の低コスト化のコンセプトについて述べ、古河電工製Ni-5%W基板上にPLDで中間層を作製した基板上にTFA-MOD法でYBCO膜を形成した結果、1 m長で221 A/cm-wの特性が得られたと報告した。 AMSC社からは、Jc向上の方策として中間層の面内配向性を向上させるコンセプトが述べられ、膜厚0.8 mで5.0 MA/cm2の高いJcが報告された。

(5)人工ピン、線材特性評価、解析など

 磁場特性の改善については、各プロセスにおいて精力的な研究が行われている。SRL-NCCCはGdBCO+ZrO2で形成したBamboo構造のピンニングセンターを導入し、3 T中全ての角度において30 A/cm以上のIc特性を得たことを報告をした。SRLのMOD線材のグループでは特許上の問題があり、物質吊を明かさなかったが、ナノパーティクルをYBCO膜中に均一に分散させる事に成功し、角度依存の少ないJc-B-特性を報告していた。また、吊古屋大学からはLTG-SmBCOへのナノ構造BZOの導入によって、磁場中のJc特性が向上することが示された。U.S. Air force Research Laboratoryは、YBCOにCaをドープした(Y1-xCax)2BaCuO5を人工ピンとして2次元に導入する手法を報告した。

 評価については、横国大で配向Ni合金系クラッド基板(住友電工製)の磁化搊失を評価し、ヒステリシス搊失が非磁性基板と同程度に小さくなるという報告をした。  以上、筆者の興味を引いた講演について述べたが、長尺化、人工ピンの導入など、大きな進展が見られた会議だったと思われる。                   

   

 (昭和電線ケーブルシステム:兼子 敦)

2. Bi線材

 2007年11月5日~7日にエポカルつくばで開催されたISS2007におけるBi系線材に関する報告は、口頭発表が1件、ポスター発表が18件あり、そのほとんどはBi2223テープ線材に関するものであった。その中から私の見たものを中心に報告する。

 口頭発表において住友電工の綾井は、高圧下で焼成するCT-OP法により作製したDI-BSCCOテープ線材の現状について報告を行った。通常型のType H線材では50 m長でIc= 210 Aが達成され、Ic= 180 A長さ1400 mの線材が供給可能なってきていると共に、機械強度に関してもSUSの薄板で補強することで約0.4%の歪みまで特性劣化がなくなることを報告した。更に線幅を2.6 mmまで狭くしたType S線材や幅狭で撚りを導入した低交流搊失型のType AC線材の開発も行っており、従来の4 mm幅のType H線材に比べ、Type AC線材では50 Hzにおける搊失がテープ面に対して平行磁場で約1/4、垂直磁場で約1/2に低減することができたと報告した。

 ポスターでは主に日本、中国などからの報告があった。豊橋技科大の中村はAg合金線材において、前駆体中のBi2223量が熱処理パターンと特性に及ぼす影響について調査し、初期Bi2223量がBi2223相の粒成長などに影響し、適切な熱処理時間の制御により全合金線材でも2×104 A/cm2を超えるJcが得られることを報告した。豊橋技科大の稲田はAl2O3を用いたバリア線材について、バリア材導入によりBi2223の生成速度が低下しJcが低下したものの、フィラメント間横断抵抗率は1/12に低減することができ、交流搊失低減に有効であることを報告した。また豊橋技科大の町田はCuあるいはNiを用いた内部酸化法によるバリア線材の作製について報告し、まだ特性は低いもののどちらの場合もバリアの形成が可能であることを示した。精華大学のQuはBi2223の生成反応における液相の生成と反応機構について詳細な組織観察に基づき調査し、2212相表面を覆った液相を介した溶質拡散がBi2223相の生成速度を支配すると報告した。また精華大学のGuはBi2223線材の端部に強磁性体をつけることによる磁気シールド効果について検討し、適切なコーティングによってJcの向上ができることを報告した。一方、線材の機械強度およびJc特性との関係に関して、京都大学の落合らのグループから、応力印加時のJc特性の劣化について線材断面のフィラメント形状と微細クラックなどの影響を考慮したモデル解析による評価結果やDI-BSCCO線材の機械強度評価結果など、5件の報告が行われた。

(豊橋技科大:中村雄一)

3. 薄膜、接合、デバイス

 本分野では、今年度、薄膜・接合プロセス、デジタルデバイス、検出器、量子ビット、高周波デバイス、SQUID等に関する口頭講演セッションが組まれ、ポスター発表を加えた総発表件数は、105件と昨年とほぼ同じであった。

 薄膜関連ではY系など酸化物薄膜以外にMgB2に関する発表が多かった。中でもXi (Pennsylvania State Univ.)が招待講演で行ったHPCVD (Hybrid Physical Chemical Vapor Deposition)法を用い作製した高品質薄膜の特性と接合作製に関する報告が注目された。薄膜の成長温度は600°C程度と高いが、平均自由行程が欠陥や結晶粒界ではなく膜厚で制限される非常にクリーンな膜ができており、Tcも応力によりバルクより高い値(40.3 K)が得られている。TiB2薄膜上に成長したMgB2膜を用いたナノブリッジ型SNS接合では、約30 Kの高温までSQUID動作が観測されているが、上下電極ともMgB2としたSIS接合作製にはまだ成功しておらず、スパッタリングによるバリア堆積用チャンバを備えた複合装置を準備中とのことであった。

 主として基礎科学分野で用いられる電磁波検出器は、超電導デバイス本来の低雑音性、高感度性が活かせる領域であるが、Winkler (Chalmers Univ.)はSISミキサよりも高いTHzの周波数で使えるホットエレクトロンボロメータ(NbNやMgB2使用)の開発状況を報告した。宇宙観測用だけでなく、セキュリティー検査装置への応用開発も進んでいるようである。一方、Nam (NIST)は、極低温でのシャープな超電導転移を温度計として用いるボロメータ型の検出器 (Transition Edge Sensor; TES)と、NbN極薄膜メアンダラインを利用したより高速型の単一光子検出器の開発状況を報告した。これらは量子情報通信への応用が最近特に注目されているが、後者では、NTTグループが報告したように、さらに高速の応答が期待できるMgB2の適用も検討されている。また、Ohkubo (AIST)は、同様の検出器のTOF (Time of Flight)質量分析装置への適用を検討し、半導体検出器ではできない大きな質量の高分子検出に成功したことを報告した。

 単一磁束量子(SFQ)デバイスを用いたデジタル応用関連では、まず初日の基調講演セッションにおいて、米国Hypres社のMukhanov が、軍のサポートで開発した無線通信信号を高速デジタル変換し処理する受信システム(デジタルレシーバ、回路自体は1万個程度のNb系接合から構成される)のデモの様子を紹介した。国内でも回路開発に加え室温エレクトロニクスとのインターフェイス技術、冷凍機実装技術の開発がこの1年で大きく進展した。Hashimoto (SRL)およびSuzuki (SRL)はそれぞれ、Nb系SFQ技術を用いたスイッチシステムと酸化物系SFQ技術を用いたデスクトップサンプラーシステムの開発ついて報告したが、冷却のデメリットを感じさせないシステムのデモが行われている。

 量子ビット関連の口頭講演セッションにおいては、特にマイクロ波照射による状態遷移や、微小超電導ループ中に作り込んだ機械的共振器構造へのローレンツ力を利用した数mK以下温度への冷却方法の提案が注目された。実装方法に課題はあるが、量子ビット制御用のSFQ回路技術の開発も着実に行われている。

 高周波デバイス関連では、総務省プロジェクトで進められている基地局送信フィルタや周波数可変フィルタの開発状況についてYamanaka (Fujitsu)が報告した。円盤状薄膜共振器を用いることにより10 Wの電力でも優れた低ひずみ特性が得られているが、多段化が課題である。また、Kadowaki (Tsukuba Univ.)は、比較的大きなバイアス電流を流したBi-2212固有接合スタックからのテラヘルツレーザー放射を観測したと報告した。検出器で数10 nW程度のパワーが観測されており、試料からの放射パワーは0.1-100 mW程度と見積もっている。

 SQUID応用関連では、低周波MRIが最近注目されているが、Koch (PTB)はこのイメージング技術と組み合わせることより、MEG (脳磁計測)、MCG (心磁計測)の医療現場への浸透が促進されるのでないかと基調講演で指摘した。SQUIDを用いることにより、地磁気程度の磁場中でNMRが可能になり、非常にシャープなライン幅が実現できる。低温超電導SQUIDが主として検討に用いられているが、Trahms (PTB)は、高温超電導SQUIDを用いて地磁気中でのNMR測定が可能なことを報告した。また、Enpuku (Kyushu U)は磁気マーカー付き抗体を用いた溶液中での免疫検査技術について、Hatsukade (Toyohashi U Tech.)はロボットアームに取り付けたSQUID非破壊検査装置について報告した。バイクリスタル接合を用いた高温超電導SQUIDは、1 T以下の非常に小さな磁場中でも磁束トラップにより正常動作が困難になるため、後者ではコイルを使った磁場補償を行っている。一方、Wakana (SRL)は、ランプエッジ接合を利用することにより、低雑音で1 mT程度以上の磁場中でも使用できるSQUIDグラジオメータができることを報告した。

 

    (超電導工学研究所:田辺圭一)

4. MgB2

本稿では、ISS会議で発表されたMgB2関連の発表について紹介する。筆者の勉強上足や、セッションがパラレルで行われたため、有意義な研究を聞き逃している可能性があることをあらかじめお断りさせて頂く。

MgB2関連ではWires, Tapes and Characterization、Films, Junctions and Electronic DevicesとBulks and Characterizationのセッションを中心に約50件の発表がなされた。KAERI(韓国原子力エネルギー研究所)で500万ドルのMgB2のプロジェクトがスタートしたとのことで、関連発表を含め韓国からの発表件数の増加が目立った。

線材、バルク体関連の研究では、上純物添加とコネクティビティ(電気的結合度)の評価が流行のようである。Kitaguchi(NIMS)らは招待講演の中でMgB2線材・薄膜の開発状況について報告した。in-situ法、ex-situ法線材の研究のほか、ラミネート法によりFeMg合金からMgをBに拡散させる方法、MgLi合金からMgをB+SiCに拡散させる方法により長尺化可能な形で高密度MgB2の合成に成功し、高いJc値が得られたことを報告した。また、MgB2/Ni, MgB2/Bの多層膜薄膜における平行磁場中での強いピンニング力の起源についても報告があった。Dou(Wollongong大)はMgB2の生成とSiCに代表される上純物ドープのメカニズムに関するDual Reaction Modelについて講演を行った。またWollongong大をはじめ、中国、韓国のグループからも種々の化合物(主に炭素を含む)のドープによる特性向上について報告があった。また、Terasawa(首都大)らはホウ素リッチ組成、及びSiC添加をしたMgB2テープについて、二段階の熱処理プロセスを導入することによりJc特性に改善がみられることを、Yamada(JR東海)らはin-situ法線材におけるエチルトルエンとSiCの同時添加効果を報告した。Nakane(NIMS)らはMgB2粉末の合成と、その粉末を原料として用いたex-situ法線材の特性向上への指針について報告し注目を集めていた。バルク体では、Shinohara(筑波大)らはホットプレスを施した試料の輸送Jc特性について、Kimishima(横国大)らは他元素添加効果とピンニング特性について、Ni(福岡工大)らはCampbell法を用いたJcの評価について報告した。また、Matsushita(九工大)らはコネクティビティと結晶粒界ピンニングがJc特性の決定要因であり、コネクティビティの向上には高密度化が有効であることを報告した。

これまで主流であったin-situ法線材(MgとBを原料として使用)の高特性化に加えて、従来は粒間の結合性の問題でJc特性が優れないと考えられてきたex-situ法線材(MgB2粉末を使用)の急速な進展、東大グループからバルク体での高Jcが報告されていた拡散法を改良し線材中で高密度MgB2の合成に成功した報告など、MgB2の線材開発で新たな流れが生まれつつあることが感じられた。

(東京大学:山本明保)