SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.3, June. 2007

1.2025年、首都圏*中京圏で営業運転! JR東海が超伝導リニア計画を発表


 去る4月27付け新聞等で大々的に報道されました、2025年(平成37年)の首都圏*中京圏での超伝導リニア計画につきまして、SUPERCOM事務局はリニア開発本部の寺井元昭開発担当部長にインタビュー取材を行いました。1970年(昭和45年)に東京*大阪1時間構想が発表されてから37年、少し遠ざかっていた夢が急に近未来像になりました。

  Q:突然の具体的なリニア開業の発表という印象ですが、その背景を教えてください。

A:この計画は平成19年3月期の決算短信の中長期的な会社の経営戦略のなかで触れているもので、詳しい背景はそこに記されています。要点の一つは増え続ける首都圏*近畿圏の利用者に対して、東海道新幹線の輸送能力が、ほぼ限界に来ていることです。間もなく品川駅始発を加えたダイヤ改正を行い、N700系のぞみで東京*新大阪を5分短縮して最短2時間25分で結ぶようになりますが、これ以上のダイヤの緻密化や大幅な時間短縮は大変厳しい状況です。一方で超伝導磁気浮上式鉄道については実用化の基盤技術が確立できています(SUPERCOM Vol. 14, No. 2で既報)。そこで代替的、発展的な”東海道新幹線のバイパス”を実現することを目標にしたのです。

Q:国の新幹線計画には中央新幹線がありますが、今回の計画はこれを前倒しして進めようとするものですか?新聞によっては想定ルートが描かれたりしていますが。

A:中央新幹線については、全国新幹線鉄道整備法という枠組みの中で、作り方のルールが決まっているものであり、現在、他の新幹線建設が先行していて、先が読めない状況にあります。当社が検討を進めていこうとしている東海道新幹線のバイパスは、首都圏*中京圏*近畿圏間の大動脈輸送を使命とする民間会社として、当社がイニシアティブを発揮しながら、当社として何をすべきか、何ができるかを、これから検討していくものです。また、経路もこれから検討する課題です。

Q:発表になった区間が首都圏*中京圏ですが、どうして近畿圏までではないのでしょうか?

A:首都圏*中京圏*近畿圏を結ぶことが実現できて最高に望ましい姿になることは当然のことですが、プロジェクトの規模の大きさから段階的に先ずは首都圏と中京圏の間を結ぶことを目標に置いたものです。

Q:リニア新幹線の建設費用は従来の新幹線よりかなり高そうですが?

A:リニア新幹線の建設費等の具体的な内容はこれから検討することになりますので、今の段階で申し上げられる状況ではありませんが、用地やトンネル、高架橋などインフラ整備と比べると、リニア特有の設備である地上コイルを並べた側壁や超伝導磁石を含めた車両の全コストに占める割合は小さなものです。

Q:リニア新幹線が狙う客層は?

A:現在、のぞみを利用している方々を想定しています。その分、多数の編成を用意して運行することになります。リニア新幹線開通後には、東海道新幹線は“のぞみ”から“ひかり”や“こだま”を中心としたダイヤに変わることが想定され、リニア新幹線の利用者だけでなく、のぞみ停車駅以外の利用者の利便性も高まると考えます。

Q:超伝導に関わる質問をします。山梨リニア実験線ではNbTi磁石のほかBi系線材を用いた磁石も試験的に搭載されましたが、リニア新幹線に高温超伝導磁石を用いる可能性について教えてください。

A:超伝導リニアについては、これまでに発表していますように技術的には確立できており、超伝導磁石についてもNbTiコイルで十分な特性が実現することがわかっています。Bi系線材を用いた磁石についても1台試作し、液体ヘリウムや液体窒素を使わない伝導冷却による20 Kで十分な発生磁場と永久電流特性を確認しました。但し、当時としては選りすぐりの線材を用いたのですが、それでもJe(線材断面あたりの臨界電流密度)がNbTi線材より低く、コイルの巻き数を増やしクライオスタットも大きくしたため、NbTi磁石よりも重くなってしまいました。高温超伝導磁石の使用は、将来、線材のJeの改善によって軽量化でき、またコストが安くなれば考えたいと思います。現在の標準的な形状のBi系線材の特性で例えると、20 K、5 TでのJeが40 kA/cm2を超えることが使える目安になります。Coated Conductorも含めて、より高温での運転は魅力的です。しかし、高温運転では超伝導接続ができないと接続部の抵抗が高くなってしまうことが永久電流運転の大きな障害になります。20 K運転であればMgB2線材も超伝導磁石の材料候補になりますが、まだ先々の話ですので、これら線材特性の発展を見ながら慎重に検討していきたいと思います。

Q:リニア新幹線の1編成にはいくつ超伝導磁石が搭載されるのでしょうか? また、超伝導線材の需要の規模はどれくらいになりますか?

A:超伝導磁石の数は、(車両数+1)×2となります。超伝導リニア列車は連接台車構造で、車両間、先頭、後尾に超伝導磁石を搭載した台車が配置されています。これが車両数+1の意味です。次の2は車両の両側に配するためです。さらに一つの超伝導磁石ユニットのなかに4つの超伝導コイルが入っています。例えば16両編成ならば、136個の超伝導コイルを使うことになります。NbTi磁石の場合、一つのコイルに約4 kmの線材が使われています。これが16両1編成分なら約500 kmです。現在、JR東海がおよそ120編成の新幹線を運用しているように、リニアでもかなりの数の列車を用意することになります。ですから、核融合実験炉や大型加速器には及ばないものの中規模な超伝導応用の分野に入ると思います。

Q:超伝導リニアの世界展開はありますか?

A:東海道新幹線沿線のような移動人口が多く航空機輸送でカバーできない地帯でないと、採算が合わないでしょう。今のところ、世界的に見ても他にそのような地帯は無いと思われます。また、超伝導リニアに限らず、高速鉄道は、その国の公共のインフラであり、それぞれの国の決断と責任において建設、運営されるべきであると考えております。しかし、将来、航空機燃料が高騰し運賃が著しく高くなった場合には、世界でリニア計画が持ち上がる可能性も考えられます。

以上、今回発表のリニア計画は、輸送力増強と夢の高速鉄道の実現という2つの目的が合わされたものであることがよくわかりました。国や沿線自治体の理解が得られ、また、山梨実験線での走行試験を経て、順調に建設計画が進むことを、そしてこの計画の具体化が、超伝導産業の全般的な発展に向けて良い刺激になることを期待します。 

                           

                               

  (インタビュアー 古戸 義雄、下山 淳一)