SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.4, August. 2007

1.MgB2を用いた超電導磁石の開発に成功 _JR東海、日立製作所_


  東海旅客鉄道株式会社(JR東海)リニア開発本部と株式会社日立製作所材料研究所は、MgB2 (二ホウ化マグネシウム)線材を用いて、従来と比較して大型(内径500 mm)の超電導コイルを共同開発し、このコイルを使って、液体ヘリウムなどの液体冷媒を使用せず、冷凍機による伝導冷却方式により、超電導磁石として機能させる試験に世界で初めて成功したと発表した(H19.4.20プレスリリース及び2007年度春季低温工学・超電導学会)。

  MgB2線材は、原料及び線材作製コストが安価であるということと、臨界温度が39 Kと高いために20 K近傍の高温領域で使用できるということから、実用化に向けて、世界の研究者がMgB2線材の研究開発を行っている。 JR東海、日立・材料研究所および物質・材料研究機構のグループは、2004年には、130 m長の長尺単芯線材を作製し、そのうち58 mを使用して、内径30 mm、外径48 mm、高さ50 mmのソレノイドコイルを作製し、4.2 K、外部磁場ゼロの条件で、臨界電流214 A、中心磁場2.1 T、最大経験磁場2.2 Tを達成している(本誌13巻6号(2004年12月)に既報)が、今回はその5倊の大きさのコイルを作製した。

開発したMgB2コイルは、MgとBの混合粉末を電気抵抗が低い銅と鉄からなる複合金属管に充填し、直径0.7 mmまで伸線加工して長さ180 mとし、これを内径500 mmのコイルに巻いて熱処理を行っている。そのコイルを、JR東海が開発した試験装置に組み込み、伝導冷却方式により冷却して、温度約6 Kで180 Aを通電し、重さ約630 kg(錘500 kg + 軸約130 kg)を浮上させることに成功した。

今後、実用化に向けて、線材の更なる長尺化(1 km級)、コイルの大型化を目指し、また、線材自体の超電導電流特性の向上に取り組み、より高い発生磁場(中心磁場1~2 T程度)を目指すとのことである。この研究を進めることにより、超電導フライホイール、医療診断機器MRIなどへの利用が期待できる。

 日立・材料研究所NMR研究プロジェクトの田中和英氏によれば,今回の開発ポイントとして,「大型コイル製作に際し,①200 m級線材の長尺均質性の向上,②超電導化するための熱処理や冷却で生じる線材の熱歪みを許容値の0.5%以下とするためにコイル巻線構造の適正化をした《と述べた。また,同プロジェクトリーダの岡田道哉氏によれば、「今回の成果は、MgB2を用いた大型マグネット応用に道を拓くものである。冷凍機冷却が可能であれば,従来とは異なる新規な応用分野が開拓できる可能性もある《と語っている。

JR東海リニア開発本部の山田秀之氏によれば、「今回、試験装置ではあるが、MgB2線材による超電導磁石を実際の機器に組み込んだ試験を実施できたことは、今後のMgB2線材の応用開発にはずみがつくと期待できる。《とのことである。 また、物質・材料研究機構 超伝導材料センター長の熊倉浩明氏は、「MgB2線材はまだJc特性が上十分であるが、今回の結果を見ると、実用線材としての資質は十分に持っていると判断できる。今度の特性向上が実用化へのカギとなろう。《とコメントしている。   

                               


図1 MgB2を用いた超電導磁石の開発に成功


図2 試験装置の外観

 (HY&KT)