SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.4, August. 2007

4.超ウラン・ネプツニウム化合物で初めて超伝導を発見 _東北大、原研、阪大_


    東北大学金属材料研究所 附属量子エネルギー材料科学国際研究センターの青木大助手(現所属:CEA-Grenoble)、日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センターの芳賀芳範研究副主幹、大阪大学大学院理学研究科の大貫惇睦教授らは、ネプツニウム化合物として世界初の超伝導体NpPd5Al2(ネプツニウム・パラジウム5・アルミニウム2)を発見した。     

   ネプツニウム(Np)は、元素の周期表でウラン(U)とプルトニウム(Pu)の間に位置する元素である。ウラン以降の元素は「超ウラン元素《と呼ばれ、天然には存在せず、原子炉の核反応で生成する人工元素である。強い放射能を持つことから、取り扱いが難しく、限られた施設でしか実験することができない。近年、超ウラン元素及びその化合物は、原子力技術における重要元素としてだけではなく、基礎科学的な観点からも注目が集まっている。

 ネプツニウム化合物は磁気秩序を示す物質が多く、超伝導にはなりにくいというのが一般的な考え方であった。超伝導は2つの電子間に有効的な引力が働きクーパー対という電子対をつくることで実現するが、磁気秩序あるいは強い磁気的な相関は、この電子対を容易に壊してしまうからである。いわば、超伝導と磁気は犬猿の仲と思われていた。しかし、重い電子系化合物において、電子間のクーロン斥力が非常に強い物質で超伝導が発見されて以来、これまでセリウム化合物、ウラン化合物においていくつかの重い電子系超伝導体が見つかっている。2002年にはプルトニウム化合物PuCoGa5、PuRhGa5で非常に高い転移温度を持つ超伝導体が見つかって話題になった。しかし、ネプツニウム化合物では超伝導体はこれまで発見されていなかった。

 今回発見された超伝導体NpPd5Al2はNpとPd(パラジウム)の化合物を探索している過程で見つかった。組成分析、構造解析の結果から結晶構造はZrNi2Al5型の正方晶であり、希土類化合物にもウラン化合物にも存在しない新規化合物であることが分かった。超伝導転移温度は5 Kであり、重い電子系超伝導体の中ではかなり高い。この超伝導の特徴を挙げると、 (1)図に示すように超伝導が壊れる上部臨界磁場H c2が非常に高く、磁場方向に対して異方的である。正方晶のc軸方向で14.3テスラ(地磁気の50万倊)、a軸方向で3.7テスラである。

(2)図に示すようにTc近傍でのHc2の傾き(-dHc2/dT)が非常に大きく、しかも高磁場中ではTcが急激に低温側にシフトする。磁化曲線は、Hc2で階段的にジャンプして一次の相転移を示す。このことから強い常磁性効果が存在する。

(3)比熱は、Tcで大きなジャンプを持ち強結合の超伝導を示している。低温での温度依存性から、超伝導ギャップにポイントノードの存在が示唆される。これら結果をまとめると、NpPd5Al2はd波超伝導体であると結論される。

 NpPd5Al2の常磁性状態の磁化率は降温とともにキュリー・ワイス的に増大している。いわば磁気秩序寸前の状態で超伝導が実現している。

 青木大氏は「もともと超伝導を期待して決め打ち的にNpPd5Al2を合成したわけではなく、Np-Pd系の化合物を育成中に偶然超伝導を見つけた。これまでに多数のNp化合物の純良単結晶を育成してドハース・ファンアルフェン(dHvA)効果などを測定してきた。これらの経験と知識が今回の超伝導発見につながった。NpPd5Al2は5f電子が伝導に関与し電子比熱係数が200 mJ/K2molの重い電子系になっている。非常に興味ある性質が凝集した新しいタイプの超伝導であり、今後超伝導の新たな性質が多数見出されることが予感される。また、原子力技術において、これら超ウラン元素の挙動を正確に把握することは安全面から重要だと思う。また、超伝導発現機構の解明が進むことで新たな超伝導素材、磁性材料の開発につながるだろう《と話している。

 この成果は、日本物理学会の欧文誌「Journal of the Physical Society of Japan《(JPSJ)にレター論文として速報され、同誌の注目論文に選ばれた。[D. Aoki et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 76 (2007) 063701.]安岡弘志氏による解説文“H. Yasuoka: JPSJ Online-News and Comments [June 11, 2007]”も掲載されているので参照されたい。


図1 NpPd5Al2の超伝導上部臨界磁場-温度相図

   (青タイツ)