SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.5, October. 2007

2.北京における超伝導フィルタ実証実験を垣間見て!


 中国清華大学の曹必松教授グループがHTSバンドパスフィルタの実証実験を行っていることはすでに会議等で聞いていた。が、果たしてどのような状況で実証実験を行っているのかは、全く分らなかった。今回、2007年8月7日から数日間、清華大学の曹教授に招待され、その実証システムを視察する機会を得たので、その状況を紹介したい。

  中国の携帯電話のシステムを担当している会社は、China UnicomとChina Mobileの2社である。曹教授のグループは、China Unicomと共同で、携帯電話基地局にHTSバンドパスフィルタを導入している。ここで用いられているシステムは、830 MHz、CDMA方式用である。実際の基地局の写真を図1に示す。北京市内のやや閑静な場所にその基地局は存在していたが、周りは必ずしも整備されておらず、埃が蔓延しているようなところであった。外見は古く、その中に最先端のHTSフィルタが存在しているとはとても想像できなかった。基地局の建物の壁からは何本ものケーブルがアンテナに向けて伸びていた(図2)。これは、3セクタの各アンテナに、HTSフィルタと通常のフィルタのケーブルが配線されているためと後で分かった。錆びついたドアから中に入ると、外見とは裏腹に、GEの大型の空調機が2台稼働し、常に24 ℃にコントロールされた快適な空間となっていた。しかしこの空調機はHTSフィルタのために備えているのではなく、通常のフィルタや電子回路の安定動作を確保するために上可欠な装置であるという(HTSフィルタの消費電力は別個の電力計で常にモニターされているが、その消費電力は全体の消費電力の1%以下である)。

HTSフィルタシステムは、図3で示されているように、約20 cm×50 cm×60 cmのケースの中に紊められていた。この中に6個のHTSフィルタを冷やす冷凍機システム、増幅器、温度調節器などが配置されている(小型のスターリング型パルス管冷凍機でHTSフィルタ、低温アンプを冷却している。動作温度70 Kである)。HTSフィルタがもし稼働しなくなった場合は、自動的に通常のセラミックフィルタに移動する機能がある(図4)。そのために、通常の基地局よりも多くのケーブルがアンテナに接続しているのである。したがって、万が一の場合も補償できると自慢していた。現在これと同等な基地局が5基稼働しており、1年半無事故でHTSフィルタを使用しているとのことである。中国のチャレンジ精神に脱帽(日本のメーカーの弱腰が情けない)。

 曹教授のグループは基地局に使用するHTSフィルタシステムの試運転、フィルタのチューニング評価、小型の低ノイズ増幅器の作製等、ほとんど企業と同じ内容の研究を行っている。また昨年の秋に、曹教授の技術を生かしたベンチャー企業を立ち上げた。市内中心部のビル内に、綜藝超導科学有限公司を開設。まだスタッフは5~6吊と少ないが、クリーンルームも備えた近代的な企業であり、今後の進展が期待できる。   

                               


図1 基地局の全体写真


図2 基地局の建物からアン テナに伸びるケーブル


図3 HTSフィルタシステム


図4 HTSフィルタと通常のフィルタを切り替えるシステム

  (銘酒樽平)