超電導スイッチの性能の高さは従来から認められていたが、デバイスが動作する極低温(-269 °C)環境を作るために液体ヘリウムが必要であったことと、室温から極低温への高速アクセスが難しかったことのために、超電導や極低温に精通した研究者だけしか取り扱えないことが大きな問題とされていた。SRLでは、冷凍機で冷却し、室温からの高速電気信号線を実装した超電導スイッチを、周辺機器を含めて標準の19インチラックにシステム化することに成功した(図1)。これにより、室温のコネクタを用いて室温機器と接続できるようになり、一般ユーザも簡単に使用できるようになった。 このシステムと4台のパソコンでLANを構成し(図2)、イーサフレーム(注)による画像転送実験を行った。この結果、1台のパソコンから同時に複数のパソコンに対して画像転送要求を出した場合でも、超電導スイッチの制御機能によりきちんと画像が送られることを確認した。今回の成果により、超電導スイッチを誰もが使用できるようになり、実用化に向けて大きく前進することができた。
画像交換を行ったシステムはスケジューラと呼ばれる制御機能のついた4入力、4出力(4×4)スイッチを使用しており、各入出力ポートあたり毎秒1010ビット(10 Gbps)デジタル信号が伝送される経路の切り替えを、スケジューラが出力する信号で行うことができる。また、全ての入出力ポートにおいて、ビットエラーレート10-13台のネットワーク利用に十分な高い信頼性が得られた。
また、別システムになるが(図3)、10 Gbpsの入力4本をSFQのMUX回路で40 Gbpsにスピードアップした後、SFQの2×2スイッチで経路切り替えを行い、SFQのDEMUX回路で10 Gbpsの信号4本に戻して出力することに成功した。これにより、SFQ回路が40 Gbpsの連続データに対してもきちんと動作することを実証できた。MUX、DEMUX回路を用いた理由は、室温とSFQ回路が動作する極低温とを結ぶ電気信号線が10 Gbpsのデジタル信号までしか通せないからである。また、SFQスイッチへ入出力される信号を室温で40 Gbpsの光信号に変換し、光コネクタでネットワークに接続することもできた。 これら二つの実験から、スケジューラ付きのSFQ 4×4スイッチが、入出力を40 Gbpsにスピードアップしても動作する見通しが得られた。この場合スイッチの処理能力(スループット)は、40 Gbpsが4入力なので、160 Gbpsとなり、全二重通信を考えると320 Gbpsのハイエンドルータに対応する値となる。このような大容量スイッチであっても、データパスとスケジューラを合わせた消費電力は僅か0.7 mWであった。半導体スイッチは他にも多くの機能を含んでいるため一概に比較はできないが、SFQスイッチの半分のスループットでも100 Wを越える消費電力が必要とされており、圧倒的な違いがあると言える。これはSFQ回路自体の低消費電力性だけでなく、40 Gbps信号を並列化することなく処理できるSFQ回路の高速性にも起因している。
SRL低温デバイス開発室の日高睦夫室長は「今回のシステムにより、超電導SFQスイッチの高速性、高信頼性、低消費電力性、高機能性などの潜在能力の高さが実証された。今後はこれらの特徴を活かして大規模ネットワークルータ用スイッチを開発し、ネットワークの低消費電力化に取り組んでいきたい。また、SFQスイッチは経路を細かく切り替えることが得意なのでで、これを活かしたアプリケーションも探索していきたい。《とコメントしている。
(注)イーサフレーム
現在のLAN (Local Area Network)の通信方式は、「イーサネット (Ethernet)《と呼ばれる通信方式が主流になっている。イーサネットで転送単位となるパケットのことをイーサフレームと呼ぶ。
(都万)