SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.4, August. 2007

3.高温超電導SFQサンプラーシステムを開発*50 GHzの信号観測に成功 _超電導工学研究所_


   超電導工学研究所は、NEDO低消費電力型超電導ネットワークデバイス開発プロジェクトの一貫として単一磁束量子(SFQ)回路を用いた超高速サンプラーシステムを開発した。高温超電導デバイスは小型冷凍機での冷却が可能でシステム全体を小型化できることから近い将来の実用的な小規模システム実現への期待が高い。今回、高温超電導サンプラーチップを搭載した小型の冷却システムと計測制御システムを含む全システムをポータブルなデスクトップサイズで実現した。このシステムを用いてプロジェクトの最終目標であった50 GHzの外部信号をクリアーに観測することに成功した。

  超電導サンプラーは数十接合と小規模な集積化技術で作製可能なことから高温超電導SFQ回路の応用として最も実用化に近い応用と考えられ研究開発が進められてきた。高温超電導のエレクトロニクス分野での応用ではパッシブなデバイス応用としてはHTSフィルタが米国ではすでに実用化され、国内でも実用化に向けた研究開発が進められている。一方、アクティブな複数の接合(バイクリスタル接合)を用いたSQUIDシステムやTHz波のデテクターへの研究が行われており、その一部は実用化もされている。超電導工学研究所では高温超電導デバイスの集積化を進めるために、ランプエッジ形状の表面改質型ジョセフソン接合(IEJ接合)と多層薄膜化技術による小規模集積回路技術を同プロジェクトで研究開発してきた。同研究所ではその技術を用いてサンプラーチップを作製した。(図1(a))

高温超電導サンプラーの実用化を進めるためには冷却システムを含む全体のシステムをポータブルなサイズにすることが一つの重要な開発項目である。開発された冷却システムでは信号ラインやサンプラーチップを実装する高周波モジュールの材料や形状などを適切に設計することで熱流入と熱容量を最小限に抑え、小型の一段スターリングタイプのクライオクーラー(冷却能力:80 Kで1 W以上、消費電力:60 W)を採用、起動後60分以内で45 Kの冷却に成功している。高周波モジュールとチップ実装は再委託先であるアドバンテスト研究所が開発した。高周波モジュールは初期バージョンでは100 g以上あったが最終バージョンでは約25 gと軽量化が図られた(図1(b))。このサンプラーモジュールを組み込んだ冷却システムは、140 mm(幅)×150 mm(高さ)× 200 mm(奥行き)で重量4 kg以下と小型軽量化が実現された(図2)。

また、計測システムも一新され、計測器の標準化の一つであるPXIをベースとしたワンケースサイズのものが開発された。パルス発生器、ディレイライン、DCバイアス電源、A/Dコンバータなど、超電導サンプラーの動作に必要な全ての機能部品が3Uサイズ(高さ177 mm)で19インチラック幅の一つのPXIケースに収められた。サンプリングするタイミングを変えるディレイラインは従来機械的可変であったが電気的可変のものが開発され、さらにサンプリング周波数を従来の100 KHzから10 MHzと二桁の向上が図られたことにより、観測波形を表示する際のスイープ速度が数秒程度と市販のものと遜色がないほどに高速化がなされた。電気的な性能に関しても、高速化された10 MHzサンプリングや基準発振器を用いた新たな方式の開発によりジッタを従来の5 ps位から1 ps程度までの低減化に成功している。

図3は開発されたシステムを用いて測定した50 GHzの波形であり、これまでになくクリアーな波形観測に成功している。今回開発されたシステムは、サンプラー動作の制御をするPCを含めた全システムが従来のラック一台のサイズからデスクトップサイズへと実用化レベルに小型化された(図4)。現時点ではPCはデスクトップタイプのものを使用しているがPXIケースにモジュールタイプのものを収紊できるスペースも用意されている。このような冷却システムを含むポータブルなシステムを実現したことは、今後の本格的な実用システム実現に弾みをつける意味でも重要な一歩になることが期待される。               


図1 高温超電導サンプラーモジュールとチップ


図2 小型クライオクーラーを用いたサンプラー冷却システム (内部写真)

図3 開発したサンプラーシステムで観測した50 GHz正弦波信号


図4 高温超電導SFQサンプラーシステムの全体写真

     (ピコス)