SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.5, October. 2007

1.世界最大出力・液体窒素冷却ビスマス系超電導モータの開発に成功_IHI、住友電工、大陽日酸、ナカシマプロペラ、新潟原動機、日立製作所、福井大、富士電機システムズ_


 株式会社IHIを取りまとめ役とする産学グループ(IHI、住友電工、大陽日酸、ナカシマプロペラ、新潟原動機、日立製作所、福井大学 杉本英彦教授、富士電機システムズ)は、液体窒素冷却によるものとしては世界最大出力となる「365 kW超電導モータ《の開発に成功した。 産学グループでは、磁束をコイルに鎖交させないで大きな電流を流すという発想をもとに、「ビスマス系超電導線(DI-BSCCO)《を用いた超電導コイルの中心に磁束を集中通過させるための「フラックスコレクタ(FLC)《をすでに開発している。

  FLCは、コイルの中心に高透磁材料を入れたコイルシステムで、このシステムの採用により液体窒素温度でも大きな電流を流すことができるようになった。その結果、従来のモータの1/10の大きさで、かつ大容量のモータが製作できるようになった。これにより、平成17年に世界初の実用化レベルの液体窒素冷却超電導モータ (SuperCom Vol.14, No.1 February 2005 通巻73号)の開発に成功している。その後、実用に向けて大型化に取り組み,今回の365 kWの超電導モータを開発し、富士電機システムズ川崎工場にて負荷試験が終了したものである。

 このモータの仕様は以下の通りである。

出力:365 kW、回転数:毎分250回転、大きさ:直径1.2 m×長さ0.8 m、重量:4.4 t

IHIの舶用超電導推進事業室竹田敏雄部長によれば、今回の開発に成功したモータの大きな特色は、以下の3点だと言う。

Ⅰ.他で開発されている超電導モータでは、直流コイル(界磁コイル)のみを超電導にしているが、産学グループはFLCを採用したことで交流コイル(電機子コイル)に発生するACロス(交流搊失)を低減させ、世界で初めて交流部分を超電導コイルにすることに成功した。

Ⅱ.超電導コイルを並列して使用すると(モータ容量の大型化には必須)コイルの両端にだけ大電流が流れるという超電導コイルの偏流現象(コイルに電流が均一に流れない現象)が発生する。これに対しては、コイル一つ一つに流れる電流を調整し、均一に流すことが可能な「電流調整器《を開発して対応した。

Ⅲ.他の超電導モータでは軸部分を使用して冷却剤を流しているが、産学グループでは超電導部分(電機子部分)を固定したことで、軸を使わずに冷却することを実現した。これにより軸の両端を連結等の目的で使用することが可能となり、モータのタンデム連結(モータ容量の大型化)を可能にした。

 また、現在、産学グループでは、この超電導モータ(365 kW)と昨年,試験的に開発した超電導モータ(50 kW)の2台をタンデムにつなげ、2重反転プロペラを直接駆動する推進装置の組み立てを開始している。竹田部長によれば、最初のモータ開発から時間が経っているが、その原因は超電導交流モータ特有の問題解決とその検証のためと言う。また、「400 kWが実船に搭載される時期は?《との質問には、2008年度に受注を目指し、受注できた場合はその1~1年半後に搭載される事になると言う。「価格は?《との問には、推進装置(モータを2台組み合わせた2重反転推進装置)としては、通常モータの推進装置と同等程度の価格に落とせると予測している。年間販売台数,市場規模については、初期の400 kWクラスは内航船(国内の港から国内の港を運航する船)で、年間最大で20セット(モータとしては40個)程度と見ているが、大型化を含めれば市場規模としては国内外,陸上用の市場も視野に入り相当数が出回ると期待している。 産学グループは今後、2008年内に400 kWクラス超電導モータの市場投入を目指し、また2,500 kW大型化への開発も継続して行き、舶用機器市場における省エネ化への期待に応えて行くことにしている。

                               


図1 超電導モータ外形


図2 超電導モータ構造

  (HTSCooler)