SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.1, February. 2007

7.《コラム》2007年新春を迎えて 東京大学:立木 昌


新年おめでとうございます。

“超電導コミュニケーションズ”から毎回いただいている非常に多くの情報から超伝導研究はますます重要になってきたことを実感しています。将来を見据えて開発研究をより良い形で実現するためにも超伝導の基礎研究が、ますます必要になったということについて、少し私見を述べさせていただきたいと思います。

末永く人類が生きながらえていくためには、十分なエネルギーの供給源が是非必要であります。石油、石炭のような化石燃料は、いずれ枯渇するので将来は天然の核融合炉である太陽からのエネルギーに頼るよりほかに手段はないでしょう。その手段としては、太陽光電池、風力発電で得た電気を直接使うか、太陽エネルギーを何らかの触媒を用いて水を水素と酸素に分解して蓄えるか、椊物をアルコール類に変えて蓄える等が考えられます。

そのとき輸送の問題や環境問題から考えても、エネルギーを電気のかたちで使うのが理想的でしょう。現在は国内の発電所から電気は電線を用いて家庭、交通機関、工場等に運んでいますが、将来は日照時間の長い砂漠で太陽光電池を用いて発電し、その電気を世界の各地に送ることになるでしょう。銅線の電気抵抗の発熱によるエネルギー搊失はかなり大きいので、そのとき超伝導電線が出番になります。現在、銅酸化物高温超伝導のBi2Sr2CaCu2Ox, Bi2Sr2Ca2Cu3OxやYBa2Cu3O7を使った超伝導線材の研究が精力的におこなわれ、その実用も間近にせまっています。この超伝導線材が、国内の送電、超伝導リニアモーターカー、医療機器等に使われるのを期待しています。しかし、超伝導線は銅線に比べコストが高くつくこと、冷却に77 Kに沸点をもつ液体窒素を使うとしても冷却費がかかるという問題点があります。上に述べたような、砂漠で発電した電気を世界の各地へ送るとなると、室温超伝導体を見つけることが必須になると思われます。

 残念ながら室温超電伝導は、今のところまだ夢の段階です。最近の数年間に数多くの新しい超伝導が発見されておりますが、まだ40 Kを超えるものは現れてなく、今のところ1993年に発見された水銀銅酸化物の135 K、それに圧力をかけたときの164 Kが超伝導転移温度の最高値であります。しかし、理論的には室温超伝導が出現して悪い理由はありません。室温超伝導体の物質探索を行うには、ある程度の理論的指針が必要と思います。それに対しては銅酸化物の高温超伝導の機構を解明することがよい助けとなるでしょう。この銅酸化物超伝導体はTcが高いと同時に、温度がTc以上の常伝導相でもいろいろと異常な振る舞いをすることが観測されています。たとえばホール濃度の少ない側の試料で、超伝導状態のギャップと似た擬ギャップが角度分解光電子分光等の手段で観測されています。機構を解明するということは、超伝導状態と常電導状態のすべての性質を統一的に理解することなのですが、そのような理論はまだ出来ていません。

 ニオブなどの金属超伝導体では原子当たりの伝導電子数が1より多くトーマス•フェルミー遮蔽距離が短く、電子間のクーロン力は遮蔽され自由電子的に振舞い、電子*格子相互作用も遮蔽されて短距離力になります。この場合は以前に多くの研究者により計算されているように、Tcは40 K以下になります。一方、銅酸化物が高温伝電導を示す領域では伝導キャリアー(ホールか電子)の濃度はかなり少なく、クーロン力は遮蔽されにくく、伝導キャリアーは強く相関しながら運動しています。この系では銅イオンはスピンを持っているので、伝導キャリアーはスピンとも強い相互作用をします。また酸素イオンは軽いので振動振幅が大きく伝導キャリアーと格子振動との間にも強い相互作用が働くことが期待されます。最近、LSCOやYBCOの超伝導を示すドープ領域の試料を用い中性子非弾性散乱や高輝度角度分解光電子分光の実験が行われ、CuO2層の縦光学フォノンの振動数分散に異常なソフトニングが観測されたことからこのことが確かめられました。以上金属超伝導体と銅酸化物高温超伝導体の性質の違いの一部をお話しました。

 さてもし室温超伝導体の機構も銅酸化物超伝導体の機構の延長線上にあるとすれば、その超伝導出現機構はどのようなものでしょうか、またどのような物質を探索したらよいでしようか。まず室温超伝導体出現機構はBCSの枠内のものでしょうか、それとも全く違ったものでしょうか。私は室温超伝導体も電子対が形成され、超伝導状態はその対の波がコヒーレントな状態を形成するという点では、BCS理論の枠内であろうと考えています。しかし電子対が出来る機構はBCS理論のものとは全く違ったもっと強力なものであろうと考えています。物質探索としては、比較的少数の伝導キャリアーと軽い原子で強い相関系をつくっている化合物に室温超伝導の出現を期待しています。

 一昨年の6月に米国のインデイアナ州のノートルダム大学で「室温超伝導の可能性《というWorkshopがあり、約50吊の研究者が集まり主として理論家が講演を行いました。

日本から私も参加いたしました。軽い原子である水素を含む化合物でその可能性がある等いろいろの意見が発表され、この分野に活力を与える助けとなりました。この種の意見交換が引き続き行われることが望まれます。  今年も超伝導研究がますます盛んになり、多くの立派な成果が上がりますことを祈りつつこの稿を終わりたいと思います。