SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.3, June. 2007

9.〈第76回2007年度春季低温工学・超電導学会報告〉


  1. 123系線材

今回の低温工学・超電導学会はRe-BCO関連として、口頭発表30件、ポスター発表24件あり、うち[IBAD及びPLD関連] 10件 [MOD及びMOCVD関連] 11件 [ピン関連] 13件 [応用及びその他特性] 20件であった。以下にいくつかのトピックスを挙げる。 IBAD中間層では、高速化、低コスト化に向けたIBAD-MgOの報告があった。宮田ら(SRL吊古屋)は、~10 nmのエピタキシャル層を含む約120 nm程度のIBAD-MgOを作製し、⊿ω= 4.5°、⊿Φ = 12°という結果を報告した。従来のIBAD-GZOよりも積層数が多いため、条件の最適化がより困難な様子であったが今後高速化が見込まれる結果であった。フジクラGからもIBAD-MgOとIBAD-GZOを組み合わせた新しい中間層の構成が提案され、従来の1/4の膜厚の中間層成膜に成功した。既にこの構造においてJc > 106 A/cm2を確認しており、今後は日本においてもIBAD中間層の高速化開発が進むものと思われる。

長尺線材では、フジクラより200 m長のGdBCO線材で全長に渡ってIc = 300 Aを超える線材の作製にPLD法で成功したとの報告があり、今後500 m級の線材でもIc = 300 Aを超える線材作製が期待される状況であった。SRL吊古屋は、ZrO2を導入したターゲットを用いた人工ピン入りの線材を作製し、50 mでIc = 200 Aを超える特性を得ることに成功した。磁場中(77 K、3 T)でのIcは20 A以上であり、異方性も大幅に改善されていた。また福島ら(SRL吊古屋)から64 Kにて1.2 Tを発生させたGdBCOソレノイドコイルを用い、4.2 Kで5.7 Tの中心磁場発生に成功したとの報告があった。磁場中では強力なフープ力がかかるため、基板のハステロイの利点が十分に生かされている様子であった。現在強磁場下における実験がすすめられており、今後の結果が非常に興味深い。

低コスト線材プロセスとして開発が進められているMOD法では、昭和電線GがIBAD基板を用いバッチ式焼成炉にて200 m、201 A(77 K, 0 T)の線材作製に成功した。また配向Ni-W基板上でもJc >1 MA/cm2が得られているとのことであった。鬼頭(SRL)らは、異なる溶液組成(Ba/Y=2.0, 1.5, 1.0)の原料から作製した線材を比較し、低BaほどB // c方向の磁場中Icが上昇することを示した。TEM観察により、膜中に析出したCuOやY2Cu2O5などの影響がみられている様子であった。また、123組成の原料溶液から作製した膜にはc軸方向に多数の積層欠陥がみられ、Baが少ないほど積層欠陥が減ることが観察され、B⊥c方向の磁場中特性に影響を与えていることを示した。

人工ピンに関して、小林ら(SRL吊古屋)はYSZ及びLa2O3を2種混合したYBCOターゲットを用い超電導線材の作製を行った。YSZのみの混合ターゲットは、カラム状BaZrO3ピンが導入されるがTcに低下がおき、一方La2O3のみの混合ターゲットは、Tc向上と磁場中の異方性改善がおきる。これら二つを混合することで、Tcを双方のメリットを有する線材の作成に成功し、3 Tにおいて全角度にわたりIc > 36 A以上、c軸平行磁場に対し68 Aを得た。

その他ここでは紹介出来なかったが、各種実用特性や応用機器に関する報告も多数みられ、今後応用展開へ向けて開発テーマが広がっていくことが予感された。

(フジクラ:羽生 智)

2. Bi系線材

Bi系線材関係として発表10件(口頭発表8件、ポスター2件)で、内容は「Bi2223《関係が8件、『Bi2212』関係が2件であった。口頭発表会場、ポスター会場共に多くの聴衆が参加し、いつものように活発な議論がなされていた。以下に「Bi系線材《のトピックスを列記する。

Bi2223系の線材に関しては、加圧焼結法を用いて製造されているDI-BSCCO線材に関して住友電工より紹介があった。 住友電工の報告によるとIcが180 A(77 K, s.f.)の1.4 km長尺線材、同210 Aの短尺線材の開発に成功し、200 A×1 km線材に目処がたった。また開発された200 A級線材は、77 K、自己磁場下の臨界電流値の改善だけではなく、高温・低磁場での特性の改善が著しく、電力ケーブル・モーター・マグネットに対して応用領域の拡大が期待できることが示された。 九工大の高山氏は、DI-BSCCOの200 A級線材はBi2223の結晶の配向化が進んだことにより、0.1*1.0 T領域での平行磁場・垂直磁場共に電流特性が改善されていることを示した。

応化研の長村氏により、大気圧焼成した線材に比べてDI-BSCCO線材は、ボイドが減少し、高密度化しており、ヤング率が上がったことが示された。また更に機械的強度を上げるためにはシース材の高性能化あるいはラミネートを加えた3plyで補強する必要があることが提案された。

原子力機構の町屋氏により、BSCCO線を中性子回折法でAg相及びBi2223相の回折弾性定数を明らかにし、残留歪の評価法が提案された。

交流線材開発に関しては、豊橋技大の稲田氏は線材幅、ツイスト長の異なる線材を作製し、交流磁界下における交流搊失特性について評価した。3.8 mm幅では平行磁界下においてツイストにより交流搊失は減少した。また線幅の垂直磁場での狭小化の効果は、10 mT以上で認められたが平行磁界下ほどでは改善されていないことが報告された。

豊橋技大の福本氏はAl2O3をバリアとしたBi2223線材の通電特性及び交流特性についての評価を行った。Al2O3バリアを入れることにより、Bi2223相の生成が遅くなったが、横断抵抗率はバリアなしの線材に比べて1桁増加したことが示された。                          

(住友電工:山出 哲)

3. MgB2

2007年5月に行われた低温工学・超電導学会春季大会におけるMgB2超伝導体についての講演について報告する。MgB2関連の発表は12件であった。今回の講演では電気的結合度と低温合成について多くの発表者から報告があった。MgB2は上部臨界磁界が大きいにもかかわらず、その臨界電流密度は他の金属系線材と比較して小さい。臨界電流密度特性を抑制している大きな理由の一つがが電気的結合度の低さ、つまり、MgB2全体の中で電気的に結合している領域が低いことである。今回、その評価方法を含めた議論が行われた。また、低温合成については通常線材の場合600 ℃近傍で行われているが、その温度が低くなると工業的にもメリットが出てくる。

以下、各講演の概要を簡単に報告する。NIMSの松本らよりMgB2薄膜の超伝導特性について報告があった。作製された薄膜は4.2 K、10 Tで105 A/cm2を超えており、20 Tの磁場中においても104 A/cm2台であり、MgB2超伝導体が高いポテンシャルを有していることを示した。薄膜の電気的結合度は線材のそれに比べて高く、線材においてこのような高い結合度を持ったものができればさらなるJc向上が期待される。さらに鹿児島大学土井らからも薄膜の発表が2件あり、人工ピンとしてNi層やB層を導入することによって高いJcが得られることを示した。また、物理的にもいくつかの興味深い現象がみられており、今後の研究を期待したい。東京大学山本らおよび九工大の松下らによる共同研究において、パーコレーションモデルを用いた電気的結合度についての報告が行われた。現在のMgB2線材およびバルクの低いコネクティビティーは空隙および酸化物皮膜(MgO)に起因することを定量的に評価した。また、これらが解決した上で、ピン止めとなる結晶粒径の制御が行われると、臨界電流密度はNb3Snを超えることが示された。岡山大学の桑嶋からはSiC添加線材のピン止め力依存性についての報告があった。低温合成という点からは東京大学の花房らからは銀を添加することによって500 ℃まで熱処理温度を下げることが報告された。講演者によると銀が触媒的な役割を果たして熱処理温度が下がったのではないかという報告があった。NIMSの中根らからはex-situ法に用いるための粉体を種々の圧力下で作製し、その特性を評価した報告が行われた。さらに菊池らはMg源として、低温で分離しやすいMg2Cuを用いた粉体を用いて100 m級の線材を作製し、コイルの試作を行った。コイル特性では4.2 Kで2.62 Tの磁場発生に成功しており、低温で作製されたコイルとしては、従来のコイルに匹敵する高特性を達成した。JR東海の山田らは芳香族炭化水素とSiCを加えた多重添加により単独添加より高い臨界電流密度特性を得ることに成功した。これはSiCによるC置換効果およびエチルトルエンからのC置換が同時に起こり、Hc2が上昇したこと、さらに、エチルトルエンによる電気的結合度の上昇によるものと考えられる。さらに、日立製作所との共同研究において磁気軸受けの浮上に成功したことが報告された。鹿児島大学の福島らからは低搊失化のため、撚り線化した多芯のテープ線材と丸線のアスペクト比の違いによる臨界電流密度特性の評価を行った。今後、さらなる研究を行い、低搊失化のための指針が得られることを期待する。富山大学の松田らからはMgB2粉末をアルミニウムの溶湯で押し出す新たな手法により線材開発を行っている。線材断面中にはアルミニウムマトリックスの中にMgB2が分散している様子が観察されており、このような分散状態においても電気抵抗測定でTcが観測されたことは興味深い。今後、条件の最適化等により更なる特性向上に期待したい。NIMSの藤井らからはex-situ法用粉末をPITの前に化学処理を行い、結晶粒を微細化することに成功している。化学処理には安息香酸ベンゼン溶液を用いているが、この中の炭素がMgB2と反応し、高磁界特性が改善していることがわかった。一方、SiCを添加した線材の作製も行っているが、Jcの上昇、格子定数の変化がないことから、SiCによるC置換が起こらないことを報告した。日立製作所からコイル用の線材の曲げひずみ効果および、永久電流接続の報告があった。コイル曲げひずみ特性としては0.5%の曲げ歪みまでIc劣化がないことが確認された。また、MgB2のPCSは約20,000 s後の電流劣化がほとんどなく、約600 Aの永久電流運転が可能であることを示した。以上、簡単であるが、各講演の概要を示した。                       

 (物材機構:松本 明善)

4. A15線材

 第76回低温工学・超電導学会のA15線材に関連するセッション(Nb3Al線材、ならびにNb3Sn線材)について報告する。発表件数は、それぞれ4件ずつ、計8件であった。

 まずNIMSの竹内から電子後方散乱解析(EBSD: Electron Back Diffraction Patterns)と呼ばれる方法で、結晶方位と粒径の解析を試みた結果が報告された。この方法は、透過電子顕微鏡観察では上可能な、広範囲な領域を定量的に解析できることがメリットであると報告された。今回3種類のNb3Al線材に対して解析が行われ、方位差が2°以上の場合と、5°以上の場合の2通りの粒径分布が提示され、特性の低い試料の場合には、比較的大きな粒が残存することなどが示された。これまでにも、同じくNIMSの共同研究者から報告されているように、結晶粒の微細化が必ずしもJc向上に結びついていない結果が見られているが、本解析方法のように結晶方位を含めた解析により、組織とJcとの相関を解釈することもできるようになるかもしれない。

 KEKの和気からは、Nb3Al線材の磁化特性、特にマトリクスとして使用されているNbの影響について、SQUID、サンプル移動法などの磁化測定結果を元に、多角的に検討した結果が報告された。まず問題として挙げられたのが、NbのHc2を超えて、フィラメント結合らしき現象が起こり、急激に磁化が増大するという現象であった。その磁化増大は、磁場の掃引速度の影響によるものではなく、どうも試料のサイズ効果ではないかと指摘している。試料が長くなるにつれて、高い磁場まで磁化増大が続く、興味深い結果が報告された。

 NIMSの伴野からは、新しいタイプのCu安定化Nb3Al線材の相変態条件、Jc特性について報告された。この線材は、高いCu比、極細のフィラメント径(約8 m)、高い上可逆ひずみ(0.8%以上)などの特徴のほかに、材料学的にはNb(Al)過飽和固溶体に99%の強加工が加えられる特徴が報告され、これによって相変態温度が730 ℃まで低下することが報告された。いくつかの熱処理条件を設定し、昇温速度の影響がないことや、750 ℃に熱処理温度を下げると、低磁界Jc特性が向上する傾向にあることなどが報告された。結晶組織の微細化という観点からも、低温熱処理は望ましいと思われる。  核融合研の菱沼からは、高濃度のCu-Ga化合物粉末とVチューブを利用した、V3Ga多芯線材の組織と超伝導特性について報告された。特に、600 ℃×100 hという低温長時間熱処理が、Hc2 (22.5 T)、Jc向上に結びついているとの見解を報告している。質疑の中でも話題に上がったが、V3Ga相は比較的生成しやすく、Nb3Sn線材のJc特性よりも向上しないだろうかとの希望的観測も持ち上がった。

 東海大学の林からは、当グループが検討を続けている、Sn-Ta粉末を利用したNb3Sn線材について報告された。特に今回は、Sn-Ta系シート、ならびにSn-Ti系シートを用いたジェリーロール線材の結果が示された。報告の中では、Sn/Ta合金の合成や加工性、Nb3Sn生成層、Jcなどの良し悪しについて、わかりやすく表で示された。すべてにおいて良好な組成は、Sn/Ta = 4/1でTiを3~5%含む組成ということであった。

 東北大の小黒、さらに淡路からは、Nb3Sn線材の事前曲げ効果に関する内容が報告された。これまでにも当グループは、中性子回折による、3次元的な残留ひずみの解析を進めており、内部のひずみ状態を把握する上で、興味深い成果を報告してきている。まず小黒は、その効果を説明するためには、Deviatoric strainを考慮するだけでは上十分であることを報告した。そこで新たにこれに、静水圧依存の項を導入した新しいモデルを報告した。内部のひずみ状態をより深く探索する上でも、興味深い一歩と思われる。

 淡路からは、その事前曲げ効果に対する、補強材の位置を検討した結果が報告された。その位置によって、内部の残留ひずみ状態が異なっていることを報告し、補強材の外側配置では、Jcの最大値が向上する一方で、内側配置ではJc最大値がむしろ低下するという報告があった。

 最後には、古河電工の坪内から、事前曲げ処理したNb3Sn線材を撚り線化した結果が報告された。事前曲げをし、その上で撚り線化をするため、線材はかなり大きなひずみ状態を経験することになるが、その点も見越して、大電流容量化ということに焦点を絞っていくならば、リアクト&ワインドの撚り線導体という応用もあるかもしれない。

(物材機構:伴野 信哉)

5. システム

 システムに関連する発表としては1日目に「磁気分離《、「回転機《、「水素とコイルシステム《、「磁気誘導/産業応用《、「HTS応用《、『輸送機器』、2日目に「核融合《、「ITER《、『電力応用』、3日目に「送電ケーブル《、「LHD《等があった。超電導材料としては、Bi系の応用に関するものが15件、RE123系の応用が27件と最も多く、MgB2の応用が4件であった。RE123系の応用の中にはバルク体としての応用が10件含まれている。このうち、「磁気分離《、「回転機《、「水素とコイルシステム《、「輸送機器《の内容に関して、その概略を下記に報告する。 「磁気分離《のセッションでは新潟大の金山らが電磁石、超電導ソレノイドコイル、超電導バルク磁石を使った3種類の磁気分離装置の性能比較について発表した。磁気分離性能で通常の電磁石に対して、超電導ソレノイドコイル方式と超電導バルク磁石方式の優位性を明らかにした。

 「回転機《のセッションでは、住友電工の新里らが、Bi線材を用いた超電導モータを大型トラックに搭載する際の概念設計や、原理検証機の概要についての紹介を行った。京都大学の中村らはYBCO線材を適用した高温超電導かご形誘導/同期機について、モータとしての基礎特性と発電機として使用した場合の発電特性についての報告を行った。海洋大の須尭らは、アキシャル型推進動力用超電導電動機で使用するBi線材界磁コイルの開発について報告した。現時点での発生磁場は液体窒素冷却で1.2 T程度であるが、鉄心の無い、空心コイルを採用しているので、今後の線材の性能向上によって界磁としての性能も向上するとしている。同じく海洋大の佐野らは、アキシャル型超電導電動機の界磁に用いるバルク体の着磁法に関する報告をしている。液体窒素でバルク体を冷却するのに比べ、凝縮ネオンガスを冷媒として用いることでバルク体の捕捉磁束密度が約2.5倊の1.3 Tとなり、電動機の出力として25 kWが得られるとしている。鉄道総研の清野らは、液体窒素冷却したGd系バルク体と特殊な分布の磁場を発生する超電導コイルを組み合わせて磁気軸受を構成し、5 kN以上の荷重負担が可能であるとし、その実験結果を報告した。

 「水素とコイルシステム《のセッションでは、液体水素とMgB2や高温超電導線材の組み合わせを想定した発表が2件行われた。東北大の中山らは、太陽光発電や風力発電等の自然エネルギー発電源と、水素生成プラント、水素液化機、SMESを内蔵した水素貯蔵タンク、超電導送電線を内蔵した液体水素輸送パイプラインを組み合わせることで、環境負荷が小さく、自立性の高いマイクログリッドが構成できるとしている。東工大の野村らは、液体水素冷却SMESと燃料電池の組合せて非常電源、100 kJ/1 kW級試験機の設計について報告した。SMESは早い応答速度を持ち、液体水素を燃料とする燃料電池は高いエネルギー貯蔵密度を有するため、これらの特長を組み合わせることで総合病院やインテリジェントビルなどの非常用電源装置として使用できるという提案である。

 「輸送機器《のセッションでは、鉄道総研の長嶋らが、次世代線材であるRE系線材の浮上式鉄道用高温超電導磁石への適用検討について報告した。RE系線材を用いることで、鉄道車両搭載機器に上可欠な、軽量化と高信頼性化が可能であるとしている。鉄道総研の脇らは、従来式のNb-Ti線材による浮上式鉄道用超電導磁石の機械加振による耐久性検証試験に関して報告した。超電導磁石走行時の耐久性を短時間で効率的に検証するための加振方法について検討した結果、定置試験でも、実走行状態にきわめて近い振動モードを再現できるとしている。輸送機器関係では、別セッションであるが、鉄道車両搭載の超電導変圧器の開発に関連して、「Bi系線材《のセッションで、鉄道総研福本らから変圧器の巻線の交流搊失低減に関する報告が、「パルス管冷凍機《のセッションで、鉄道総研の池田らから変圧器用の65 K、1 kW級アクティブバッファ方式パルス管冷凍機の開発に関する報告があった。

(鉄道総研:長嶋 賢)