SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.5, October. 2007

3.77 Kで0.5 Tを発生するBi-2223超電導マグネットを試作   _九州工業大学・住友電工_


 九州工業大学の松下教授・小田部准教授・木内助教のグループは住友電気工業と共同で、Bi-2223超電導テープを用いた超電導マグネットを試作し、液体窒素中(77 K)で50 A通電時に0.5 Tを発生できることを確認した。大きさは外径132 mm、高さ120 mmであり、ボア径は52 mmである。また重さは3.5 kgである。 これまでDI-BISCCOの進展により、SUPERCOMにおいても毎号のようにDI-BISCCOの成果報告がされている。たとえば、臨界電流は192 A(2006年2月)、201 A(2006年6月)、210 A(2007年6月)と着実に上がってきており、量産レベルでも180 Aクラスが供給されつつある(2007年6月)。カッコ内はSUPERCOMの発行月。またDI-BISCCO応用も電力ケーブルを中心にトランスや超電導モータなどが次々と発表されている。

今回の液体窒素浸漬冷却型の超電導マグネットは、研究室内での要望から考え出されたものだった。これまで同グループでは0.4 mmφ銅線を用いたマグネットを用いて液体窒素での実験を行なう装置を使っていた。これは10 Aで0.1 Tを発生させることができる。温度は77 Kのみであり、磁界も0.1 Tまでしか発生できないが、なによりも液体窒素で手軽に超電導実験ができるということで、予備実験には頻繁に使われている。しかし発熱が激しいので、液体窒素の消費が大きく、さらに発生できる磁界が小さいという問題があった。これに対して超電導テープを使ったらという夢は以前からあったが、性能と価格の面から実現することができなかった。ところが、最近のDI-BISCCOの性能の向上は著しく、150 A級のテープ材が比較的安価に手にはいるようになった。さらに巻線に関してもパンケーキコイルの積層という方法により安価に製作することができる見通しがついた。実際に有限要素法による磁界分布などの計算により、77 Kで0.5 Tの磁界の発生は現実にできそうであり、液体窒素中で動作する酸化物超電導マグネットは夢でなくなった。

実際に液体窒素中でこの超電導マグネットを動作させてみると、銅マグネットとほとんど同じ操作感で動かすことができる。つまり電源は50 Aでよく、電流の増加についても手でコントロールするだけの粗い操作でも、クエンチなどの心配は無い。また50 A流しているときでも、ほとんど発熱がないので、液体窒素は過度に沸騰すること無く安定した動作が可能である。銅マグネットに比べて5倊の磁界を試料に印加できることはかなり実験的には有利であり、これまでの予備実験とは全く違った印象を受ける。

この超電導マグネットはすでに量産されているDI-BISCCOを用いており、巻線技術も特別なことは行なっていないので、安価で地方大学レベルの予算で実現できている点も注目される。これまでいくつかの酸化物超電導マグネットが試作されているが、冷凍機を用いていたり、あるいは巻線数が少ないために通電電流が100 Aを越えていたりと、ある意味ではあまり実用的とは言えなかった。

この研究成果は、この秋の日米高温超電導体ワークショップ(11月、岐阜市)と低温工学・超電導学会(11月、仙台市)で発表する予定である。

小田部准教授は「これまでも当グループでは、短尺の酸化物超伝導試料の交流通電搊失測定などの電流源として使うことを目的とした500 Aクラスの小型超電導トランスを試作することに成功している(SUPERCOM 1998年10月)。この時のテープ材の臨界電流は50 Aであることを考えると隔世の感がある。この超電導マグネットは、今後は200 A級テープ材の使用や巻線数などを工夫することにより、さらに高磁界を狙うこともできる。今後もアイデアのある酸化物超電導体の応用を考えていきたい。《とコメントしている。      

                               


図1 液体窒素中で0.5 Tを発生する酸化物超電導マグネット

  (えそ)