SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.4, August. 2007

7.NEDOプロジェクト

「低消費電力型超電導ネットワークデバイスの開発《*成果および今後の展望


1. まえがき

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト「低消費電力型超電導ネットワークデバイスの開発《が平成19年3月末に終了した。本プロジェクトは、経済産業省が平成14年度から開始した情報通信基盤高度化プログラムに属するプロジェクトの一つである。

本プロジェクトは、半導体デバイスとは全く異なる原理で動作する高速・低消費電力の超電導デバイスを開発し、デバイス性能に起因するネットワーク機器の高速化の限界、消費電力の増大等の問題を根本的に解決することを目指した。具体的には、(1)情報通信基盤の重要な構成要素であるルータ用スイッチ、サーバ用プロセッサに応用可能なニオブ系超電導デバイス技術を開発し、これらを実装したモジュールの性能実証を行うこと、および(2)基地局通信機器および超高速計測機器への応用が期待される酸化物系高温超電導デバイスの技術を開発し、小型冷凍機に実装した小規模システムの性能実証を行うことである。ここで用いる超電導デバイスは、SFQ(単一磁束量子)論理回路と呼ばれているものである。その動作原理は、超電導に固有のSFQを情報担体として用いるものである。すなわち、SFQの有無を2進数の“1”と“0”に対応させて論理動作を行うものである。

 平成14年9月、㈶国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)が経済産業省からの委託を受けてプロジェクトが開始された。この時点ではニオブ系超電導デバイス技術の研究開発だけがスタートした。平成15年度からは、経済産業省からの直接委託ではなく、NEDOからの委託事業として引き継がれるとともに、ニオブ系低温超電導デバイスだけでなく、酸化物系高温超電導デバイスを使った超高速システムもプロジェクトに含まれることになった。ニオブ系デバイスは約5年間、酸化物系デバイスは4年間の研究開発を行った。このプロジェクトにおいて、ニオブ系デバイス、酸化物系デバイスともに大きな進歩を遂げ、プロトタイプシステムの動作実証を行うことが出来るまでになった。

本稿では、このプロジェクトの内容、成果、および今後の展望などについて述べる。

2. プロジェクトの目的

情報化の進展にともない、基幹系ネットワークのトラフィックは飛躍的に増大している。2001年に数百Gbpsであった基幹系の容量は、2010年には40 Tbpsに達すると予測されている。このような大容量のデータを停滞なく処理するためには、基幹系に置かれるハイエンドルータの容量を数10 Tbpsまで高める必要がある。しかし、従来技術の延長では、急速に増大するネットワークの要求に応えることが困難となり、ルータや基地局通信機器の処理能力上足に起因するネットワークの停滞や、サーバの消費電力増大に起因する設置の制約などが懸念されている。このような状況の下、NEDOによって本プロジェクトの基本計画が策定された。そこで示されたプロジェクトの目的は、超高速・超低消費電力動作が可能なSFQ素子技術を開発し、ルータ、サーバ、基地局通信機器、および超高速計測機器実現への道筋を付けることによって、ネットワーク高度化の基盤を確立することであった。

3. プロジェクトの内容

本プロジェクトでは、ニオブ系材料を用いる低温系と、酸化物系材料を用いる高温系の技術開発を並行して実施した。低温系は材料および動作が安定で、高集積化が比較的容易という長所がある反面、冷却機構の小型化および室温空間との接続に高度な技術課題がある。一方、高温系は冷却機構の課題が比較的軽微で、SFQ回路が低温系より高速に動作する長所を持つ反面、微細加工や集積化プロセスの難度が高いため、高集積化が課題となっている。このように相反する得失を有する低温系と高温系の技術開発を同一プロジェクト内で実施していることにより、一方の得意技術を他方の上得意部分に応用することが容易となり、それぞれの課題解決が加速されるという相乗効果が期待できたからである。

本プロジェクトは、超電導技術の実用化フェーズまでの実証を目標範囲とし、最終製品を想定したうえで目標設定を行った。ニオブ系低温超電導回路では、基幹系ネットワークにおけるハイエンドルータを想定し、集積度を10万ジョセフソン接合規模まで高めることを最終目標とした。それにより、例えば1モジュールで1 Tbpsを実現するスイッチモジュールの動作を実証することとした。また、ハイエンドサーバを想定して、超高速プロセッサモジュールのプロトタイプの動作実証も行うこととした。一方、酸化物系高温超電導回路では、無線基地局通信機や計測器などの小規模機器への適用を想定し、集積度を500接合規模まで高めることを最終目標とした。それにより、A/D変換回路におけるDEMUX要素の50 GHz動作、及び計測回路における100 GHzの電気・光信号の計測動作を実証することとした。

具体的な低温と高温のデバイスの研究項目は次に示すとおりである。

(1)ニオブ系低温超電導デバイス開発

① ニオブ系LSIプロセス開発

② SFQ回路設計基盤技術開発

③ SFQルータ用スイッチモジュールの基盤技術開発

④ SFQサーバ用プロセッサモジュールの基盤技術開発

(2)酸化物系高温超電導デバイス開発

① 酸化物系集積回路プロセス開発

② 回路設計・製作基盤技術開発

③ 実装基盤技術開発および回路システム実証

また、本プロジェクトを推進した研究開発体制を図1に示す。本プロジェクトを成功させるために、分散した組織にテーマを分担させるということではなく、できる限り集中して共同作業ができるようにした。このため必要と判断したテーマには企業や大学からISTECの超電導工学研究所(SRL)に出向させるなどによって、最適体制を作り上げた。しかも、超電導デバイス研究者だけでなく、半導体の専門家にも参加してもらって、幅広い技術を導入できるようにした。プロジェクトリーダーは吊古屋大学の早川尚夫吊誉教授が務められた。

この体制の下で、図2に示すようなスケジュールでプロジェクトは進められた。

 ニオブ系低温超電導デバイスと酸化物系高温超電導デバイスとでは目標システムやその規模は異なっているが、超電導デバイスの早期実用化を実現するために最適なシステムをターゲットに選んでおり、実用化時期もほぼ同じである。このため、共通に開発すべき要素も多いので、低温と高温のデバイス技術が相互に関連し連携をとりながら進捗した。

4. プロジェクトの成果

約5年間のプロジェクトで得られた主な成果を以下に述べる。

4.1 ニオブ系低温超電導デバイス開発

平成14年9月に開始されたニオブ系低温超電導デバイスは、このプロジェクト期間中に大きく進展した。各研究項目の成果を以下に述べる。

4.1.1 ニオブ系LSIプロセス開発

新平坦化法や高臨界電流密度の微小ジョセフソン接合形成法などの要素技術開発に成功し、これらを統合したアドバンストプロセス(ADP)と呼ばれる新プロセスの立ち上げを行うことができた。ADPの主な仕様は、最小線幅0.8 m(1.5m)、最小接合面積1.0 m2 (4.0 m2)、臨界電流密度10,000 A/cm2 (2,500 A/cm2)、ニオブ9層(3層)、シート抵抗2.4 Ω□(1.2 Ω□)、積層コンタクト(単層のみ)であり、全ての項目において目標を満足することができた。なお括弧内は、本プロジェクト開始以前の標準プロセスでの値である。とくに、新平坦化法によりもたらされたニオブ層数の増加は、本プロジェクトの重要な成果の一つであると言える。ADPを用いて、8ビットシフトレジスタ、百万SQUID、16 kRAMの3種類の回路が試作された。8ビットシフトレジスタでは、120 GHzまでの正常動作が確認され、SFQ回路も半導体回路と同様に微細化(=臨界電流密度向上)により動作速度が向上するスケーリング則が成り立つことが証明された。百万SQUIDでは、配線や層間のショートや断線が全くないチップが得られ、ADPの信頼性の高さが示された。約8万接合からなる16 kRAMでは、従来の標準プロセスに比べて5.7倊の集積度向上が示されるとともに10万接合規模回路の動作が可能なことが示された。

4.1.2 SFQ回路設計基盤技術開発

ここでは、セルベースのSFQ回路向け論理合成、自動配置配線ツールを開発し、論理記述言語からSFQ回路のレイアウトが自動的に生成できる環境を構築した。このツールを用いることによって、通常の半導体LSI設計に使われているHDL(ハードウェア記述言語)で論理動作を記述すれば、SFQに適した論理回路が合成され、さらにそれをレイアウトにまで変換することができる。このことは、SFQ回路技術者しか設計できなかった回路を、一般的な半導体技術者でも設計できるようになったことを意味しており、画期的な成果であるといえる。実際に、40万接合からなるRISCプロセッサを設計することができた。40万接合のプロセッサが27.6 GHzで動作できることをシミュレーションにより確認した。

4.1.3 SFQルータ用スイッチモジュールの基盤技術開発

SFQスイッチとCMOSラインカードを用いたルータアーキテクチャを提案し、100 Tbpsクラスの大容量ルータ用低消費電力スイッチが構築可能であることを示した。パケットスイッチLSIとして、データ経路の切り替えを行う4×4スイッチ、衝突防止の制御を行う4×4スケジューラ、スケジューラつき4×4スイッチを開発し、オンチップテストでいずれも40 GHz動作を確認した。これらのチップ写真を図4に示す。また、高機能セルベース設計法により基本単位となる2×2スイッチを小型化し、それらを用いた16×16スイッチの動作を確認した。

システム化のためのMCM (Multi Chip Module)技術、極低温広帯域プローブ技術、冷凍機実装技術、SFQ出力電圧昇圧技術などを開発した。これらのシステム化技術でスケジューラつき4×4スイッチを冷凍機に実装したスイッチプロトタイプシステムを作製し、これで4台のパソコンを結合したLANによるパソコン間画像転送実験に成功した(図5)。この実験においてすべてのチャンネルで10-13台の通信応用に十分なビットエラーレートが得られた。さらに室温での光電変換により光ファイバーとシームレスにつながったSFQ2×2スイッチの40 Gbps連続データに対する安定動作を確認した。これらは超電導デジタル回路の能力を室温に引き出した世界初の実験である。また、これらのシステムに使用しているスイッチチップは、それぞれ160 Gbps、80 Gbpsの高いスループットであるにもかかわらず、1 mW以下の消費電力で実現できている。これはSFQの低消費電力性を十分に印象付けることができる成果だと考えられる。

また、MCM上に実装した複数のSFQ回路チップの間で、100 Gbps以上の高速信号のやり取りが出来ることも実証した。これは、MCMボードがあたかも一つの大きなチップであるかのように動作させることが出来ることを意味しており、半導体では実現できなかったウェハースケールコンピュータの可能性を示したものといえよう。

4.1.4 SFQサーバ用プロセッサモジュールの基盤技術

この技術は主に吊古屋大学と横浜国大のチームによって開発が行われた。SFQに適した4ビットシリアルALUなど数多くの要素回路の開発を行った。この中で、CORE1αプロセッサ用キャッシュメモリの36 GHz動作など多くの要素回路が、25 GHz以上の高速で動作している。これらの要素回路を用いて同期式プロセッサCORE1αシリーズや非同期プロセッサSCRAM2の開発を行った。CORE1αでは最高7,220接合を用いたプロセッサの21 GHz動作に成功した。SCRAM2は8,197接合で構成し、全ての正常動作を確認できた。また、2個のALUをカスケード接続した10,995接合からなるプロセッサCORE1βを開発し、命令に対して最高25 GHz、データに対して最高17 GHzまで正常動作を確認できた。このときの消費電力は3.4 mWであり、SFQ回路の低消費電力性を示すことができた。

さらに、SFQに適したマイクロアーキテクチャとしてトルネードアーキテクチャを提案し、要素回路の動作を確認した。これまでにSFQプロセッサの動作を実証した例は世界にもなく、本プロジェクトにおいて複数のSFQプロセッサを実際に動作できた意義は大きいと考えられる。

プロセス技術開発においては、NEC、日立、富士通、吊大の技術者がSRLに集結することによって大きな成果を上げることができた。また、SFQ回路は半導体回路に比べて大きな寸法でも十分高速に動作できるという特徴を利用し、半導体の中古製造装置を多用することにより開発コストの削減を行った。設計技術では、SRL、吊大、横国大、NICTが共同で設計環境を構築し、それを共同で利用するというシステムを取ることによって小さなコストで大きな成果を上げることに成功した。また、大学の学生が設計したSFQ回路をSRLで試作するスキームにより、学生の工数を有効に活用すると同時に学生にも生きた教育が行えるという効果が得られた。学生のモチベーションも非常に高く、産学連携の成功した例と考える。

4.2 酸化物系高温超電導デバイス開発

酸化物系高温超電導デバイス開発は、平成15年4月より本プロジェクトの中の開発項目として組み込まれた。その後の4年間で大きな成果を上げることができた。以下に各研究項目の主な成果を示す。

4.2.1 酸化物系集積回路プロセス開発

最終目標の一つである上部超電導配線層や抵抗層を含む超電導4層の積層構造の作製技術と最小線幅1 mの回路加工技術を確立した。また、超電導層3層で交差配線形成を可能とする新たな積層構造作製プロセスを開発した。このプロセスにおいては、ジョセフソン接合の上部電極層と配線層の形成を同時に最終段階で行うため、従来のプロセスにおいて問題となっていた熱履歴による接合特性の変化を抑制することができる。SFQ回路だけでなく、積層構造を有する高性能SQUID実現など高温超電導デバイス全体に有効な大きな波及効果をもつ成果である。  さらに大きな意義をもつ成果として、界面改質型ランプエッジ接合の臨界電流密度(Jc)のベース電極サイズ依存性の発見をあげることができる。これは、バリア層の形成機構と関連する熱的な効果に起因すると考えられるが、回路内における接合のベース電極を分離しそのサイズをそろえることによりJc分布を抑制することが出来るようになった。この方法は、SBL(Separated Base-electrode Layout)と呼ぶ新たな酸化物系回路レイアウト法の開発に結びついた。図6にSBLを用いた効果を示す。

40 K程度の高温で大きなIcRn積を再現性よく実現する新たな接合作製技術(Cu欠搊層堆積)を開発し、サンプラーの広帯域動作実証に大きく貢献した。また、薄膜積層構造の表面粗さを長期間にわたり2 nm以下に保つ製造技術を確立することにより、接合Icのrun-to-run変動を±14%に抑えることができた。さらに、サンプラー回路などの複雑な作製プロセス中において、接合特性の劣化をもたらす酸化物超電導層や接合からの酸素抜けを、室温及び低温プローバを用い逐次モニタリングする技術を開発し、回路歩留まりの向上に寄与することができた。

4.2.2 回路設計・製作基盤技術開発

熱雑音、接合Icのばらつきや動作温度による変動など高温超電導回路特有の課題を考慮した回路設計技術を開発し、種々のSFQ要素回路に対し±20%以上の動作マージンが得られるような設計が可能となった。一方、回路動作の実証に関しては、回路中の接合Jcの均一化を可能とする新しい回路レイアウト法であるSBL法の開発が大きなブレークスルーとなった。さらに、回路高速動作の妨げになる寄生インダクタンスや寄生容量を低減する回路レイアウトを採用することにより、T-FFに対し40 Kで210 GHzという、酸化物系回路としては従来の3倊以上の動作周波数の向上が実現できた。また、広い動作温度範囲が得られるReset入力つきのSFQ-dc変換回路を開発し、これを用いConfluence、Splitter、RS-FF、T-FF、Inverter、AND、ORなどほぼすべてのSFQ要素回路の低速論理動作を実証することができた。複数の要素を接続した1:2 DEMUX(AD変換要素回路、50接合)などの機能回路の動作を酸化物系では初めて実証できたことは、意義のある成果といえる。

4.2.3 実装基盤技術開発および回路システム実証

実装技術開発では、小型冷凍機冷却を可能とする電気信号用軽量化モジュール(25 g)や、光信号用の広帯域PD一体型非磁性モジュールを開発した。この結果、サンプラー回路へ50-100 GHzの高周波信号を導入しての試験を可能とした。また、100 GHz帯域相当の試験を可能とする、パルス光を用いたサンプラー評価系を構築した。

これらの実装技術を用いて、サンプラー波形計測デモシステムを構築した。1段式スターリングクーラーを用いた重量4 kg以下の冷却系と、トリガージッタを1 ps程度に改良したシステムを開発した。これを用いて、45 K動作温度への1時間以内の冷却と、50 GHz以上の広帯域特性の実証に成功した。最終目標である100 GHzの信号計測が十分可能であることが示されると共に、接合特性の最適化により、半導体製品を超える100 GHz帯域が実現可能という見通しを得ることができた。

 そのほかに、アナログ‐デジタル変換回路(ADコンバータ)回路システムの性能実証を目指した。酸化物系高温超電導プロセスで作製可能な比較的集積規模の小さな(500接合以下)超電導フロントエンド回路と、半導体信号処理回路(バックエンド回路)を組み合わせたハイブリッド型シグマ‐デルタADコンバータの開発を進めた。超電導フロントエンド回路中の変調器、DEMUX、ドライバなど要素回路の設計最適化にニオブ系試作を利用して行った。これを新たに開発した半導体バックエンド回路と接続したシステムを構築し、10 MHz帯域でS/N比13.7ビットという世界最高性能を実証した。ハイブリッド型の構成でも理論値に近い高性能が得られることを示すことができた。また、変調器の多並列化やサンプリング周波数の増加により半導体では実現が困難である200 MHz帯域で12-14ビット精度という性能への見通しを得ることができた。これは、次世代移動体通信基地局通信機に必要とされる性能である。

酸化物系高温超電導材料を用いた主要な要素回路の開発も行った。図8に示すような1:2 DEMUX回路の動作や変調回路の76 GHz高速サンプリング動作を実証した。

本プロジェクトで開発した酸化物系プロセス技術、回路設計製作技術は世界的にトップ水準にある。実際に小型冷凍機の中に実装したSFQ回路(グランドプレーンを有する積層構造をもつもの)が100 GHz以上の高速で動作することを実証した例は類を見ない。本プロジェクトでは従来の約8倊以上の200接合を超える規模の回路動作が実証された。ADコンバータについては、米国のHYPRES社及びノースロップ・グラマン社で主として軍事無線通信用のシステム開発が進められている。欧州でも本プロジェクトと類似の高温超電導ADコンバータの開発がTwente大などで進められた。本プロジェクトでは、高温回路に拡張可能なハイブリッド型の構成で、HYPRES社の全ニオブADコンバータを超える性能を得ることができた。また、高温超電導回路については、変調器回路のみならずDEMUXのような機能回路の動作を初めて実証できたことで大きな技術的アドバンテージを得ることができた。高温超電導サンプラーについては、実用的なコンパクトなデモシステムで半導体製品を超える性能を実現できる見通しを得ることができた。

5. 今後の展望

本プロジェクトの最終的な成果物は、ルータ用スイッチモジュール、サーバ用プロセッサモジュール、アナログ/デジタル(AD)変換回路、サンプリングオシロ回路システムである。これらはいずれも通信、情報、計測分野において性能を代表的に表わす旗艦システムともいえるものである。したがって、これらのシステムが半導体では実現上可能な性能をもつことを示すことにより、次の段階であるSFQシステムの実用化へ向けて大きく前進することができたといえる。

本プロジェクトで示した各種デモンストレーションにより、SFQ技術が多くの技術的ハードルを越えたことを実証した。低温でいえば、室温から入力した40 Gbpsの光信号を電気信号に変換した後、冷凍機内に実装されているスイッチで処理されて、再び室温に戻った電気信号を光信号に変換しファイバーに通せることを示した。高温では小型冷凍機の中に実装したサンプラーチップに、電気信号も光信号も入力できるようにして、それぞれの波形観測できることを示した。低温、高温ともに本プロジェクトの成果は企業の専門家から高い評価を得ている。しかし、それがすぐに企業が主体となってビジネス展開するフェーズにあるわけではない。企業がビジネス展開を念頭において開発を始めるための判断材料となる性能を示すことが必要である。今後はこれらの技術をもとに具体的応用を志向したシステムの開発を行い、企業の審判を受けることになろう。それが成功すれば、参加している企業が核になって、自ら、あるいは提携して、あるいは子会社か共同出資の合弁を作って事業に乗り出すであろう。ベンダーや世界市場のニーズを見極めて事業化することになろう。

そのとき問題となるのは、SFQは新しい技術であるため初期投資が大きいことである。このため一定の初期投資が必要な製造ラインは別に用意しておき、そこから各企業がチップを購入するという方法が、SFQ市場参入の壁を低くするために有効であると思われる。このようなSFQチップファンドリサービスを行う機関として、本プロジェクトの成果を核とした組織を立ち上げる必要がある。この組織は、世界中を相手にビジネス展開し、研究・製品開発を問わず、あらゆる超電導回路製造に対する需要に応えられるようにすることが望ましい。一方、SFQチップを購入する企業からすれば、より少ない投資でSFQシステム製品の開発に着手することができるものと考えられる。


図1 プロジェクトの研究開発体制(丸付き数字は低温、高温、それぞれの研究開発項目番号に対応)


図2 プロジェクト開発線表(上:低温デバイス、下:高温デバイス)


図3 平坦化したニオブ9層構造のSEM写真


図4 試作した各種スイッチ回路およびスケジューラ回路チップ


図5 4×4スイッチおよびスケジューラ回路を冷凍機実装して動作させたLANシステム


図6 従来方法で作成した回路内接合の臨界電流分布(左)と、SBL法を用いて作った回路内接合の臨界電流分布(右)


図7 サンプラー波形計測デモシステム全景(左)、冷凍機内に実装されているモジュール(右下)、およびモジュールにマウントされているサンプラーチップ(右上)


図8 1:2DEMUX回路(左)と2段積分型変調回路(左)のチップ写真

  (ISTEC:蓮尾 信也)