SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.3, June. 2007

3.IBAD/PLD法によるY系線材開発の進展―長尺化とコストダウン _フジクラ_


 NEDO超電導応用基盤技術開発プロジェクトによるY(RE)系線材開発は二期目の最終年度を迎え、実用化の目安とされるIc > 300 A、長さ> 500 mの達成に向けて努力が続けられている。フジクラでは一貫してIBAD/PLD法による長尺化開発を進めており、今回200 m以上の試料で300 Aを超えるIc値を達成し、目標へ向けて大きく前進した。

  図1に今回作成された10 mm幅201 m長線材について60 cm毎に測定した長手方向特性分布を示す。超電導層については、最近超電導工学研究所吊古屋線材開発センターにおいて磁場特性改善が報告されたGdBa2Cu3O7-xを採用し、膜厚は1.8 μmとした。全長にわたってほぼ300 A以上の特性が得られており、60 cm長で最大374 Aであった。本試料を5 mm幅に裁断して0.1 mm厚の銅テープを張り合わせた導体構成とした試料について全長にわたって通電した結果、1 μV/cmの基準でIcはそれぞれ164 A、154 Aとなり、10 mm幅では318 Aとなった。図1で一部に劣化部が見られるが、充分短いため、銅を貼り合せることにより全長でのIc基準で300 Aを超えることが出来た。既に報告されているように、IBAD中間層については既に500 m長以上の連続合成を実現しており、今回の結果により目標値である500 m長以上の高特性線材がほぼ実現できるところに近づいたと言える。

最終目標に向けての今後の課題は、①更なる磁場特性の向上、及び②コストダウンのための製造線速向上、である。現状のRE123系線材においても50 K付近では既に他の線材では得られない充分な高特性が得られるため、この領域での応用展開が期待されているが、現プロジェクトにおいてはさらに高い目標として77 Kでの磁場特性向上を実用化の一つの指標としている。今回の上記試料については77 Kにおいてテープに垂直な磁界が3 Tかかった場合でIcは12 A程度であるが、目標値の30 Aクリア向けて、現在報告されている人工ピンの導入手法のなかから長尺線材プロセスとして適した方法を選択することを検討している。高いJcを出しやすいIBAD法中間層と、簡単にピンニングセンターの導入がし易いPLD法超電導層の組合せは、磁界中高性能化においては今後も有利に働くと考えられる。

 一方IBAD/PLD法の最大の課題は製造線速向上によるコストダウンである。現状の上記高特性線材において は、IBAD中間層において3.0 m/h、PLD超電導層において3.3 m/hであるが、本法は設備費用が比較的大きい真空プロセスなので、図2に示すように線速が向上すれば単位線長あたりのコストは大幅に低下する。図で実線はIcが1 cm幅あたり500 A得られた場合、点線は700 Aの場合に、単位長さ単位Aあたりに換算した設備投資及びメンテナンスの合計コストを、IBAD及びPLDについてそれぞれ示したものである。線速を速める手段は蒸発速度向上、膜厚低減、収率向上等があるが、周知のように米国においてはMgOを使った極薄のIBAD中間層の開発に成功し、100 m/hを超える線速が得られることが報告されている。全てのプロセスが数10 m/h以上の線速になると、線材コストがトータルで1-3円/Am程度になり、遜色ないコスト競争力が得られる。

フジクラにおいては、中間層の線速を向上するにあたって、これまでのGZO中間層の知見を生かした図3に示すような2層構造のIBAD中間層を提案している。本構造は比較的広い条件で成膜可能な<111>配向の2軸配向MgO中間層を用いて、立方体方位のGZOが150 nm程度の厚さで鋭く配向するというものである。本構造では高Jcを出すためのGZO/CeO2中間層で得られた知見をほぼそのまま生かすことが可能で、かつ従来に比べてGZOの厚さを数分の一に出来ることから、高速で高特性を得やすい構造となることを期待している。本中間 層にCeO2膜まで載せた段階で⊿φ~ 3°となり、積層したYBCO膜のIc値として100 Aを確認した。

 MgO、GZOともに当面線速30 m/hを得ることを目標としている。PLD超電導層においても、Jcを向上させる、収率を現状の10%程度から30%以上に引き上げる、レーザー出力パワー増大に耐えられるターゲット等の対策により、同じく30 m/h以上の線速で300 AのIc値を得ることを目標に開発を進めている。

 現在線材は全工程で10 mm幅のテープ線材として作製されており、昨年実証した固定界磁超電導モーター試験においては10 mm幅線材を用いて巻線した界磁コイルを用いている。しかしながらこのまま大規模にソレノイド巻線するのは困難なため、現在は5 mm幅に裁断した上で表面に銅などの安定化金属を半田で貼り合せ、さらにカプトンテープ巻きにより絶縁を施した導体構成を検討している(図4)。

本構造の線をソレノイド巻線して樹脂で含浸したレーストラック型コイルを試作した結果、液体窒素中繰り返し測定で特性劣化が起きないことが確認された(図5)。今年度中にIBAD/PLD法で作製された約5 km長のRE-123線材が回転界磁モーター、変圧器、限流器等の機器プロトタイプの開発に供される予定である。     

                               


図1 201 m長線材の長手方向特性分布


図2 線材の製造線速と設備コスト


図3 2層構造のIBAD中間層


図4 絶縁付き銅安定化RE-123線


図5 絶縁付き5 mm幅線材を用いて試作された樹脂含浸レーストラック型コイル

  (FJ)