SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.2, April. 2007

9.臨界電流値180Aの革新的ビスマス系高温超電導線「DI-BSCCO®《のサンプル供給を開始 _住友電工_


 住友電気工業は、液体窒素温度(77 K)、自己磁場下の臨界電流値が180 A以上の革新的ビスマス系超電導線(DI-BSCCO®)のサンプル供給を開始し、6月末からは1000 m以上の長尺線材の量産体制に入ると発表した。

液体窒素温度以上で超電導状態を維持できる超電導物質の発見から20年になるが、現時点で応用製品に使用可能な実用的な長尺超電導線は、先に米国で発明されたイットリウム系ではなく、遅れて日本で発明されたビスマス系のみである。加圧焼成法(CT-OPTM:ConTrolled Over Pressure)を用いた同社の革新的ビスマス系超電導線「DI-BSCCO®《(Dynamically Innovative Bi2223線材)は、世界で初めての商業レベルの長尺線材であり、応用製品の開発は世界各地で行われており、超電導応用製品に昨今の大きな進歩をもたらしている。

一昨年からこのSUPERCOMに掲載されたDI-BSCCO関連の記事だけでも、9件を数えることができる。

1) 石川島播磨重工業を中心とする産学グループでは、このDI-BSCCO®を用いた世界で初めて液体窒素冷却による実用レベルの超電導モータを開発し、POD推進装置として水槽実験に成功している(2005年2月)。括弧内はSUPECOMの発行月

2) 2ヶ月後には同グループが世界で初めて全てのコイルを超電導化し液体窒素冷却運転に成功した(2005年4月)。

3) 鉄道総合技術研究所では、富士電機、大陽日酸、九州大学の協力のもとに、軽量化を目指し、新幹線等の高速鉄道で使用される架線電圧25,000 Vに対応した最大出力3.5 MVA級の主変圧器を試作した(2005年6月)。

4) 韓国電力向けの超電導ケーブル及び米国向けの超電導ケーブルが出航(2005年8月)。

5) 2005年のEUCAS2005では150 A以上臨界電流をもつ1000 m以上の線材が開発されたことが報告されている(2005年10月)。

6,7) Ic = 192 Aの線材の開発(2006年2月)、201 Aの線材の開発が春季低温工学・超電導学会で報告された(2006年6月)。

8) 米国のAlbanyケーブルプロジェクトで、DI-BSCCO®を用いた超電導ケーブルが世界で初めて実用地下送電路に接続され、世界で初めての超電導ケーブル同士の接続の実証も行われている(2006年8月)。

9) 常温ボア200 mmで8.1 Tの20 K冷凍機冷却マグネットを開発した(2007年2月)。

特に、Albanyケーブルプロジェクトでは2007年5月まで約10ヶ月の間送電を続けており、DI-BSCCO®が長期間の信頼性を有していることも立証されている。

加圧焼成技術の開発に携わってきた同社超電導・エネルギー技術開発部の小林慎一主席は、「2006年1月には200 A級という世界最高性能の高温超電導線を開発しましたが、以降、性能向上、コスト低減、量産技術の確立等に取り組み、今般工業製品として臨界電流値を150 Aから20%改善した180 A高温超電導線のサンプル供給を開始することとしました。《とコメントしている。  

                              
図1 DI-BSCCO®


図2 超電導ケーブル


図3 8.1 Tマグネット

   (C3-CO)