ITER計画の中で、日本は超伝導マグネットの主要部分に加え、中性粒子ビーム入射加熱装置、高周波加熱装置、遠隔保守機器、ダイバータ、ブランケット第一壁、トリチウムプラント、計測装置など、ITER本体機器の約20%の調達を分担する(うち10%は日・EU間の役割分担に関する共同文書に基づくEUからの割譲分)。超伝導コイル関連では、日本はトロイダル磁場(TF)コイル用導体の約25%と中心ソレノイド(CS)用導体の全量を分担し、さらにTFコイル巻線の約半分、TFコイル構造物(容器)の全量を分担し、その貢献度は7極中で一番となった。このような国際的な期待に応え、ITER計画を滞りなく進めるため、日本原子力研究開発機構(原子力機構)では調達開始に向けた技術準備活動を強力に実施している。
Nb3Sn超伝導導体では、国内の4社(日立電線、三菱電機、JASTEC、古河電工)とNb3Sn素線の量産試作を行い、ITERの要求性能を満足する素線を既に開発した[2]。さらに、これらの素線を撚り線(中心スパイラル管の周りに900本のNb3Sn素線と522本の銅線を5次多重撚り)してケーブル化し、316LNステンレス製のジャケットを被せて所定の外径までコンパクションし、約30 mのTF導体の試作に成功した(図1)。日本を始めとして他極でも導体の試作に成功し、調達開始前の導体性能の確認として、各極が試作した導体をそれぞれサンプルに加工し、ローザンヌ工科大学プラズマ物理研究センター(CRPP、スイス)が所有するサルタン装置(図2)を用いた性能試験が本年3月から行われている。
TFコイルは高さ14 m、幅9 mのD型コイルで、トカマク本体はコイル18個で構成され、これに予備の1個を含めた19個が製作される。運転電流値は68 kA、最大磁場は11.8 T、蓄積エネルギーは約41 GJである。図3はTFコイル製作の主要工程と各極の役割分担を示したものである。TF導体は6極で製作され、これらの導体は日本及びEUで巻線される。一方、TF構造物は、前述のように全量日本で製作され、そのうち約半分は日本で巻線部と一体化され、TFコイル完成品としてITERサイトへ搬入される。残りの構造物はEUに送られ、巻線部と一体化されTFコイル完成品となる。原子力機構ではTFコイル製作に必要なこれらの技術について、産業界と連携して総合的な技術開発を実施している([3])。TF巻線では巻線機を既に試作し、上述した大型の導体をラジアル・プレートの溝に紊めるための高精度巻線技術の実証を図るとともに、Nb3Sn導体の熱処理に伴う巻線の変形量を予測する手法に関する技術開発も行っている。さらに、TF構造物は非常に大きな溶接構造物であることに加え、これまでに使用実績のない完全オーステナイトのステンレス材料を使用するため、数十トンレベルの素材製作に加え、狭開先TIG溶接や電子ビーム溶接とTIG溶接の併用による厚板(最大100 mm厚)の溶接施工法の確立など、実規模での技術開発を行っている。
これらに加え、上述のように先端機器である超伝導機器が国境を跨いで移動するため、各極における工程管理や品質保証、ITER機構によるこれらの全体管理などがプロジェクト成功の鍵となる。このため、原子力機構は暫定ITER機構や各極と連携して、詳細なプロジェクト・スケジュールの策定や品質保証に関する体制の検討・構築を進めている。早ければ2008年初旬に導体調達の一部が開始される見込みである。
[1] 超電導コミュニケーションズ、Vol. 14、No. 3、June 2005
[2] 超電導コミュニケーションズ、Vol. 15、No. 2、April 2006
[3] 2007年春季低温工学・超電導学会、講演概要集、pp94-101
(テンガム)