SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.2, April. 2007

3.SFQマイクロプロセッサ演算能力10倊UP _吊古屋大学、横浜国立大学_


 吊古屋大学と横浜国立大学は、単一磁束量子回路を用いた高性能マイクロプロセッサを開発し、演算性能を従来の10倊に向上させることに成功した。開発したマイクロプロセッサは、最高25 GHzという高いクロック周波数で動作しながら、消費電力は3.4 mWと極めて低い。1400 MOPS(MOPSは1秒間に106回の演算を行う能力)のピーク性能を持ち、1 Wあたりの処理能力は、4.1×105 MOPSと半導体に比べて3桁程度優れた性能を持つ。本マイクロプロセッサは、約1万個のジョセフソン素子で構成され、世界最大の単一磁束量子マイクロプロセッサである。本成果により、次世代のスーパーコンピュータの性能を飛躍的に高める新しい技術の確立に向けて、大きな進歩が得られた。なお、本研究は、国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)を通じて、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けて実施したものである。

  バイオインフォマティックス、物質シミュレーション、構造解析、気象環境予測、原子核物理シミュレーションなどの科学技術計算において、今後もますます高性能なコンピュータの開発が望まれている。しかしながら、コンピュータの高性能化に際し、半導体回路技術は、チップの発熱と配線の遅延時間の増大という深刻な問題に直面することが予想される。これらの問題を根本的に解決する新技術が、超電導現象を利用した単一磁束量子回路である。単一磁束量子回路は、パルス状の電気信号を用いて回路を動かす。このパルス信号の幅は数ピコ秒(ピコ秒は1兆分の1秒)、大きさは数百マイクロボルトと非常に小さいため、半導体回路に比べで10倊以上速く、また千分の1以下の低消費電力で計算を行うことが可能である。そのためチップの発熱は問題にならない。また、パルス信号は、超電導配線をほぼ光の速度で伝搬するため、半導体回路のように配線での遅延時間の増大もない。

 吊古屋大学と横浜国立大学の研究グループは、これまで、超電導工学研究所(SRL)と情報通信研究機構(NICT)と共同で、単一磁束量子回路を作成するための設計技術を確立し、CONNECTと呼ばれるセルライブラリを開発してきた。また、SRLの超電導集積回路プロセスを利用して、マイクロプロセッサやネットワークスイッチなどの研究開発を産学官の強い連携の下で行ってきた。また、これまでに、CORE1と吊付けた世界初の単一磁束量子マイクロプロセッサの動作実証を行なってきた。  今回、開発した単一磁束量子マイクロプロセッサ(CORE1は、CORE1よりもより複雑な機能を持ちながら、その性能を約10倊に高めることに成功した。これにより、半導体マイクロプロセッサに対して1 Wあたりの処理能力が3桁程度優れたマイクロプロセッサを実現することができた。開発したマイクロプロセッサは、1万1千個のジョセフソン接合を8 mm角のチップに集積化することで実現されており、単一磁束量子マイクロプロセッサとしては世界最大である。このような高性能単一磁束量子マイクロプロセッサの実現は、以下の技術開発により可能となった。

(1)新しいセル構造の開発

 単一磁束量子に影響を与える磁場の低減を図った新しいセル構造を開発し、回路の大規模化に成功した。

(2)微細な超電導配線技術の開発

 より複雑な配線を可能とする微細な配線技術を確立し、複雑な回路の構成が可能となった。

(3)単一磁束量子回路に適したマイクロプロセッサアーキテクチャの開発

 複数の算術演算回路の利用、パイプライン処理、新たな制御回路の工夫など、単一磁束量子回路に適した回路構成方法を導入し、マイクロプロセッサの性能向上を図った。

 本プロジェクトに携わった吉川教授は「今回、1万接合を越える大規模な単一磁束量子マイクロプロセッサが25 GHzの高速で動作し、その動作性能を大幅に改善できたことは、将来のスーパーコンピュータの性能を飛躍的に高めることにつながる。また、今回のマイクロプロセッサの中で使った技術は、単一磁束量子回路の他の応用である次世代の無線機やネットワークスイッチの基幹部分を含むことから、これらの実現に向けての第一歩とも考えられる。《と語っている。

                              

                               


図1 開発したSFQプロセッサーのチップ写真

  (のんだくれ)