SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.3, June. 2007

4.革新的ビスマス系高温超電導線「DI-BSCCO®《で臨界電流値210 Aを達成

*大量生産方式による世界最高性能を実現       _住友電工_


 住友電気工業株式会社は、工業生産プロセスにより製造された革新的ビスマス系超電導線「DI-BSCCO®《において、77 K液体窒素中、自己磁場で臨界電流値が210 Aというビスマス系高温超電導線材としては世界最高の性能を確認した。同社では、本年4月から世界最高レベルの性能を実現した「DI-BSCCO®《(高臨界電流仕様で180 A)のサンプル供給を開始しており、現在180 A製品の量産体制を構築中である。今後210 A高温超電導線についても、量産のための技術開発に取り組んでいくとしている。

今回得られた210 Aは、2,000 m級の長尺線が得られる量産ロットから切り出した42 m長試作線の端末試料で確認されている。この試料は幅4.2 mmで、Jeは21 kA/cm2、第2世代薄膜超電導線でよく言われる幅1 cm換算のIcでは500 Aに相当する。42 mのEnd-to-end Icも201 Aに達している。

  ビスマス系超電導線は、いわゆるパウダー・イン・チューブ法で造られる銀シース多芯テープで、大きく粉末工程、加工工程、熱処理工程の3工程により製造されるが、同社のプレスリリースによると製造工程の全てにわたって均一化、無欠陥化などの改善をすることにより今回の大幅な性能向上を達成したとしている。特に、熱処理工程では同社独自開発の加圧焼成(CT-OP、Controlled Over Pressure)法により、従来のビスマス系超電導線では上可能であった超電導材料の密度100%化を実現し、高臨界電流、高強度、長尺化、高耐久性等の世界最高の実用性能を達成している。開発を担当した電力・エネルギー研究所ビスマス系超電導線グループの菊地昌志氏は「210 Aは画期的な成果だが、未だ配向乱れ、未反応相など改善すべき余地は多く、ポテンシャルとしては少なくとも1000 A、2010年までに到達すべき目標として掲げている300 Aは、より早い段階で達成したい《と抱負を述べている。同社のこれまでのビスマス系超電導線の開発経緯を、77 K、自己磁場中の臨界電流値の向上グラフで図1に示す。住友電工のビスマス系超電導線は、開発当初から臨界電流が向上しつづけており、CT-OPの導入を挟んで最近5年間で性能は2倊に改善されている。このペースが維持されるのであれば、菊地氏の述べるように来年にも300 Aが達成されることになる。

また、先ごろ行われた低温工学・超電導学会(5/16~5/18、千葉大学)において、超電導・エネルギー技術開発部の山出哲氏は、「200 A級DI-BSCCOは、あらゆる磁場、温度領域で従来のDI-BSCCO®の特性から改善されている《と発表している。例えば、30 K、5 T垂直磁場中の臨界電流は150 Aに達しており、より高温高磁場への利用用途拡大が期待できる。いうまでもなく、臨界電流値は、超電導状態で流すことができる最大の電流値であり、超電導線の最重要性能である。臨界電流値の向上により、電力用ケーブル、変圧器、モーター、発電機、電磁石等の応用製品において、電力品質やエネルギー効率の向上が可能になる。また、応用製品に必要な超電導線の使用量を削減できるため、製品のコスト低減と小型・軽量化を実現する。臨界電流値200 Aを超えることにより、様々な産業分野において新たな超電導線の応用が進展するものと期待される。     

                               


図1 住友電工のビスマス系高温超電導線材の臨界電流値の推移

  (ビス子)