SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.16, No.1, February. 2007

3.Nb3Sn線の新しい特性向上法を発見、実用化にめど!! _東北大、古河電工_


 東北大学金属材料研究所 強磁場超伝導材料研究センターは、古河電気工業と共同で、多くの強磁場超伝導磁石に用いられている実用Nb3Sn超伝導線材を繰り返し曲げることで、超伝導特性の大幅な向上ができることを発見し、そのメカニズムの解明と、実用の両面から研究を行ってきた。この度、この技術を超伝導マグネットの巻線プロセスに取り入れることで、実用化のめどがついたと発表した。

  すでに多くの超伝導機器に用いられているNb3Sn超伝導線は、わずかな歪みで超伝導特性が大幅に低下してしまうため、コイル巻線での歪みが加わらないように超伝導磁石を製作してから熱処理を行う方法(Wind&React法)が一般に用いられている。それでも、銅などの金属と複合化したNb3Sn線材を、4.2 Kに冷却したときに発生する熱歪みにより、超伝導特性が低下することは避けられないことがよく知られている。ところが、研究グループは、実際にNb3Sn線を繰り返して曲げると超伝導特性が大幅に向上する事を、世界で初めて発見した。この現象は現在、事前曲げ歪み効果 (pre-bending effect)と呼ばれている。その後、研究グループは、メカニズム解明と実用化の両方の観点から、研究を進めてきた。実用化としては、図1に示すように、10個のプーリー (滑車)を使って、長い超伝導線を連続的に、両方向に曲げる装置を製作して、Nb3Sn線に繰り返し曲げた結果、臨界電流は図2に示したように大幅に向上することが分かった。その値は、例えば20 Tの磁場中では2倊以上の向上が見られている。さらに、上部臨界磁場、臨界温度も共に向上することも分かっている。最近、この手法を実際のコイル巻線プロセスに応用して、Nb3Sn線を熱処理した後、図1の装置を用いて繰り返し曲げ歪みを与えてから巻線して、単層の超伝導コイルを製作した。この方法は、Wind&React法とは逆のReact&Wind法に事前曲げ歪み処理を組み合わせたもので、巻線行程に図1の点線で囲われた部分に示したような余分なプーリーを加えている点に特徴がある。その結果、超伝導線をコイル形状にした実験でも、超伝導特性が向上することを確認した。この装置は、コイル巻線機であるので、そのまま実用コイルの製作に適用することができるため、事前曲げ歪みを組み合わせた、「事前曲げ歪みReact&Wind法《の実用化にめどがついたことになると同時に、これまで行われてこなかったReact&Wind法の実用化という観点でも大きな意味がある。

 一方で研究グループは、当初は「ありえない《とされていたこの現象のメカニズム解明のために、引っ張り歪み下の超伝導特性の評価、中性子回折を用いた残留歪みの直接測定など、多角的な研究を応用化研究と平行して行ってきた。その結果、Nb3Snと複合化した他の材料 (銅やブロンズ、さらには補強材)が塑性変形を起こすことによって、線材の長手方向だけでなく、径方向の残留歪みも緩和することで、Nb3Snにとってより歪みフリーに近い状態となっていることを突き止めた。逆に言うと、複合材であるNb3Sn線材は、他から受ける3次元的な歪みの影響によって、予想以上に超伝導特性を劣化させていたこととなる。事前曲げ歪み処理は、歪み状態をより理想的な状態に近づける効果があるために、大幅な超伝導特性向上につながった事になる。この手法は、歪みに弱い材料であれば、同様に適用できると予想され、高温超伝導体の場合にも、研究する価値が大いにあると言える。  この新しい手法の実用化によって、Nb3Sn超伝導コイル製作のプロセスを簡素化すると同時に、歪み状態を最適な状態に持って行くことが可能となるため、大幅なコストダウンと性能向上が見込まれている。研究グループでは、線材メーカーとマグネットメーカーの共同研究に発展させて、供給からマグネットシステム開発までの総合的な実用プロセスの確立を目指したいとしている。

本研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の平成16-18年度産業技術研究助成事業によって援助を受けて実施したものです。

                               


図1 繰り返し曲げ印加巻線装置の概要

供給ボビンに巻かれた超伝導線は、プーリー (滑車:図中の丸形状の部分)を通ることによって繰り返し曲げられた後、コイルボビンに巻き取られる仕組みになっている。図中の点線で囲われた部分が、事前曲げ処理を行うプーリーで、この大きさを変えることで曲げ歪みの大きさを変えることができる。


図2 繰り返し曲げ処理による臨界電流の向上

繰り返し曲げ後では、従来法(何もしない場合)と比べて臨界電流が大幅に向上するとともに上部臨界磁場の向上も見られている。このため、特に高磁場ほど向上率が高くなっている。

(芋)